人たらしヒロインは無自覚で魔法学園を改革しています

ぺきぺき

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第7章 ーノエル編ー

30 オールディ訪問

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申し訳程度に抵抗しながらノエルは頭の片隅で対抗策を考える。…魔法に耐性があるって言ってたな?でも黒薔薇騎士団と比べたら白薔薇騎士団は貧弱でそんなに強そうにはみえない。耐性程度なら魔法で倒せないだろうか?
待てよ、そういえば光魔法による強化術はよくなされるんだよね?じゃあ光魔法は効くのか?


「私を妊娠させたら騎士団長でも約束されたの?」

騎士がノエルの服に手をかけようとしたところでぴくりと止まる。その一瞬で自由になった左手を騎士の額に押し付けて魔力を流した。
頭から一気にエネルギーを奪う。

そうして騎士はあっさりと意識を失った。


光魔法は人体の強化をできるが、それと逆に人体を弱めることもできる。光を出すのではなく、吸い取るイメージだ。強化術をマスターしたノエルに光魔法の師であるミネルバが最後に教えた魔法だ。

教会や騎士団に魔法の知識がなくてよかった。こればかりはルクレツェンの魔法占有政策に感謝である。


騎士をベッドから蹴り落とし、念のためにと肩を外しておく。

異変を感じた奴らの仲間が襲って来ても大丈夫なように身構えるが、10分ほど経っても何も起きなかった。



ー---



水魔法は使えなかった。他の魔法もダメだ。光魔法は使えたが、渾身の強化で結界を殴ってみてもびくともしなかった。結界そのものを破壊するしかない。

気づけば閉じ込められてから二時間ほど経ち、深夜になっていた。

コンコンと部屋の扉が叩かれてドキリとする。…首尾よくいったのか様子を見に来た?とりあえずこの騎士ベッドに運んどく?

扉がガチャガチャとされるが開かないようだ。カギはかけていなさそうだったが、これも結界?

「ノエル?中にいるんだろう?大丈夫かい?」

「…ハロルド?」

その声は確かにハロルドだ。私が連れていかれたのに気づいて探しに来てくれたの?でもなんでここだって…。

「プレゼントを使ってここを見つけたんだよ。中の音、何も僕には聞こえないけど、もし聞こえているならノエルも使ってみて。」


プレゼント?ノエルはハッとして右手を見た。指輪の色が少し変わっている。慌ててノエルも魔力を流すと扉の向こうに赤い光線が伸びる。

「ノエル、そこにいるんだね?部屋の外には見張りも誰もいないけど、鍵もかかっていなさそうなのに扉があかないんだ。きっと結界術じゃないかと思う。覚えたてで難しいと思うけど、結界術で解除してみれない?」

「え、無茶なこと言わないでよ。」

ノエルの文句はハロルドには聞こえない。ハロルドの語りは続く。

「僕が思うに、聖属性って言うのは空間を仕切る魔法なんじゃないかと思うんだ。部屋の外と中を別空間にして指定した人物しか入れない・出れないようにしているんじゃないかな。
だから、ノエルが小さな穴でもあけられたら、一瞬で結界が崩れるんじゃないかと思うんだ。」

小さな穴ね…。ノエルは部屋の扉に手を置いた。手からじわじわと祈りの力を魔力に混ぜて結界の一点に流す。
ミネルバのスパルタ光魔法教育を受けておいてよかった。おかげで同期では一番か二番に魔力コントロールが上手いだろう。

一点突破でなんとか小さな穴をあけてみる。慣れない作業に一気に魔力を持っていかれたが穴は開いたようだ。周りにあった結界がなくなったのを感じて扉を開く。こんな小さな穴で開くなんてもろい。


扉の先にいた人物に硬直した。白騎士の制服をきた眼鏡に金髪の男が立っていたのだ。

…だまされた!?

「ああ!ノエルよかった!顔が青いけど無事そうだね!魔力きれそう?早くここを離れよう!結界がなくなったのがバレるかも!」

「…ハロルド?」

声はハロルドだった。ハロルドもああそうだったというように髪をもしゃもしゃして色をいつもの茶髪に戻した。どうやら変身魔法を使っていたらしく一瞬でハロルドの顔に戻った。

「僕の部屋の前で白薔薇の騎士が見張りをしていたんだ。初日の夜に教会内を徘徊してたのがバレて見張りがついたのかなと思ったんだけど、念のためノエルの所在を調べたら隣の部屋にいないからさ。
魔力まだある?ないならこれ飲んで。とりあえず移動しよう。」

出てきたのはいつかにも飲んだ魔力回復の苦い薬の丸薬版である。一息に飲み込むが後味が飲み薬の非じゃないぐらいに苦い。


「さあ、行こう。城も出た方がいいかも。シャーリーには悪いけど…。」

「待って。大聖女様の部屋に行くわ。多分、彼女は味方だと思うの。」

神官のジョセフという男、セシルに報告をさせていたという割にはノエルを舐めていたように思う。『猫かぶり』と言われたがノエルがセシルの目にそんなにも大人しく映っていたのか、疑問が残る。
黒薔薇騎士団で血の滴る魔獣ステーキの話をしていた時もセシルはそこにいたし。

…もしかして、大聖女が意図的にノエルに関する情報操作をしていたのではないか。


足早に階段を上ろうとすると、にゃーという鳴き声がした。驚いて声の方を見ると、下りの階段の方に、なんと、よく見た青味がかったグレイの毛並みの猫がいるではないか。


「オズマ!」

「ああ、やっぱりついてきてたんだね。こっちに行こう。」

ハロルドはさも当然と言うようにノエルの手を引いて下に降りていく。

「ちょ、ちょっとハロルド!今は…!」

降りた二階では何やら黒い制服の人だかりができている部屋があった。黒薔薇騎士団である。際立ったムキムキマッチョが先ほどのジョセフをぐるぐる巻きにして連行するところだった。
ジョセフは寝間着を越えて裸だった。

「団長?」

「おお!ノエル!無事だったか!ノエルなら白騎士の一人ぐらい倒してしまうだろうとは思っていたが、心配する必要はなかったな。自分で結界まで解いちまうとは。
…小僧はなぜ白騎士の制服をきているんだ?」

奥からはほぼ裸の女性も縛られて出てくる。目は青い。

「僕の部屋についてた見張りから失敬したんだ。」

「…その見張りは?」

「僕のベッドに縛り付けてきた。」

団長は少し信じられないようにハロルドを見たが、すぐに背後から声がかかり姿勢を正した。


「まあ、聞きたい話もあるでしょうから、今から私の部屋に来なさい。」

メアリローズはゆったりとしたドレス姿で部屋から出てきた。ちらりとハロルドを見る。

「あなたは、その部屋に捕まえている白騎士をこちらに引き渡してくれるかしら。あとはサミュエルに任せるわ。」



ー---


ハロルドと離れるのは少し心細かったが、突如現れたオズマが器用にノエルの肩に登ってきてにゃーと鳴くので、ハロルドの方はあっさりとノエルから離れて行ってしまった。
…ちょっと、説明してよ!自分が理解しているからって、相手が理解しているわけじゃないのよ!これだから天才は!それに私、白騎士に襲われかけたのに、一人にする?

ノエルはむっとしていたが、むっとした内容をハロルドに言うのも恥ずかしいので、大人しくメアリローズとお茶をしている。
メアリローズの横には無表情のセシルが控えている。


「まず、ジョセフ・モローはセシルの話をしたと思うけど、彼女は私の指示であなたの情報を少し彼に流していただけよ。」

「そうとう大人しい子として話したみたいですね?」

「まあ、神殿に来たばかりのシャルローズはそうだったしね。何も疑わなかったみたいよ。」

「…私は囮ですか?」

「そうよ。」

メアリローズと現神官長のサミュエルは協力関係にあるらしい。モロー家の中でも血筋に固執する筆頭があのジョセフだったそうだ。しぶとく残る血筋重視派のトップを追い落とすために考えたのがノエルと言う餌をルクレツェンから呼ぶことだったそうだ。

「あなたの性格はクリスティナ王女殿下から報告を受けていたから、ジョセフに従うことはないし、多少危険でも問題ないだろうと思ったのよ。素敵な騎士ナイトもいるようだし。」


自分の身を危険にさらされたノエルは文句を言ってやりたかったが、ノエルがメアリローズの立場なら同じことをやりかねない。いや、やる。

…血は争えないということか。


「シャルローズ、あなたの母の未来視についてはどこまでカイル殿から聞いたの?」

「大聖女の使う術の一つで、歴代でも使えた大聖女は少ない、としか…。」

「ええ。初代聖女様は使えたとされている術だわ。心の向いている事象に対する未来の候補が視えるの。時にはあり得る未来を複数視ることもあるから、脳に大変な負荷がかかると言われているわ。凡人には使いこなせない技なの。
シャルローズもそうだったわ。辺境ではあなたとカイル殿の未来だけを見ていたけれど、王都に呼び戻されて様々な未来を強制的に見せられて、すっかり疲弊してしまったわ。」

メアリローズは「わかるわよね」とノエルに問いかける。

「死にかけたシャルローズをモロー家から救い出した時には余命はもうわずかだったわ。シャルローズが最後に私に頼んだのはあなたのことよ。『ノエルが17歳の夏にオールディに来ることを選んだら、結界術を学ばせてやってほしい』と。」

「じゃあ母は私がオールディに来ることも、結界術に適性があることも視ていたと?」

「ええ。それに『青い猫と茶髪の青年を連れていなかったら守ってあげてほしい』とも言われたわ。」

…青い猫と茶髪の青年?オズマとハロルド?膝の上のオズマがにゃーと鳴いた。

「その猫、ただの猫じゃないわね。精霊じゃないかしら?私にはあなたと対面したときから肩の上に視えていたわ。」


メアリローズは何でもないことのように言うが、ノエルはオズマを見下ろして固まってしまった。


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