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第7章 ーノエル編ー

31 オールディ訪問

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翌日から、メアリローズによるスパルタ指導が始まった。

「歌の基本がなってないわ。シャルローズにいったい何を習ったの?それじゃあ祈りの結界にはアクセスできないわよ。あれは普通の結界とは違うのよ。今のあなたじゃあることはわかっても接触はできないわ。」

…結界術ではなく、歌のスパルタ指導が。

朝起きてすぐの時間にスパルタ指導を組まれ、その後はインターンの仕事をする。さらに夜には結界術や強化術の大聖女流の使用方法を学んだ。王都滞在の残りの5日間をノエルはへろへろになって過ごした。

朝と夜の指導にはハロルドが付き合ってくれて、結界術の大まかな仕組みがわかった。


まず、オールディには歌の精霊がたくさんいるということが、メアリローズの証言で判明した。大聖女に就任し、宝石目を開眼すると人ならざる者が視えるようになるそうだ。
祈りの結界は通常の結界術を歌に乗せて展開することで、精霊たちの力も使い、結界術が使えても壊せない強固なものになっているのではないか、というのが一同の推測だ。

そして、祈りの結界の下では魔力耐性のある者が生まれる。ここの作用は不明だが、オールディの人が魔力があってもなくても魔法に耐性があるというのは検証から確かだ。
その中で、黒薔薇騎士団は特に耐性が強い。彼らは強靭な肉体をそろって手に入れていることから、肉体を鍛えることで魔法耐性がさらに上がっていることが推測される。実際に彼らは結界の内外でルクレツェンの魔法騎士と対等に戦う。
…この発見はルクレツェンの魔法族に激震を走らせるだろう。

「僕の部屋の見張りが白騎士でよかった」とはハロルドのセリフだ。

結界術が空間を分ける魔法だというハロルドの推測も概ね正しいようだ。メアリローズの技も個人を限定して見えなくしたり、部屋一室の防音効果をあげたり、やわらかいはずのものをものすごく硬くしたりということができるらしい。
これを聞いたハロルドが新魔法の開発にはまった。5日の間にノエルも、メアリローズまでも新しい技を複数身に着けた。本当に天才である。


実は、ハロルドにもらった指輪はあの騒ぎのあとに割れてしまった。恐らく魔封じと言われる結界の内外で何度も使ったのがいけなかったのだろう。保持していた魔石内の魔力が枯渇して寿命が来てしまった。
ハロルドは「しょうがないね」と言ったが、ノエルはすこし寂しかった。
どうせまたすぐにハロルドが新しい指輪を出してくるんじゃないかと思ったが、その後は何もない。普段通り、天才で変人のハロルドである。


そうしてノエルたちはオールディの王都を出る日となった。

「お世話になりました。」

「…結局、祈りの結界には接続できなかったわね。これからも毎日、歌の特訓をするのよ。」

メアリローズ、スパルタである。ノエルが祈りの結界に接続するに至らなかったことが本当に残念なようで、軽くため息をついた。…もしかしたら、勝手に後継者にして自分は隠居しようとしていたのかもしれない。この伯母ならありうる。

「これからは近況も報告しなさい。あなたは私の姪なのだから。」

メアリローズからの姪発言にノエルは感激した。

「…はい!」

「ハロルド・フィリウスと結婚するのに貴族籍がいるなら、ルロワ家に用意するわ。」

「……はい?」

「フィリウス家はいかに平民人気のある家でも、ルクレツェンでは7大貴族。貴族と縁故がある方がいいでしょう?」

「…私とハロルドは別に恋人じゃないわ。」

「あなた、告白させたまま放置してるんでしょう?彼に聞いたわ。餌をあげなきゃ男は逃げていくわよ。」


…なんで大聖女と恋バナなんてしてるの、ハロルド。
でも、メアリローズの言葉は確かにノエルの胸に刺さった。



ー---



オールディからの帰り道はノエルが生まれた辺境での調査を行う。調査には黒薔薇騎士団の団長が付き添ってくれて、ずっと食べたかった血の滴る魔獣ステーキを食べた。

…翌日お腹を壊した。


辺境にはノエルが暮らしていたころの職員が残っており、ノエルの再訪を喜んでくれた。シャーリーは調査結果の報告のためにルクレツェンに帰ったが、ノエルはなじみが多いという理由で一日長く辺境に泊った。

辺境にはハロルドと魔法警察のウィルも残った。ウィルは「オールディでの仕事は上手くいった」と言って、この後は海の向こうのブルテンという国に向かうそうだ。
…一体、何の仕事をしていたのだろう?団長と話しているところはたまに見たが。


さよならの宴の後、ノエルはハロルドとお土産を仕分けながら、旅の間の話をした。ハロルドの聖属性に関する考察レポートはシャーリーが持ち帰って一緒に上司に提出することになっている。『これ、研究員職もらえるかもしれない』と読んだシャーリーが呆然としていたのをよく覚えている。

「これ、魔法カメラでとった海とか建国祭での写真。」

ノエルが写真を数枚、ハロルドに渡す。

「ありがとう。」

「あ、あのさ、ハロルド。」

「ん?」

…がんばれ、ノエル。言うんだ。『餌をあげなきゃ男は逃げていく。』ノエルは顔を真っ赤にしながらハロルドに向き直る。

ハロルドは写真を見ていた顔をこちらに向けて不思議そうな顔をしている。

「結婚は…まだわからないけど…、試しにハロルドの恋人になってみたい…。」

正直、ハロルドのことがどれくらい好きなのかはわからないが、自己流でノエルを助けてくれるハロルドに惹かれているところはある。
これが全部他の誰かの物になると思うと、ノエルの胸が刺されるように痛む。そう、だからまずは恋人から。


「そうか!そうだよね!もちろん!嬉しい!嬉しいよ、ノエル!」

写真を荷物に放り投げたハロルドはノエルの腕を引いて思い切り抱きしめた。思ってたよりも大分たくましい体にどぎまぎしてしまう。

「僕、がんばるよ。必ずノエルに結婚したいって言わせてみせるからね。」

ハロルドは「恋人、恋人かあ」と呟きながらノエルの顔を覗き込む。

「キスしてもいい?」

「そ、それはまだだめ!」

思わず照れて否定してしまったノエルはしゅんとしたハロルドに、あわわとなる。しかし、ハロルドの切り替えは早かった。

「わかった。じゃあ、していいときに言ってね?」

「…え?」

「とりあえず、うちの実家に来て。父上と母上がノエルを気に入るところを見せるよ!」

「…え?」

「僕もノエルの父上に会いたい。きっと気に入られてみせるよ!」

「…あ、ちょっと待ってハロルド、『結婚はわからない』ってそういうことじゃないの!」

「え?親に反対されるのが不安とかじゃないの?雑誌にはそう書いてあったけど。」

「それよりも前の段階だから!ハロルドと長くやっていけるのか、不安っていうか…。とりあえず、私のパパンはまだだめ!」


しかし、ハロルドの両親に会う流れは止められず、この二週間後にノエルは改めてご挨拶することになる。二人とも大変に喜んだのは言うまでもないだろう。



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