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第三章 無計画な告白
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翌朝、朝食のために食堂へ行くとすでにキャサリンがばっちりと化粧をし、髪をセットして優雅に食後の紅茶を飲んでいた。
「あら、随分遅いお越しですね、旦那様。」
「ああ…。」
昨晩、あの後、マリアが騒いで大変だった。キャサリンに白い結婚を宣言した後も離れで騒いでいるマリアをなだめるために呼び出された。
ヨーゼフがキャサリンと初夜を過ごしていないか心配したらしく、抱いてくれとしつこかった。どうしてもその気になれず、手はでなかったが、代わりに高価なアクセサリーと舞踏会への参加を約束させられた。
舞踏会と言っても、正式なものにマリアは同伴できない。正体を隠す、いわゆる仮面舞踏会だ。あまりにもマリアの鬱憤がたまるとこうして晴れやかな場に連れて行かされるのだ。
というわけで、ヨーゼフはやや寝坊気味だった。
「…君は今日はどうするんだ?良ければ屋敷を案内しようか?」
新婚ということでヨーゼフは兄であり国王であるエアハルトから三日間の休みをもらっている。
「いえ。それはペーターに頼むので。結婚祝いへの返信もしなければなりませんし。旦那様は気にせずに離れでおくつろぎください。」
キャサリンは綺麗なヒューゲン語でそう言うと、席をたった。慌てるのはヨーゼフだ。
「もう行くのか!?」
「ええ。」
「もう少し話をしないか?」
「…何のために?」
キャサリンは怪訝な顔でヨーゼフを見る。
「私たちは夫婦になったのだから、お互いについて知るのは当然のことだろう?」
「まあ、呆れた!」
「あき…!?」
ヨーゼフはぎょっとしてキャサリンを見た。
「旦那様、白い結婚とは、書類上は夫婦になっても心を通わす夫婦にはならない、という意味です。白い結婚を宣言された旦那様がそのようにとんちんかんなことをおっしゃるだなんて。」
「そ、それは…!しかし、君には私の仕事上のパートナーとしてふるまってもらう必要もある!お互いを知ることは必要だろう?」
「いいえ。不要ですわ。」
はっきりと断言されて、ヨーゼフは言葉につまる。
「仕事上のパートナーなら仕事のことだけ知っていればいいのです。私の動向が必要な仕事の前には必要な情報交換をいたしましょう。でも今は旦那様も三日間の休暇中のはず。お仕事のお話など、ないでしょう?」
キャサリンはにこりと微笑んだ。
「私、旦那様のお仕事は楽しみにしています。きっとその時には楽しい会話ができますわ。」
つまり、仕事以外で関わるつもりはないから失せろ、という意味である。
ーーーー
三日間の休暇の間にも、キャサリンは屋敷の使用人たちの心をわしづかみにしていた。
大公夫人としての最初の仕事を補佐した家令のペーターは、「まさしく大公夫人にふさわしい教養をお持ちです」と絶賛した。
ヒューゲン社交界についてキャサリンに指導してくれている夫人は、「すでに教えることなどないほどヒューゲンのルールにも精通しています」と太鼓判を押した。
こちらで用意したキャサリン用の侍女たちは、「使用人の私たちにもお優しい素晴らしい方です」と心酔する様子を見せた。
ここしばらく、マリアが離れでヒステリックに騒いでいただけに、洗練されたいかにも高位貴族令嬢のキャサリンの姿に皆がほれ込んでしまったのだ。
ーこれこそが大公家のあるべき姿だ、と。
ヨーゼフの休暇が明けると、キャサリンも積極的に社交を始めた。バッツドルフ夫人としてお茶会に出かけ、コネクションを作っている。
先日など、ヨーゼフの知らぬ間に王城へ来ていて、王妃とその子供たちとお茶会をしていた。『なぜ知らせない!?』と怒っても、『旦那様には関係がない』と遠回しに切り捨てられる。
ブルテン流の暴言に聞こえないお上品な暴言であるため、周囲にはお優しい大公夫人と見られるのがまた腹が立つ。
キャサリンがすっかり素晴らしい大公夫人とみなされるようになったころ、ヨーゼフに外交の仕事が入った。
「あら、随分遅いお越しですね、旦那様。」
「ああ…。」
昨晩、あの後、マリアが騒いで大変だった。キャサリンに白い結婚を宣言した後も離れで騒いでいるマリアをなだめるために呼び出された。
ヨーゼフがキャサリンと初夜を過ごしていないか心配したらしく、抱いてくれとしつこかった。どうしてもその気になれず、手はでなかったが、代わりに高価なアクセサリーと舞踏会への参加を約束させられた。
舞踏会と言っても、正式なものにマリアは同伴できない。正体を隠す、いわゆる仮面舞踏会だ。あまりにもマリアの鬱憤がたまるとこうして晴れやかな場に連れて行かされるのだ。
というわけで、ヨーゼフはやや寝坊気味だった。
「…君は今日はどうするんだ?良ければ屋敷を案内しようか?」
新婚ということでヨーゼフは兄であり国王であるエアハルトから三日間の休みをもらっている。
「いえ。それはペーターに頼むので。結婚祝いへの返信もしなければなりませんし。旦那様は気にせずに離れでおくつろぎください。」
キャサリンは綺麗なヒューゲン語でそう言うと、席をたった。慌てるのはヨーゼフだ。
「もう行くのか!?」
「ええ。」
「もう少し話をしないか?」
「…何のために?」
キャサリンは怪訝な顔でヨーゼフを見る。
「私たちは夫婦になったのだから、お互いについて知るのは当然のことだろう?」
「まあ、呆れた!」
「あき…!?」
ヨーゼフはぎょっとしてキャサリンを見た。
「旦那様、白い結婚とは、書類上は夫婦になっても心を通わす夫婦にはならない、という意味です。白い結婚を宣言された旦那様がそのようにとんちんかんなことをおっしゃるだなんて。」
「そ、それは…!しかし、君には私の仕事上のパートナーとしてふるまってもらう必要もある!お互いを知ることは必要だろう?」
「いいえ。不要ですわ。」
はっきりと断言されて、ヨーゼフは言葉につまる。
「仕事上のパートナーなら仕事のことだけ知っていればいいのです。私の動向が必要な仕事の前には必要な情報交換をいたしましょう。でも今は旦那様も三日間の休暇中のはず。お仕事のお話など、ないでしょう?」
キャサリンはにこりと微笑んだ。
「私、旦那様のお仕事は楽しみにしています。きっとその時には楽しい会話ができますわ。」
つまり、仕事以外で関わるつもりはないから失せろ、という意味である。
ーーーー
三日間の休暇の間にも、キャサリンは屋敷の使用人たちの心をわしづかみにしていた。
大公夫人としての最初の仕事を補佐した家令のペーターは、「まさしく大公夫人にふさわしい教養をお持ちです」と絶賛した。
ヒューゲン社交界についてキャサリンに指導してくれている夫人は、「すでに教えることなどないほどヒューゲンのルールにも精通しています」と太鼓判を押した。
こちらで用意したキャサリン用の侍女たちは、「使用人の私たちにもお優しい素晴らしい方です」と心酔する様子を見せた。
ここしばらく、マリアが離れでヒステリックに騒いでいただけに、洗練されたいかにも高位貴族令嬢のキャサリンの姿に皆がほれ込んでしまったのだ。
ーこれこそが大公家のあるべき姿だ、と。
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ブルテン流の暴言に聞こえないお上品な暴言であるため、周囲にはお優しい大公夫人と見られるのがまた腹が立つ。
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