38 / 56
第四章 無計画なプロポーズ
7
しおりを挟む
「そうだ。またブルテンとの外交が入りそうなんだ。秋のことなんだが。一緒に行ってもらいたい。」
「かしこまりました。どのような内容でしょう。」
夏の終わりにブルテンでは戦で活躍した兵たちへの褒章授与の式典が行われる。そのひと月半後に諸外国からのゲストも交えた夜会が開催されるのだ。
式典時に行われないのはエスパルとヒューゲンを配慮したものだ。どちらの国も皇帝の訪問を受けるため、VIPを夏の終わりの式典に送るのが難しいのだ。
「なるほど。では早急にドレスを用意する必要がありますね。」
「また私にドレスを贈らせてほしい。」
「かしこまりました。」
そこでふと翌日の晩餐会でのキャサリンのドレスが気になった。自分に準備をする時間はなかったが、ちゃんと赤いドレスを用意しているだろうか、と。
ーーーー
晩餐会の前には会談があったため、キャサリンとは城で落ち合うことになった。会談終わりに迎えに行くと、キャサリンはオフショルダーの赤紫色のドレスを身にまとって、知り合いの夫人と談笑していた。
赤みはあるが、赤ではない。
「キャサリン。」
「お疲れ様です。旦那様。」
「お疲れ様です。バッツドルフ公。」
キャサリンが話していた夫人を見ると、クラウディアだった。クラウディアは藤色のドレスを着ている。
「…ヘルムフート夫人。久しぶりだな。キャサリンの相手をしてくれてありがとう。」
「いえ、私も夫を待っておりましたので。」
クラウスも先ほどの会談に国王の側近として参加していたのだ。ちょうど後ろからやってくる。
「クラウディア。それにヨーゼフ様とキャサリン夫人も。」
「クラウス。」
当然と言えば当然なのだが、二人は名前で呼び合っている。自然な流れで腕を組み、ヨーゼフとキャサリンに礼をしてその場を去って行く。背中を見送っていると顔を寄せ合って何か話して微笑みあっている。
いいな…。自然とそう思ってしまった。
「旦那様、私たちも参りましょう。」
「ああ。」
ヨーゼフが腕を差し出すとキャサリンが手を乗せる。二人で晩餐の会場へと入った。
二人に用意されていたのは皇帝陛下の隣の席だった。
「皇帝陛下、重ねてになりますがヒューゲンまでお越しくださりありがとうございます。こちらは妻のキャサリンです。」
「**********。」
キャサリンは突然ヨーゼフの知らない言語をしゃべりだした。ぎょっとしてキャサリンを見たが、皇帝は逆に顔を輝かせた。
「*******?」
「****、**********。」
「キャ、キャサリン?今のは帝国語かい?」
キャサリンは「はい」と頷いた。
「ブルテンにいたころに少々勉強しまして。簡単な会話程度ならできるのです。ただ母国語とされる方と話した経験はないので発音に自信はありませんが。」
「とてもお上手でしたよ。」
皇帝は優しそうな笑顔で微笑む。「まあ」とキャサリンは見たことのない良い笑顔で微笑む。その笑顔はどういう意味だ…。
「よろしければもう少しお話しできませんか?」
皇帝の隣の席は本来ヨーゼフであったはずだが、キャサリンに交代することとなった。皇帝の希望であるため仕方がないが、妻を取られたようで気に食わない。
「夫人はダンフォード公爵のご令嬢でしたか。」
二人はブルテン語で会話をしていた。問題ないように聞こえたが、皇帝はヒューゲン語が苦手であったらしい。確かに会談には通訳がいた。
「ではベネディクト殿は兄君ですか?彼も帝国語がお上手でした。」
「はい。二番目の兄です。」
「帝国語を解する方がいるのはとてもありがたいです。」
「兄は外交を任されておりますから、今後重要な同盟国の言語を学ぶのは当然のことです。皇帝陛下もブルテン語は通訳が必要ないほどの腕前とお伺いしました。」
キャサリンは皇帝相手にも物怖じしない会話を展開している。これで外交経験はヨーゼフよりもはるかに少ないのだから驚いてしまう。
「バッツドルフ公は素晴らしい奥方を迎えられましたね。」
「はい。自慢の妻です。」
すんなりと言葉がでてきた。度胸もあり、それにみあった優秀さを持つ。本当に心強いと思った。
兄である国王エアハルトがやや顔をしかめていたことには、皇帝とキャサリンは鋭く目を光らせたが、ヨーゼフは全く気付かなかった。
「かしこまりました。どのような内容でしょう。」
夏の終わりにブルテンでは戦で活躍した兵たちへの褒章授与の式典が行われる。そのひと月半後に諸外国からのゲストも交えた夜会が開催されるのだ。
式典時に行われないのはエスパルとヒューゲンを配慮したものだ。どちらの国も皇帝の訪問を受けるため、VIPを夏の終わりの式典に送るのが難しいのだ。
「なるほど。では早急にドレスを用意する必要がありますね。」
「また私にドレスを贈らせてほしい。」
「かしこまりました。」
そこでふと翌日の晩餐会でのキャサリンのドレスが気になった。自分に準備をする時間はなかったが、ちゃんと赤いドレスを用意しているだろうか、と。
ーーーー
晩餐会の前には会談があったため、キャサリンとは城で落ち合うことになった。会談終わりに迎えに行くと、キャサリンはオフショルダーの赤紫色のドレスを身にまとって、知り合いの夫人と談笑していた。
赤みはあるが、赤ではない。
「キャサリン。」
「お疲れ様です。旦那様。」
「お疲れ様です。バッツドルフ公。」
キャサリンが話していた夫人を見ると、クラウディアだった。クラウディアは藤色のドレスを着ている。
「…ヘルムフート夫人。久しぶりだな。キャサリンの相手をしてくれてありがとう。」
「いえ、私も夫を待っておりましたので。」
クラウスも先ほどの会談に国王の側近として参加していたのだ。ちょうど後ろからやってくる。
「クラウディア。それにヨーゼフ様とキャサリン夫人も。」
「クラウス。」
当然と言えば当然なのだが、二人は名前で呼び合っている。自然な流れで腕を組み、ヨーゼフとキャサリンに礼をしてその場を去って行く。背中を見送っていると顔を寄せ合って何か話して微笑みあっている。
いいな…。自然とそう思ってしまった。
「旦那様、私たちも参りましょう。」
「ああ。」
ヨーゼフが腕を差し出すとキャサリンが手を乗せる。二人で晩餐の会場へと入った。
二人に用意されていたのは皇帝陛下の隣の席だった。
「皇帝陛下、重ねてになりますがヒューゲンまでお越しくださりありがとうございます。こちらは妻のキャサリンです。」
「**********。」
キャサリンは突然ヨーゼフの知らない言語をしゃべりだした。ぎょっとしてキャサリンを見たが、皇帝は逆に顔を輝かせた。
「*******?」
「****、**********。」
「キャ、キャサリン?今のは帝国語かい?」
キャサリンは「はい」と頷いた。
「ブルテンにいたころに少々勉強しまして。簡単な会話程度ならできるのです。ただ母国語とされる方と話した経験はないので発音に自信はありませんが。」
「とてもお上手でしたよ。」
皇帝は優しそうな笑顔で微笑む。「まあ」とキャサリンは見たことのない良い笑顔で微笑む。その笑顔はどういう意味だ…。
「よろしければもう少しお話しできませんか?」
皇帝の隣の席は本来ヨーゼフであったはずだが、キャサリンに交代することとなった。皇帝の希望であるため仕方がないが、妻を取られたようで気に食わない。
「夫人はダンフォード公爵のご令嬢でしたか。」
二人はブルテン語で会話をしていた。問題ないように聞こえたが、皇帝はヒューゲン語が苦手であったらしい。確かに会談には通訳がいた。
「ではベネディクト殿は兄君ですか?彼も帝国語がお上手でした。」
「はい。二番目の兄です。」
「帝国語を解する方がいるのはとてもありがたいです。」
「兄は外交を任されておりますから、今後重要な同盟国の言語を学ぶのは当然のことです。皇帝陛下もブルテン語は通訳が必要ないほどの腕前とお伺いしました。」
キャサリンは皇帝相手にも物怖じしない会話を展開している。これで外交経験はヨーゼフよりもはるかに少ないのだから驚いてしまう。
「バッツドルフ公は素晴らしい奥方を迎えられましたね。」
「はい。自慢の妻です。」
すんなりと言葉がでてきた。度胸もあり、それにみあった優秀さを持つ。本当に心強いと思った。
兄である国王エアハルトがやや顔をしかめていたことには、皇帝とキャサリンは鋭く目を光らせたが、ヨーゼフは全く気付かなかった。
511
あなたにおすすめの小説
妹が私の全てを奪いました。婚約者も家族も。でも、隣国の国王陛下が私を選んでくれました
放浪人
恋愛
侯爵令嬢イリスは美しく社交的な妹セレーナに全てを奪われて育った。
両親の愛情、社交界の評判、そして幼馴染であり婚約者だった公爵令息フレデリックまで。
妹の画策により婚約を破棄され絶望するイリスだが傷ついた心を抱えながらも自分を慕ってくれる使用人たちのために強く生きることを決意する。
そんな彼女の元に隣国の若き国王が訪れる。
彼はイリスの飾らない人柄と虐げられても折れない心に惹かれていく。
一方イリスを捨て妹を選んだフレデリックと全てを手に入れたと思った妹は国王に選ばれたイリスを見て初めて自らの過ちを後悔するがもう遅い。
これは妹と元婚約者への「ざまぁ」と新たな場所で真実の愛を見つける物語。
婚約破棄に乗り換え、上等です。私は名前を変えて隣国へ行きますね
ルーシャオ
恋愛
アンカーソン伯爵家令嬢メリッサはテイト公爵家後継のヒューバートから婚約破棄を言い渡される。幼い頃妹ライラをかばってできたあざを指して「失せろ、その顔が治ってから出直してこい」と言い放たれ、挙句にはヒューバートはライラと婚約することに。
失意のメリッサは王立寄宿学校の教師マギニスの言葉に支えられ、一人で生きていくことを決断。エミーと名前を変え、隣国アスタニア帝国に渡って書籍商になる。するとあるとき、ジーベルン子爵アレクシスと出会う。ひょんなことでアレクシスに顔のあざを見られ——。
ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?
ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。
一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?
あなたには彼女がお似合いです
風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。
妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。
でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。
ずっとあなたが好きでした。
あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。
でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。
公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう?
あなたのために婚約を破棄します。
だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。
たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに――
※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。
【完結】恋が終わる、その隙に
七瀬菜々
恋愛
秋。黄褐色に光るススキの花穂が畦道を彩る頃。
伯爵令嬢クロエ・ロレーヌは5年の婚約期間を経て、名門シルヴェスター公爵家に嫁いだ。
愛しい彼の、弟の妻としてーーー。
【完結】もう誰にも恋なんてしないと誓った
Mimi
恋愛
声を出すこともなく、ふたりを見つめていた。
わたしにとって、恋人と親友だったふたりだ。
今日まで身近だったふたりは。
今日から一番遠いふたりになった。
*****
伯爵家の後継者シンシアは、友人アイリスから交際相手としてお薦めだと、幼馴染みの侯爵令息キャメロンを紹介された。
徐々に親しくなっていくシンシアとキャメロンに婚約の話がまとまり掛ける。
シンシアの誕生日の婚約披露パーティーが近付いた夏休み前のある日、シンシアは急ぐキャメロンを見掛けて彼の後を追い、そして見てしまった。
お互いにただの幼馴染みだと口にしていた恋人と親友の口づけを……
* 無自覚の上から目線
* 幼馴染みという特別感
* 失くしてからの後悔
幼馴染みカップルの当て馬にされてしまった伯爵令嬢、してしまった親友視点のお話です。
中盤は略奪した親友側の視点が続きますが、当て馬令嬢がヒロインです。
本編完結後に、力量不足故の幕間を書き加えており、最終話と重複しています。
ご了承下さいませ。
他サイトにも公開中です
【完結】私を裏切った最愛の婚約者の幸せを願って身を引く事にしました。
Rohdea
恋愛
和平の為に、長年争いを繰り返していた国の王子と愛のない政略結婚する事になった王女シャロン。
休戦中とはいえ、かつて敵国同士だった王子と王女。
てっきり酷い扱いを受けるとばかり思っていたのに婚約者となった王子、エミリオは予想とは違いシャロンを温かく迎えてくれた。
互いを大切に想いどんどん仲を深めていく二人。
仲睦まじい二人の様子に誰もがこのまま、平和が訪れると信じていた。
しかし、そんなシャロンに待っていたのは祖国の裏切りと、愛する婚約者、エミリオの裏切りだった───
※初投稿作『私を裏切った前世の婚約者と再会しました。』
の、主人公達の前世の物語となります。
こちらの話の中で語られていた二人の前世を掘り下げた話となります。
❋注意❋ 二人の迎える結末に変更はありません。ご了承ください。
妹ばかり見ている婚約者はもういりません
水谷繭
恋愛
子爵令嬢のジュスティーナは、裕福な伯爵家の令息ルドヴィクの婚約者。しかし、ルドヴィクはいつもジュスティーナではなく、彼女の妹のフェリーチェに会いに来る。
自分に対する態度とは全く違う優しい態度でフェリーチェに接するルドヴィクを見て傷つくジュスティーナだが、自分は妹のように愛らしくないし、魔法の能力も中途半端だからと諦めていた。
そんなある日、ルドヴィクが妹に婚約者の証の契約石に見立てた石を渡し、「君の方が婚約者だったらよかったのに」と言っているのを聞いてしまう。
さらに婚約解消が出来ないのは自分が嫌がっているせいだという嘘まで吐かれ、我慢の限界が来たジュスティーナは、ルドヴィクとの婚約を破棄することを決意するが……。
◇表紙画像はGirly Drop様からお借りしました💐
◆小説家になろうにも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる