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第三章 王弟反逆

暴風王女暗殺される ?

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ついに第三章突入です。
ここまで読んでいただいてありがとうございます。
昔クリスの曾祖叔母の王妃に母を殺されたと思っている王弟は母の復讐のために立ち上がります。クリスは果たして生き残れるのか。愛する人が心配なオウやアレクも加わって話は怒涛の展開になっていきます。

******************************************************

暗闇の中、女性が逃げていた。

その後ろを血まみれになったナイフを持った男が追いかけていた。
女性は足がよろめいて転んだ。
男はにやっとしてナイフを振り上げた。

「やめろ!」
ヘンリー・マーマレードは叫んで自分の声で飛び起きた。

息が荒い。

体は汗まみれになっていた。

ヘンリーは自分の領地ホーエンガウの城の寝室にいた。

「またこの夢か。」
自分の母をロボク・ミハイルが殺す夢だ。
外はうっすらと白くなりつつあった。
そのまま起きて部屋を出る。

「殿下。お早いですね。」
部屋を出たところで侍女長のマルガリータが驚いて声をかけた。

「お前もな。まだ夜も明けておるまい」

「最近は夜の明ける前に目が覚めるのです。」

「年よりは早起きか」
思わずヘンリーは笑った。
「まあ、殿下もお口が悪くなられて」
思わず非難する眼差しになるが、
「お互い様か。」
二人は笑い合った。

傲慢なヘンリーも自分が5歳の時からついてくれているマルガリータの前ではその舌鋒も鋭さは無かった。

「早く起きたので、王都に行く前に久々に母の墓に参りたいのだが」
ヘンリーはいつもの日課のような口調で言った。

「了解いたしました。すぐに花束をご用意いたしますね」
慌てて、マルガリータは先に階下におりていく。

「これは殿下お早いお目覚めで」
侍従長のダニエルが階下でヘンリーを出迎えた。

「お前はいつもか」

「はい。もう今では夜明けとともに起き、日没とともに就寝しておりますな」
ダニエルはヘンリーが生まれた時から傍にいてくれる人間だった。
そのダニエルの話を聞き流しながら、月日のたつのは速いと思った。
昔はダニエルも少年だったのが、今や老人と言える年代になっていた。

「昼には予定通り王都に向かう。」
改めてヘンリーは言った。

「さようでございますか。」
そういうダニエルの視線が心なしか揺らいだ。

「後の事はよろしく頼む。」
その年おいた肩に手を置いた。

「心置きなくお出かけくださいませ。」
ダニエルは一礼した。

そこへ外から花を摘んで花束にしてきたマルガリータが帰ってきた。

「殿下。こちらで宜しいですか。」

「ありがとう。マルガリータ」
ヘンリーはマルガリータから礼を言って花束を受け取った。

「滅相もございません。」
マルガリータは礼をして見送る。

ヘンリーはそのまま扉を開けて城の外へ出て行った。

その後ろ姿を涙しながらマルガリータは見送っていた。



ホーエンバウの城を出てその裏の丘を登る。
徐々に周りは明るくなってきた。
そしてその丘の上にその墓は建っていた。

目の前にホーエンバウの美しき古城を眺める丘の上に。
白い十字のたもとに花束を置いてヘンリー・マーマレードは跪いた。

「母上。ついに母上の恨みを晴らす時が来ました。」
母を慰み者にして殺したロボクはノルディンの小僧に先に抹殺された。
そうけしかけたエルフリーナ、散々母上をいじめたエルフリーナは病没してしまっていた。
自ら手を下せなかったのは痛恨の極みだが、その息子ジョージがいる。

しばらくヘンリーは母の墓をただひたすら見つめていた。
母エイミーはヘンリーにはやさしかった。
元々正妃エルフリーダの侍女で18歳の時に王の手がついてヘンリーを身ごもった。
エルフリーダは名門ミハイル侯爵の長女で魔力も強かった。
前王アルフレッドとは学園の同期で卒業と同時に結婚。
2年後に現国王ジョージ誕生。その産褥期にアルフレッドの手が侍女のエイミーについた。

それを知った正妃の嫉妬はすさまじく、苛め抜き、ヘンリーが6歳の時に死んだ。
駆け付けたヘンリーの前に母はもうこと切れていた。
その前にいた正妃の弟のロポックはヘンリーに首を振った。

「お前がやったのか」
叫んだヘンリーを見て首を振ると
「止められなくて申し訳ありませんでした」
ひるんだように逃げて行った。

真相は判らない。
殺人鬼として捕まった男はミハイル家の家人だった。
しかし、正妃やその弟、あるいは兄の先々代ミハイル侯爵が何らかの関与があったのは確実だろう。
その彼らは処罰されることは無かった。


そのあとも妾の子とか不義の子とか言われて周りには白い目で見られながら育ってきた。
ぬくぬくと育ったジョージとエルフリーダと同じように育ち王家に入ろうとしたクリスは許せなかった。

その事を阻止は出来たが、痛いしっぺ返しで、王位継承権は剥奪された。
しかし、今回の蜂起で全ての仕返しはするつもりだ。

「ヘンリー様。どうしてもやられますか?」
その後ろにいつの間にかエドウィン・ノーマン中央師団長が立っていた。
ヘンリーとは学園時代からの友人だ。
ノルディン侵略戦の時に亡くなったモルケトと3人でよく学園を抜け出して遊び歩いたものだった。

「もう今やるしかあるまい。」
ヘンリーは淡々と語った。

「嫌ならいいぞ。
別について来なくても恨みはしない」
振り返ってヘンリーは言った。

「何をおっしゃいます。
王立学園からの腐れ縁ですよ。
今更裏切ったりはしません」
エドウィンは笑った。

「モルケトは志半ばで果てましたが、私は最後まで付き合いますよ」
はっきりと言った

「そうか、最後まで付き合ってくれるか」
ヘンリーは立ち上がった。

その二人を強い風が襲った。

風は墓の前に置いた花束を巻き上げた。

そのまま花束は風に巻き上げられて空高く舞い上がっていった。

その先をずうーっとヘンリーの目は追っていた。






一方その頃王宮の謁見の間では国王の前にジャンヌが跪いていた。

「ジャンヌ・マーマレードよ。
これよりその方を魔導第一師団師団長に任命する」

「はっ、謹んでお受けいたします。」
礼儀作法通りにジャンヌは受け答えする。

「どうした。らしくない態度だな」
しおらしい態度に思わず国王が軽口をたたく。

「思うところがありましたゆえに」
らしくない反応でジャンヌが応える。

「そうか、クリス嬢に少しは感化されたか」
国王は笑う。

「御随意にお考え下さい。」
ジャンヌはかわした。
「北方の守りはいかようにすれば良いでしょうか。」

「コーフナーとも相談したが、基本はお前の部隊と第二魔導中隊を入れ替えるつもりだ。」
ジャンヌの問いに国王が応える。

「王女殿下が逃げられたので、お話しできなかったのですが、既に魔導第二中隊の準備は出来ております。魔導第二中隊を率いて北方へ行って頂き、引継ぎ等していただければ幸いです。」
嫌味をこめてコーフナーが言った。

「えっ率いていくのか」
転移ならそんなに時間がかからないのに、魔導部隊を率いるとなると少なくとも3日はかかるだろう。

「魔導第二中隊の実力を知る上でも宜しくお願いいたします。
そんなに姫の足手まといにはならないはずですから。」
一応魔導第一師団はエリートの一団、独立中隊には劣るが、その中でも精鋭だ。

「判った。置いていかないように善処しよう。」



*****

そして2日後、

ジャンヌは空を飛行していた。

1日目は走ったりとんだりの繰り返しで半分まで来た。
そこまでは何とかついてきた第二中隊の面々だったが、流石に2日目になると次々に脱落。
一人で行くわけにもいかず、地上で少し待つことにした。

全然来ないので少し戻ることにす。
戻る事1キロで第二中隊長ジェルフィードはじめ5人ほどがへばっているのが見えた。

「ジェフィールド大丈夫か」
ジャンは仕方がないと手を貸して起こそうとした。
その手を握りつつゆっくりと起き上がり、
その起き上がり様に逆の手で剣をジャンヌの胸に突き刺していた。
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