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第12話
早朝――
エイリスは王宮内の庭園を散歩していた。
自分を世話してくれた侍女達は皆優しく、丁寧に体の手入れをしてくれた。
そのため、非常に目覚めがよく、体調が良い――だからこうして庭園を巡る。
寒い時期に咲く花々が植えられた中央部分を回り、建物沿いを歩いて奥の作業小屋がある場所まで歩いてくると、彼女はひとりの少年を見つけた。
その少年は変わった服装をしている。
襟が詰まった黒尽くめの服――学園で着る制服に似てなくもない。
エイリスがじっと見詰めていると、少年は振り返った。
「……誰です?」
「え、えっと……――」
視線だけで私の存在に気付いた……?
そんな、まさかね……?
エイリスは少年をまじまじと観察する――彼は大きな吊り目を持った美少年と言える顔立ちをしていた。
真っ黒な髪と瞳は魔王と同じだが、禍々しさはなく純朴さを感じる。
彼は人に慣れていない猫のようにエイリスを睨んでいた。
「わ、私は昨日からここに住むことになったエイリスよ……」
「エイリスさん? 僕はそんなこと聞いていません」
「そう……そうなの……」
そこで会話は終わってしまった――気まずい沈黙が二人の間に流れる。
やがて少年は背を向けると、しゃがんだまま作業を始めた。
エイリスはそんな少年に近づくと、声をかけた。
「何をしているの?」
「……花を植え替えているんです」
「花を? もしかしてあなた、庭師さんなの?」
「いえ、僕はただの居候です。咲きが悪く、捨てられた花を拾ってきたんです」
見ると、少年は花がほとんど咲いていない株を植え替えている。
エイリスはそんな少年を見て、少しだけ心動かされた。
いや、彼があまりに微笑ましくて、ときめいたのだ。
目つきの悪い黒猫が捨てられた花を必死に生かそうとしている――そんな童話が頭の中に浮かんでいた。
「ちょっと貸してちょうだい?」
「……え」
エイリスは少年から植木鉢を奪うと、その花に聖力を優しく流し込んだ。
花はあっという間に元気になり、いくつもの蕾をつけて揺れていた。
少年の吊り目が大きく開かれる――
「つ、蕾がこんなに……――」
「これで沢山の花が咲くわね?」
そう言って、植木鉢を少年に返す。
少年は蕾をいくつもつけた花を見て、唖然としている。
エイリスはそんな少年が可愛い黒猫にしか見えず、微笑んだ。
「他にも元気にしてほしい花があったら言ってちょうだい?」
「ほ、本当に……? お願いしても、いいんですか……?」
「ええ、勿論よ」
それからエイリスは三十株ほどの花に聖力を流して、沢山の蕾を付けさせた。
少年はそんな光景を信じられないと言った表情で見詰め、そして微笑む。
最初は警戒していた少年が嬉しそうに笑ってくれた。
エイリスの心がほんのり温かくなる。
この国の住人は本当に優しいのね……――
「――エイリスさん」
少年が植木鉢を抱いたまま、こちらを見た。
心なしか瞳の奥底が光っている。
「あなたを探している人が遠くから近づいています」
「え? どうして分かるの?」
「秘密です。その人はあの角から来ます。行った方がいいんじゃないですか?」
「え、ええ……そうね。それじゃあ、さようなら」
エイリスが示された角へ向かうと、コーディの呼び声がした。
部屋から消えたエイリスを心配し、探しに来ていたのだ。
その時、後ろから少年の呟き声がわずかに聞こえた。
「僕の名前はキリヤ・リュウゼン。またお会いしましょう――」
エイリスは王宮内の庭園を散歩していた。
自分を世話してくれた侍女達は皆優しく、丁寧に体の手入れをしてくれた。
そのため、非常に目覚めがよく、体調が良い――だからこうして庭園を巡る。
寒い時期に咲く花々が植えられた中央部分を回り、建物沿いを歩いて奥の作業小屋がある場所まで歩いてくると、彼女はひとりの少年を見つけた。
その少年は変わった服装をしている。
襟が詰まった黒尽くめの服――学園で着る制服に似てなくもない。
エイリスがじっと見詰めていると、少年は振り返った。
「……誰です?」
「え、えっと……――」
視線だけで私の存在に気付いた……?
そんな、まさかね……?
エイリスは少年をまじまじと観察する――彼は大きな吊り目を持った美少年と言える顔立ちをしていた。
真っ黒な髪と瞳は魔王と同じだが、禍々しさはなく純朴さを感じる。
彼は人に慣れていない猫のようにエイリスを睨んでいた。
「わ、私は昨日からここに住むことになったエイリスよ……」
「エイリスさん? 僕はそんなこと聞いていません」
「そう……そうなの……」
そこで会話は終わってしまった――気まずい沈黙が二人の間に流れる。
やがて少年は背を向けると、しゃがんだまま作業を始めた。
エイリスはそんな少年に近づくと、声をかけた。
「何をしているの?」
「……花を植え替えているんです」
「花を? もしかしてあなた、庭師さんなの?」
「いえ、僕はただの居候です。咲きが悪く、捨てられた花を拾ってきたんです」
見ると、少年は花がほとんど咲いていない株を植え替えている。
エイリスはそんな少年を見て、少しだけ心動かされた。
いや、彼があまりに微笑ましくて、ときめいたのだ。
目つきの悪い黒猫が捨てられた花を必死に生かそうとしている――そんな童話が頭の中に浮かんでいた。
「ちょっと貸してちょうだい?」
「……え」
エイリスは少年から植木鉢を奪うと、その花に聖力を優しく流し込んだ。
花はあっという間に元気になり、いくつもの蕾をつけて揺れていた。
少年の吊り目が大きく開かれる――
「つ、蕾がこんなに……――」
「これで沢山の花が咲くわね?」
そう言って、植木鉢を少年に返す。
少年は蕾をいくつもつけた花を見て、唖然としている。
エイリスはそんな少年が可愛い黒猫にしか見えず、微笑んだ。
「他にも元気にしてほしい花があったら言ってちょうだい?」
「ほ、本当に……? お願いしても、いいんですか……?」
「ええ、勿論よ」
それからエイリスは三十株ほどの花に聖力を流して、沢山の蕾を付けさせた。
少年はそんな光景を信じられないと言った表情で見詰め、そして微笑む。
最初は警戒していた少年が嬉しそうに笑ってくれた。
エイリスの心がほんのり温かくなる。
この国の住人は本当に優しいのね……――
「――エイリスさん」
少年が植木鉢を抱いたまま、こちらを見た。
心なしか瞳の奥底が光っている。
「あなたを探している人が遠くから近づいています」
「え? どうして分かるの?」
「秘密です。その人はあの角から来ます。行った方がいいんじゃないですか?」
「え、ええ……そうね。それじゃあ、さようなら」
エイリスが示された角へ向かうと、コーディの呼び声がした。
部屋から消えたエイリスを心配し、探しに来ていたのだ。
その時、後ろから少年の呟き声がわずかに聞こえた。
「僕の名前はキリヤ・リュウゼン。またお会いしましょう――」
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