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2.5章:血濡れのstudent clothes.
蠢く影
しおりを挟む「……と、まぁ。これが僕と葉九の間にあった出来事なんだ。見ての通り僕は死んでないけどね」
そう締め括った親父の話は、想像以上に血に濡れた悲しい話だった。てっきり喧嘩別れしたとかそう言う軽い話を想像していたオレらは、重い空気の中、ただ一人を除いて口を開くことは無かった。
「今の話を聞く限り葉九が悠仁を切ったって事だけどそれがどうして悠仁の罪になるんだ?」
周りの重い空気を一切気にすること無くそう言ったのは相変わらず無表情の間乃尋だった。
純粋に出てきたらしいその疑問に親父は「…そうだね」と呟いて続ける。
「間乃尋君の疑問も最もだよね。実はこの話はまだ終わってないんだ」
「……まだ終わってないってこれ以上の地獄でも待ってるんです?辞めてくださいよ心臓潰れちゃいますって」
少しでもこの重い空気を何とかしようとしてかそう茶化す尋希に奏がおい、と軽く小突く。それを見て親父は申し訳なさそうに笑いながら「ごめんね」と言った。
「……でもね、この話は君たちも聞いておいた方が良いと思うんだ。」
「俺達も……ですか」
「うん。僕らと同じ、擂乃神学園に通う君達はね。……これまでの話で何か違和感を感じなかった?」
そう意味ありげに笑う親父にオレらは皆で目を合わせて考える。
尋希と奏は二人であぁでもない、こうでもないと言い合い、間乃尋はこてん、と首を傾げている。オレも一体なんの事やら、と思考を巡らせていると、静かに聞いていた尚が「……無いんだよねぇ」と口を開いた。
「無い?何がですか?」
「聞いた事が無いんだよねぇ。この中でボクが一番長くあの学園で生活してるけど、そんな事件の事、一切聞いた事が無いんだよねぇ」
聞き返した奏に直季がそう答えると、奏と尋希は驚いたかのように目を見開く。
……確かにそうだ。親父の話からすると葉九さんは当時のクラスメイトと担任の教師を一人残らず殺していた筈だ。そんな擂乃神学園で起きた大量殺人の事を直季と同じく初等部の頃から学園で暮らしているオレらが噂程度でも聞いた事が無いのはおかしい。
オレらがその違和感に気がつくと親父は「そうなんだよ」と口を開くと続けた。
「この、違和感こそが僕の罪なんだ」
「親父の……?」
「うん。あの事件から数年経って目が覚めた僕は、父さんに言われるがまま探偵を続けてたんだけどね」
───探偵業をしながら、僕は気になっていたんだ。あの事件……葉九は一体どうなったんだろうって。だから個人的に調べたんだ。
……するとね、驚く事にあの事件は無かった事になっていたんだ。教師含めて役三十名の命が居なかった事になっていて、どこにも手掛かりなんて無かったんだ。
勿論納得なんて出来なくて、当時のクラスメイトの保護者の方を訪問して話を聞いてみてもそんな人は居ないって門前払いされて。それでも何か手掛かりを掴もうと一人で調査をしていたら偶然僕が在籍していた頃の擂乃神学園の卒業生と会ってね。
聞いてみるとあの事件の日、朝に学園から本日は休校致しますという旨の連絡があったみたいなんだよ。あの日学園が異様に静かだったのはそのせい。
なのに僕らのクラスメイトは全員あの場に居て、あの場に居たせいで葉九の姿をした何かによって殺されてしまった。
変に思った僕はそのまま話を聞いた卒業生の人と別れて直接学園へ向かうと、そこには父さんが待ち伏せてて。
父さんに言われたよ。「いくら調べようと無駄だ」って。
「あんな教養の無い奴はお前の友人に相応しくなかった。消えてくれて良かったろう」
そう言われた時、僕は何となく、分かってしまったんだ。父さんは僕が普通の学生らしく過ごすのを許してなんか無かったんだって。僕が葉九と友人になってしまったばかりに、あんな事件が起きたんだって。
「───ただの勘だけどね。父さんがあの事件を手引きしてその痕跡を全て消したっていう証拠はどこにも無い訳だし」
親父は葉九さんに付けられたのであろう、首の傷を撫でながら語る。
「それから僕は一言でも良いから葉九に謝りたくて、ずっと探してたんだ。許されないなんて分かってるけど、それでもいいからもう一度葉九に会いたかった。……さっきは本当にごめんね、間乃尋君。きっと葉九は僕に会いたくないから姿を現さないなんて分かってるのに」
そう言いながら親父は間乃尋に向き直って頭を下げる。謝罪を受けた当の本人はいつの間にか病室の窓際に立っていて、そこから外を見下ろしていた。
「……悠仁は、まだ葉九と話したいって思っているのか?」
間乃尋は外を見下ろしながら親父にそう訊ねると、親父は「もちろん」と返した。
間乃尋は親父のその答えにそうか、とだけ言うと突如窓を開けた。開いた窓から秋らしい涼しい空気が入ってくる。
「えっ、間乃尋先輩!?」
「急にどうしたのかねぇ!?」
その脈絡もない同等な行動にオレ含め全員が戸惑いの声を上げていると間乃尋は窓の縁に手を掛けながら言った。
「ちょっとあの馬鹿連れてくるよ。大丈夫だよ、逃がしはしないから」
それだけ言うと間乃尋は三階にある親父の病室の窓から飛び降りた。
─────────
───あぁ、凄く面倒だ。こんなくだらない事をしている暇があるなら、アイツを探したいっていうのに。
『……聞いておりますの?』
今回の仕事の内容を組織から持たされている端末で適当に聞き流していると、端末の向こうから呆れたような声が届く。
「聞いてるよ、少し考え事してただけだっての」
『……はぁ、まぁいいですわ。依頼人によれば今回のターゲットは貴方が今いる病院で入院しているそうですわ。準備は良くて?』
「良いんだけどよ、それにしたってこの依頼内容はどうなんだよ。こんな真昼間から目立つ様な事……」
『あらあら、依頼にケチをつけるつもり?』
「当たり前だろうが。もう少し依頼を選んだって良いだろ。つーかなんでオレなんだよ」
『それが総長の判断ですもの。それに頂いた依頼はどんなものにせよ、私達はただそれを遂行すればいいだけですわ。だってそれが、』
イノセンスプラムですもの、と言われる前にオレは通信を切る。なぜなら噂をすれば何とやらで依頼人がその場にやってきたからだ。
依頼人の男はオレを一目見て一瞬怪訝そうに顔を歪める。大方思っていたのよりかなりの若造が居て期待外れと言った所だろう。
「……こんな子供に本当に依頼がこなせるのかね」
苛立ちを隠しもしないその口調にオレは舌打ちが漏れそうになるのを寸での所で耐えた。
「まぁいい。大金払うんだ。"不老の名探偵"と呼ばれるあの男を私の手で殺せるよう、貴様は精々私の手となり足となり働くが良い」
何処までも上からものを言う依頼人の瞳は憎悪一色に染まっている。
オレはその瞳を向けられて、思わず一つ溜息を吐いて、着ている白衣のポケットから錠剤を取り出して、ガリ、と音を立ててそれを噛み砕いた。
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