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2章:望執dream truth.
異変
しおりを挟む修学旅行から学園に戻ってきて、寮の入り口で待っていた後輩達と共に夕食を食べようと食堂に向かい、それぞれ好きな物を食べながら修学旅行での思い出を語っていた。勿論、俺達の中で一番印象が残っている"あの事"は話さないまま。しかし。
「にしても驚いたよなぁ。アレ」
「アレ?何かあったかい?」
「ほらアレだよ。初日の夜、少し外でただろ?その帰り、急に間乃尋が『血の臭いがする』つって走り出しただろ」
「なんですかそれ。血の臭いとか物騒すぎません?オチはなんなんですかオチは」
「……直季先輩?」
事もなさげに話し出す勇樹にそう尋希が茶化すのを横に直季が顔色を真っ青にしている。それを奏が「どうかしましたか?」と心配そうに声をかける。
そこで俺も気がつく。あの事件は勿論、夜に出かけた事すら、勇樹は覚えていないはずだった、と。
「覚えているのか?」
「覚えてんのかってあんな強烈な出来事、早々忘れらんねぇよ」
そう言いながら笑う勇樹に、どうやらただ事では無い雰囲気を感じ取ったのか、尋希と奏も話すのをやめてこちらの様子見を伺っているのが見える。
「……じゃあ、俺が走った先で、何があったかも?」
「お前が走って行った先?」
俺の質問に記憶を探ろうとする勇樹の様子を横に直季が非難めいた目を向けている気がするが、何をどこまで覚えているのか改めて確認するのは必要な事だと思う。直季もそう思ってはいるのか、特に何も言わずに勇樹の様子を見ていた。
自分の記憶を探っていた勇樹は、「あのとき……?」と呟いたと思えば、突然顔色を悪くして、カタカタと震え始める。
「勇樹くん!無理に思い出さなくてもいいよ!」
「……うだ、あのとき、たしか……路地裏に……」
「勇樹先輩!」
「先輩、大丈夫ですか?」
どんどん顔色が悪くなっていく勇樹の様子にそれぞれ尋希達が声をかける。しかし勇樹の耳には入っていない様で、俺は一回落ち着かせた方がいいかもしれない、と思って勇樹を眠らせようと勇樹の首に触れようとする。だけど。
「────ひっ!やだ、さわんなっ!!!」
そう言って怯えきった顔で俺の手を払い除ける勇樹はすぐに、「ごめん、そんなつもりじゃ、」やら「ごめんなさい、ちがう」と呟く。
そして、大きく身体がふらついたかと思えばそのまま食堂の床に倒れ込む。
「勇樹くん!」
慌てて直季が勇樹を支えて、声をかけるも、勇樹はぴくりともせず、完全に力を抜けた状態で直季にもたれかかっていた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「……どうやら眠っちゃったみたい、だねぇ……」
誰か勇樹くんを部屋に連れていくの手伝ってくれないかい?と言う直季に奏が「手伝います」と駆け寄り、慌てたように食堂から出ていく。
「間乃尋くん、さっきの気にしないで大丈夫だからねぇ!勇樹くん、ちょっと素肌に触られるのが苦手なんだよねぇ」
去り際にそう言う直季の言葉を俺はぼうっしながらと聞いていると、尋希が兄さん、と声をかけてくる。俺は黙って尋希の方を振り向くと、少し目を丸くした後、尋希は口を開く。
「腕、やめてください」
「腕?」
尋希に言われて自分の腕を見てみると、無意識に右手で左腕に爪を立てるように強く握っていた事に気がつく。包帯の中の傷が開いたのか、じんわりと服の袖に血が滲んできている。
「あれ……」
「……無意識ですか?」
「ごめん……」
「謝るくらいならやらないように気をつけて欲しいですよ、僕は」
「ほら、行きますよ」と俺の腕を掴んで歩きだす尋希に、どこに、と尋ねる。
「兄さんの部屋ですよ。……包帯、自分で巻けないんでしょう」
当然のようにそう言う尋希に、やっぱり夜中に部屋に忍び込んでは包帯を綺麗に巻き直してくれてるのは尋希だったのか、と思いながら大人しく尋希に着いて行く事にした。
そして、勇樹が食堂で気を失ってから数週間程経った。
次の日、普通に教室に登校していつものように笑って挨拶する勇樹はあの食堂の時の事を全く覚えていない様だった。
しかし、あれから勇樹はふとした瞬間に気を失う事が多くなった。椅子に座っている授業中はともかく、食事中や移動教室で歩いている途中にも前触れなく気を失う為、出来る限り俺か直季が勇樹の傍に常に居られるようにしていた。
「んな大袈裟にしなくても……ただ眠くなっちまって寝てるだけだって」
と、勇樹は笑うが、内心自分でもおかしいと思っているのか、強くは言わなかった。
あまりの頻度に心配した尋希や奏が病院を勧めるが、直季に「一回学園の研究者の人に診てもらったらしいけど異常ないみたいだった」と言われると、二人は何も言わなくなった。
そして、勇樹に起きている異常はこれだけではなく、勇樹は気を失うと、その前後の一切の記憶も無くなるようだった。
元々読んでいた本の内容を、それも何ページの何行目にどういった文章が書かれているかを一言一句間違えず暗唱出来るほどの記憶力を持っていた勇樹だが、どうしてもその時の記憶だけは思い出せない様だった。
そして、一日に三度倒れる事も珍しくなくなってきた頃、自体を重く見た担任が「治るまで学校に来ないように」と勇樹は自宅療養を強いられる事になった。
その放課後にメッセージアプリで頼まれた図書室の本を持って勇樹の部屋へ俺達は向かうようになった。
本日も相変わらず何をしていても突然眠くなって寝てしまうらしい勇樹は笑いながら「さんきゅ」と言いながら本を受け取った。そのままその本を読もうとする勇樹を奏は制した。
「それ読む前に、これ食べてください。ここ最近先輩がちゃんと食べてる所見てませんし、実際食べてないでしょう。……前より更に細くなってますし、食べないと治るものも治りませんよ」
そう言いながら奏はタッパーに入れられた粥を勇樹に手渡す。「食べられる分だけで大丈夫ですし、入れ物は俺が洗うので」と言う奏に勇樹はお礼を言いながら手を合わせてから食べ始める。
その様子を見ながら直季が「勇樹くん、そのまま食べてていいから聞いててねぇ」と前置いてから続けた。
「明日の夜七時からある全校集会に出席すれば取り敢えず単位はくれるみたいだからちゃんと来てねぇ。一応迎えに行くからねぇ」
「おー。忘れねぇようになんかに書いとくわ」
「あ、僕が書きますよ。僕なんも出来ないんでその位はさせてください」
「悪いな、さんきゅー」
尋希はそう言いながら自分のカバンからノートを引っ張り出して先程の内容を書き留めると、ページを破って「机の上、置いときますね」と言いながら紙を机の上に置いた。
俺はその紙の隣に本日分の授業の内容が書かれたノートを置いた。もしかしたら教科書の内容を暗記している勇樹には必要無いかもしれないけれど、まぁ置いとけばいつか気がつくだろう。そう思って。
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