地獄の果て残酷な獣に囚われた君を想う

鳥海あおい

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1.男と黒い獣

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俺は悪魔に魂を売った男なんだ。


そう男がおもむろに話しだした時、はじめ私は一笑に付してしまったものであった。
 

旅慣れた者はもの寂しい山中において他に野営者を見つけてもめったに声をかけることはない。何故ならいきなり相手が略奪者に豹変してしまう危険性があるからである。
なのに、何故彼には話しかけてしまったのかというと、若い冒険者と黒い獣の組み合わせに好奇心をかられたからである。
黒い珍しい見たことがない獣。
目は赤で角度によっては橙色にも変わる。まるで焔のゆらぎのようだ。
男はまだ青年から壮年の間くらいだろうか。茶色の髪に緑の瞳、肌は白い。話によると西方の出自であるというから、その地域の一般的な容姿であるといえるだろう。



獣を従えているから調教師ティマーかと思ってたのだが、剣士なのだという。
獣のことに言及すると言葉が重くなるので、それ以上こちらから触れることはしなかった。
冒険者は自分もそうであるように訳ありの者も多い。


そんな出会いであったが、一晩語り明かした末に私バードとその男ヒューゴは意気投合した。
私も根無し草の冒険者であるし、ヒューゴは旅をしながら人を探しているという。
ヒューゴの故郷はある冒険者グループの略奪によって滅ぼされてしまったのだという。その仇を探しているそうだ。
冒険者は山のようにいるから、その中から探し出すのは至難の技で、一生かかっても無理ではないかと思ったが、立ち入る必要もないため口には出さなかった。
そんなわけで我々はしばらく行動を共にすることになったのであった。



冒険者ギルドには様々な仕事依頼があるが、やはり一人よりは二人のほうが値のはる仕事がしやすいし、弓使いアーチャーである私は近接戦闘が得意な相方がいるのは心強い。
そういった現実的な事情もあるが、ヒューゴといるのは楽しかった。

獣は側にいるとき思えば忽然と姿を消すときもあった。だがいなくなったと思っても気がつけば戻っている。
だが、いてもなにをするでもない。
伏せて顎をのせ、退屈そうに私たちの仕事をただ見ているだけであるからた。
それはヒューゴが窮地におちいっても、その姿勢は変わらないようだった


そんな日々を送っていたある日である。
宿をとろうとした所、折しもお祭りがあり混雑しているため、一部屋しかないという。
ヒューゴは神経質なため人がいると寝付けないと言っており、我々はお宿屋ではお互い一部屋ずつとることに決めていたのだが、この時はそうもいかなかった。
黒い獣ももちろんついてきていたが、うっそりと入ってくるといつものように伏せていたので、気に留めないようにしていた。

さて、私は夜中眠りについたが、ふと目がさめてしまった。
うめき声がする。
ヒューゴがうなされているのだと思い、もう一方の寝台に近づき揺り動かす。
大丈夫か?と声をかけたり揺さぶったりしてみたが、脂汗をかき、耐えるように歯を食いしばり、体をかたくしているが、どうしても起こすことがならない。

困惑した私はなにげなく周りをみまわし、獣と目があった。
獣は微動だにせず伏せているが、暗闇の中に小さな2つの炎のような瞳が燃えていた。
にやりと笑いかけられたような気がして、私は我知らずぞっとした。
初めてその獣がこわいと思ったのである。


朝になると、ヒューゴは普通に起きてきた。
「俺はうなされてなかっただろうか?」
「うなされていたが、起こそうとしても起きなかったからほおっておいたが」
「ありがとう。バードのそういうところが助かる」
私の無関心さにヒューゴはホッとしたようであった。
このようなことは付き合いが長くなるにつれて何度かあったが、触れてほしくなさそうなので無関心を貫いていた。


ある時、野営をして二人で飲んでいた時であった。
ヒューゴの目の下にはくまがくっきりと出ている。
「最近寝れていないのか?」
珍しくかなり深酒していたのと、寝不足で酒がまわったのだろう、ヒューゴはとろんとした目で私を見て、はぐらかさずに答えた。
「寝るのが怖いんだ」
「怖い?眠るのが??」
「何故か聞きたい?」
別にいい、と言わなかったのは、私も酔っていたからかもしれない。

「俺は悪魔に魂を売った男なんだ」
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