地獄の果て残酷な獣に囚われた君を想う

鳥海あおい

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2.悪魔に魂を売った男のはなし

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俺の生まれた村は大きな湖の側にあった。
羊を飼い、人々が平和に暮らす小さな村であった。

街道から逸れているためよそ者はめったにこないが、ある日冒険者の一団が兵を連れてやってきたのである。聞けば国境の守備の強化に向かう途中だという。
旅人はひなびた村にとっては最大の娯楽である。
人々は彼らを歓待し、もてなした。

その夜である。
その日、羊小屋で羊の助産したあと疲れ果ててそのままうたたねしてしまっていた俺はパチパチという音と熱で目を覚ました。
俺は、飛び起きた。
火事だ。
羊小屋の戸を開け羊を追い出し、井戸の水をかぶってからめらめらと炎が燃え広がりつつある家へ飛び込む。
火事だ!逃げろ!と叫び、火をよけながらなんとか寝室に入った瞬間、俺の時間は静止した。
そこに安らかに寝ているはずの子供たちと妻が胸や首から血を流して死んでいたからだ。 
口には猿轡をされ、全裸であった。
体液にまみれだ死体を見れば、なにをされたか一目瞭然であった。
苦悶の死に顔。
苦しみながら死んだ事は明らかだった。

なんで?何でこんなことに? 
何もしてない。
何故何もせず、普通に暮らしていただけだ。
なのに、何故。
尊厳を奪われて、小さな子供たちまで容赦なく、しかも命まで奪わないといけないのであろうか。
しかも、家族が地獄の苦しみを味わっていたその時、自分はいったいなにをしていたのか…
自責と喪失の苦悶に呆然と立ちつくしていた俺は、外から聞こえてきた悲鳴にはっと我を取り戻した。
護身用に家に保管していた剣を取り出すと、外に飛び出す。

外はさらに地獄絵図であった。
奴らは逃げ惑う村人を殺していた。しかも、笑いながら。略奪し、家を燃やし、生きていても死んでいても構わず犯していた。
「何故…」
みんな生きていたのに。
ほんの数時間前まで笑って過ごし、彼らを貧しいながら心づくしのもてなしさえしたのに。

俺はただの羊飼いで、剣などほとんど握ったことがない。
ただ一指報いずにおれず、この一団のリーダーらしい男を探した。
リーダーはジークフリートという名前の長い銀髪の見目のよい男であるが、目立つからすぐどこにいるかわかった。
村長の家で血に濡れた長剣を持って立っている。背中を向けているから容易いと、剣を握って襲いかかった瞬間、男は振り向きざまに俺の剣を叩き落とした。
手がしびれたと思った瞬間、腹に灼熱感がはしった。
返す方で切られたのだ。
なすすべもなく倒れた俺を、男は引き起こして弱いくせに仇討ちか、とせせら笑った。
「なんで…何故こんなことを…人でなしが!」
俺の激情とは正反対に、男は心底どうでもよさそうであった。せせら笑う。
「別に理由なんて大してない。何か欲しいと思った時、たまたまこの村があったからだ」
愕然とする。
盗人…略奪者の理由なんてのだ。

腹から流れる血とともに命が流れてゆくのがわかった。
その時、男は俺の体をうつ伏せにテーブルに乗せると、服を剣で切り裂いた。 
おざなりな切り方に身体の傷が増えて新たな血が流れた。男が覆いかぶさってくる。
それは新たな、かつて味わったことのない恐怖であった。
普段は意識しない排泄の孔に、なにかがふれる。
固く熱いモノだ。
何かなんて知りなくないと心が考えることを拒絶したが、そんなことにはおかまいなくソレきつく閉じたそこを無理やりこじり開いて侵入してきた。
ミチ、と限界まで広がされ、薄く引き伸ばされた肉の環が切れ、新たなる血匂がたちこめる。
全身に凄まじい痛みと、拒絶感がはしり、嫌悪感に胃の奥から吐き気がこみ上げてきてえづいた。
下肢にぐうっと力が入り異物を排出しようとする。男は舌打ちすると途中まで打ち込んだ肉棒を引き抜いた。
ふっと思わず力が抜けるが、その瞬間男の指が入ってきて容赦なく中を穿られ、指と指を広げられて路を無理やり作られる。
改めて俺を引き裂きながら肉が入ってきた時、ついに食いしばっていた歯が緩み、喚き声がもれた。
罵声をあげ、毒づき、喚いたが、男の興奮を煽るだけであった。
欲望にまかせて孔を使う身勝手な突き上げに体を揺らされながら、まだ現実が信じられない思いでいっぱいだった。
これは、体を繋ぐことは、愛の行為、もしくは生殖のためではなかったのか。 
こんな理不尽な、暴虐なんて、知らない。

知らないでいたかった。


犯される苦痛は長く続いたが、一方的な快楽の行為はまた終わりも一方的で唐突だった。
男が男根を引き抜くと俺にふたたび剣を突き立てたのだった。剣先が身体を突き抜けてテーブルに突き刺さるのを感じた。
そして、それが引き抜かれると、俺の体は血と精をたれ長しながら床に崩れ落ちた。
「高貴な子種を注いでやったのを感謝して死ね」
冷たく言い放たれた声がふってきて、男は出ていった。


体が灼けるように痛かったが、だんだんと何にも感じなくなってきた。
火の燃える音が聞こえる。
新たに火を放ったのだろう。周りは火に包まれていた。


命の炎が燃え尽きようとしている中、俺の中は絶望と
憎悪の炎で焦げ付きそうであった。
許せない。
許せない。
死ねばいいのに。
こんなことをした奴らは罪無いものを踏みにじったのに、明日もまた普通に生きていくなんて。 
憎しみで人を殺せたら幾度も幾度でも奴らを、あの男を苦しめつくして殺してやるのに。
恨みはいくらでも湧いてくるのに、しかし、力の前には気持ちなど何もやくにたたないのであった。

そのうち、炎が俺にも燃えうつった。
熱い、痛い、苦しい、痛い。

最期の最期の瞬間まで恨みながら。
俺は焔に向かって焼かれて死んだ。



…はずだった。



その時、「何か」に何を引き換えにしても復讐したいかと囁いた気がした。
俺は、消えゆく意識の中でこたえた。
なにを引き換えにしても復讐したいと。 

その瞬間、何か、引っぱられるような、引き離されるような感じがして、なにかに捕らえられたと感じた。




そして。
気づいたら、俺は剣を握りしめて廃虚になった村に一人で立っていた。
あの黒い影のような獣が側にいた。
まるで逃さないというかのように。
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