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3.刹那の安らぎを求めて
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長く、重い話に、気がつけば私は酒をあおる手をとめていた。
「じゃあ、今ここにいるヒューゴは一度死んで生きかえったということか?」
「…」
信じられるわけがない。
旅を続けている間に、ヒューゴが血を流しているのも見たことがあるし、その体に鼓動が脈打っているのも知っている。
私の戸惑いを知ってか、ヒューゴは私の問には答えず、話を続けた。
「俺の命と引き換えに奴が望んだ代償はその夜すぐにわかった。眠ると俺は地獄にいたんだ。あいつの本体がいる場所にいた」
獣は時に彼に苦痛を与え、時に蹂躙した。甘く囁く時もある。
耐えられなければ復讐を諦めればよいと誘惑する。
それは朝、彼が目覚めるまで続いた。
まるで魂が縛り付けられているかのようだった。
眠れば必ずそこで目覚め、朝になればそこから開放される。苦痛が繰り返される日々にようやく彼は悪魔に魂を売るということがどんな事が悟った。
それは獣の悪魔が作り上げた地獄だった。彼が屈するまで、もしくは復讐を遂げるまで、延々と続く地獄。
その話を聞いた時の正直な私の感想といえば、にわかには信じがたいというよりは、これっぽっちも信じていないというのが正しかった。
獣は獣、所詮は動物である。
ヒューゴはなにか妄想にとらわれているのか、悪夢でも見たのではないだろうか。
悪魔などこの世の中にはいないし、死人は生きかえらない。世の中の理である。
しかし、だからといって頭ごなしに否定する必要もなかろうと思った。
そうか、と、いうと、ヒューゴはこんな話を聞かせてごめんと呟いた。
話の内容はどうあれ、ヒューゴが今まで言い淀んでいたことを吐露してくれたのは信頼の証のようで嬉しくもあった。
私はヒューゴを引き寄せ、肩を貸してやろうとした。
「少し眠るといい。その、見ててやるから」
「眠りたくない!今はあそこには行きたくないんだ。時々挫けそうになる…バード、お願いだ。今だけでいいから」
ヒューゴは私に抱きついてくると、口付けてきた。
厚みのある唇が触れると、その唇からは先程から飲んでいた酒の味がした。
「男はダメか?」
「ヒューゴ…」
「今だけ全て忘れたいんだ。忘れさせてくれないか」
多分、ヒューゴも酔っていたが、私もまた酔っていたのだと想う。
そうでなければ、その時劇的におとずれた肉体的精神的変化は説明がつかない。
他人への無関心さでわかると思うが、元々私はあまり性的なことにも興味が薄いたちであるし、とくに今まで男に性的な関心を抱いたこともない。
今まで一切ヒューゴをそんな目で見たことはなかったし、先程の話を聞いた後では躊躇いもあったが、求められているなら、応えてやりたいと思った。
身体の中ポッと火種が灯ったように欲望が生まれ、ゆっくり全身に広がっていった。
すがりつくように口付けてくるヒューゴの顔にそっと触れ、こちらからキスをしかえす。
「優しくする」
「…しなくていい」
優しさに慣れると辛くなるから、と、聞こえた気がしてなんだかそうならざるを得なかったのだろうと思うと切なくなる。
ヒューゴの抱えている寂しさや辛さが少しでも楽になるなら、今、今この時だけは何でもしてやろうと思った。
幾度もキスをしながらいつもはかっちり着ている服を緩めて胸元をはだけさせる。
いつもは隠れている肌が晒されるのは、何故かやたらと背徳的な感じがし、興奮を誘った。
呼吸とともに上下する喉元、胸、締まった腹の筋肉と唇を滑らす。
それから勃ちあがって存在を主張する男根にも口づける。
命の源泉であるそこを私は初めてであったのに抵抗なく口に含んだ。
「…!」
声を噛み殺しヒューゴは身体を身悶えさせる。
壮絶な色気に、何もされていないのに欲望が刺激され、身体が昂ぶる。
幾分もたたず、ヒューゴは遂情した。口内に吐き出されたヒューゴの味は苦く、生ぬるかった。
ヒューゴの指が私の下肢を捉え、私も彼の達したばかりの柔らかい肉茎に触れ、手のひらで包み込む。
ひくりと反応したそこは健気に脈打ち、またすぐに大きくなる。
お互いに指で慰めあい、お互い極みを迎えてごろりと身を横たえると、すり、と、ヒューゴが私に身をすりよせてきた。
「温かい…」
温もりを求める動作に、私はいくらでも自分の熱を分け与えるためにまたヒューゴを抱き寄せた。
幾度ともしれない快楽の極みの果てに、ヒューゴがふつりと意識を手放した。
やはり疲れ果てていたのだろう。
今は静かに眠っているのを確認すると私は身体を拭いてやろうと布を手にした。
ヒューゴは幾度も切ながり強く欲していたが、彼が何を求めているかわかっていても、私はそれだけは気づかないふりをした。
あんな話を聞いたばかりで、彼の中に入ることは傷つけることにつながらないかという抵抗があったし、
こうして旅を続けながらゆっくり時間をかければよいと思ったのだった。
水に浸した布を手に意識のないヒューゴの服を脱がした私は、目を疑った。
行為中は夢中だったのと、影になっていたので気づかなかったが、ヒューゴの身体中が傷だらけであったのだ。
古傷ではない。
まだ割合最近ついたようなものや、治りかけているものもある。ミミズ腫れや、掻いたような跡、打撲跡、様々な状態のものの中に、肩に一際大きな獣の噛み跡のようなものを発見し、私は思わずゾッとしてしまった。
だが、私の頭は非科学的なものを拒絶した。
きっと今まで仕事中に怪我を追ったことを隠していたのか、もしくは私に隠れてそういった趣味を嗜んで秘めてきたのか、私の頭はそういう事にしてしまうほうが簡単だったのだ。
その一方で言いしれぬ説明がつかない不安が心にしのびこんでくるのも感じた。
私はヒューゴの服を整えてやると、その横で眠りにつくことにした。
「じゃあ、今ここにいるヒューゴは一度死んで生きかえったということか?」
「…」
信じられるわけがない。
旅を続けている間に、ヒューゴが血を流しているのも見たことがあるし、その体に鼓動が脈打っているのも知っている。
私の戸惑いを知ってか、ヒューゴは私の問には答えず、話を続けた。
「俺の命と引き換えに奴が望んだ代償はその夜すぐにわかった。眠ると俺は地獄にいたんだ。あいつの本体がいる場所にいた」
獣は時に彼に苦痛を与え、時に蹂躙した。甘く囁く時もある。
耐えられなければ復讐を諦めればよいと誘惑する。
それは朝、彼が目覚めるまで続いた。
まるで魂が縛り付けられているかのようだった。
眠れば必ずそこで目覚め、朝になればそこから開放される。苦痛が繰り返される日々にようやく彼は悪魔に魂を売るということがどんな事が悟った。
それは獣の悪魔が作り上げた地獄だった。彼が屈するまで、もしくは復讐を遂げるまで、延々と続く地獄。
その話を聞いた時の正直な私の感想といえば、にわかには信じがたいというよりは、これっぽっちも信じていないというのが正しかった。
獣は獣、所詮は動物である。
ヒューゴはなにか妄想にとらわれているのか、悪夢でも見たのではないだろうか。
悪魔などこの世の中にはいないし、死人は生きかえらない。世の中の理である。
しかし、だからといって頭ごなしに否定する必要もなかろうと思った。
そうか、と、いうと、ヒューゴはこんな話を聞かせてごめんと呟いた。
話の内容はどうあれ、ヒューゴが今まで言い淀んでいたことを吐露してくれたのは信頼の証のようで嬉しくもあった。
私はヒューゴを引き寄せ、肩を貸してやろうとした。
「少し眠るといい。その、見ててやるから」
「眠りたくない!今はあそこには行きたくないんだ。時々挫けそうになる…バード、お願いだ。今だけでいいから」
ヒューゴは私に抱きついてくると、口付けてきた。
厚みのある唇が触れると、その唇からは先程から飲んでいた酒の味がした。
「男はダメか?」
「ヒューゴ…」
「今だけ全て忘れたいんだ。忘れさせてくれないか」
多分、ヒューゴも酔っていたが、私もまた酔っていたのだと想う。
そうでなければ、その時劇的におとずれた肉体的精神的変化は説明がつかない。
他人への無関心さでわかると思うが、元々私はあまり性的なことにも興味が薄いたちであるし、とくに今まで男に性的な関心を抱いたこともない。
今まで一切ヒューゴをそんな目で見たことはなかったし、先程の話を聞いた後では躊躇いもあったが、求められているなら、応えてやりたいと思った。
身体の中ポッと火種が灯ったように欲望が生まれ、ゆっくり全身に広がっていった。
すがりつくように口付けてくるヒューゴの顔にそっと触れ、こちらからキスをしかえす。
「優しくする」
「…しなくていい」
優しさに慣れると辛くなるから、と、聞こえた気がしてなんだかそうならざるを得なかったのだろうと思うと切なくなる。
ヒューゴの抱えている寂しさや辛さが少しでも楽になるなら、今、今この時だけは何でもしてやろうと思った。
幾度もキスをしながらいつもはかっちり着ている服を緩めて胸元をはだけさせる。
いつもは隠れている肌が晒されるのは、何故かやたらと背徳的な感じがし、興奮を誘った。
呼吸とともに上下する喉元、胸、締まった腹の筋肉と唇を滑らす。
それから勃ちあがって存在を主張する男根にも口づける。
命の源泉であるそこを私は初めてであったのに抵抗なく口に含んだ。
「…!」
声を噛み殺しヒューゴは身体を身悶えさせる。
壮絶な色気に、何もされていないのに欲望が刺激され、身体が昂ぶる。
幾分もたたず、ヒューゴは遂情した。口内に吐き出されたヒューゴの味は苦く、生ぬるかった。
ヒューゴの指が私の下肢を捉え、私も彼の達したばかりの柔らかい肉茎に触れ、手のひらで包み込む。
ひくりと反応したそこは健気に脈打ち、またすぐに大きくなる。
お互いに指で慰めあい、お互い極みを迎えてごろりと身を横たえると、すり、と、ヒューゴが私に身をすりよせてきた。
「温かい…」
温もりを求める動作に、私はいくらでも自分の熱を分け与えるためにまたヒューゴを抱き寄せた。
幾度ともしれない快楽の極みの果てに、ヒューゴがふつりと意識を手放した。
やはり疲れ果てていたのだろう。
今は静かに眠っているのを確認すると私は身体を拭いてやろうと布を手にした。
ヒューゴは幾度も切ながり強く欲していたが、彼が何を求めているかわかっていても、私はそれだけは気づかないふりをした。
あんな話を聞いたばかりで、彼の中に入ることは傷つけることにつながらないかという抵抗があったし、
こうして旅を続けながらゆっくり時間をかければよいと思ったのだった。
水に浸した布を手に意識のないヒューゴの服を脱がした私は、目を疑った。
行為中は夢中だったのと、影になっていたので気づかなかったが、ヒューゴの身体中が傷だらけであったのだ。
古傷ではない。
まだ割合最近ついたようなものや、治りかけているものもある。ミミズ腫れや、掻いたような跡、打撲跡、様々な状態のものの中に、肩に一際大きな獣の噛み跡のようなものを発見し、私は思わずゾッとしてしまった。
だが、私の頭は非科学的なものを拒絶した。
きっと今まで仕事中に怪我を追ったことを隠していたのか、もしくは私に隠れてそういった趣味を嗜んで秘めてきたのか、私の頭はそういう事にしてしまうほうが簡単だったのだ。
その一方で言いしれぬ説明がつかない不安が心にしのびこんでくるのも感じた。
私はヒューゴの服を整えてやると、その横で眠りにつくことにした。
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