××男と異常女共

シイタ

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Ignorance is bliss.

6-17

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 姶良がボタンを押して順調にアームを動かしていく。
 順調に、順調にアームは右に動いていく。
 順調に、順調に、順調に……

「おい」

「……何?」

「何じゃねぇよ。どっからどう見ても行き過ぎだろうが。一体何を取るつもりなんだよ」

「……あ」

「あ、じゃねぇよ」

 アームはすでに限界まで右に動いており、そこで取れる景品は一つもない。
 その結果に姶良は、何故か今気づいたみたいな反応を見せる。
 意味不だ。
 しょうがないので、一回目は諦めて二回目の挑戦である。
 
「――おい」

「あぅ」

 こつんと頭を軽く小突いて姶良に声をかける。
 拍子に、右に動いてたアームが止まった。
 危ないところである。あのまま右に行ってしまっていたら、また一回目と同じことになってしまうところであった。
 なんでそんなことになるのか。操作がわかっていないのかと思って姶良の手元を見ていたが、そうではなかった。
 こいつ前を見ないで下ばっか見ていやがった。つまり、アームを見ないでボタンしか見ていなかったのだ。

「……痛い」

「そんな強く突いてないだろ。それより、お前ボタンばっか見すぎだから。アームを見ないとダメだろ」

「……それだとボタンが押せない」

「ボタン押しながらアーム見るんだよ。当然だろ」

「……」

 俺の言葉を聞いてアームとボタンを交互に見始める姶良。そして、ボタンの上に手を置きアームに視線を定めてゲームを再開する。
 ――と思いきやなかなかボタンを押さず、何故かチラチラとアームからボタンに視線を移している。
 どうやら、見ないでボタンを押すのが不安なようだ。
 『ながら行動』できないのかよ。どんだけ不器用な奴なんだ。
 ……仕方ない。このまま見てても進まそうだし、手を貸すことにしよう。

「ほら、ボタン押すのは手伝ってやるからお前はアームだけ見てろ」

「……ん」

 ボタンの上にある姶良の手に俺の手を重ね、彼女がアームだけを見てボタンを押せるように補助する。
 それでようやく不安がなくなったのか、今度はしっかりとアームの方にだけ目を向けた姶良がボタンを押しゲームが再開された。

 そこからは、クレーンゲームでよく見る光景である。
 アームが動いて止まると、下へ下へと下降していき景品を掴みにいく。見事に景品を掴んだアームが次は上へ上へと上昇していき、運が良ければ上手くいけば落とし口まで運んでくれ景品ゲットでゲームクリア。運が悪ければ上手くいかなければ、アームが途中で景品を落としてしまい景品ゲットならずでゲームオーバーだ。
 姶良は初めと違いしっかりとアームを動かしてスライムがある真上できっちりと止めた。そのため、下降していったアームは見た目だけはちゃんとスライムを掴んではいた。がしかし、アームが上昇した途端にスライムはアームから滑るように抜けて下に落ちてしまった。
 ゲームオーバーである。

 俺がクレーンゲームをしていた時に説明した通り、目の前にあるアームには見た目に反してスライムを持ち上げれるだけの力がない。そういう風にゲーセンの店員によって調整されているのだ。
 なら何度やっても取れるわけないじゃないかと思うかもしれないが、これがこのクレーンゲーム機のズルいところ。このクレーンゲーム機のアームの力は、投入されたお金の総額で変化するのである。
 分かりやすく説明すると、投入された総金額が五〇〇〇円以下の場合アームの力は常に一〇パーセントであり景品が取れない力の強さになっている。そして、投入された総金額が五〇〇〇円を超えたらアームの力が一〇〇パーセントになり景品が取れる力の強さになるのだ。その後、景品が取られたら総金額はリセットされまたアームの力は一〇パーセントに戻ってしまう。

 とどのつまり、このクレーンゲームで景品を取るにはアームの力が一〇〇パーセントになっている瞬間に運良くできるか、アームの力が一〇〇パーセントになるまでお金をつぎ込むかである。
 まあさっき言った総金額五〇〇〇円というのは例えであり、クレーンゲーム機を調整するゲーセン店員によってその金額は変わってくる。もしかしたら、優しく一〇〇〇円ぐらいかもしれないし、厳しくもっと高い金額かもしれない。
 そんなのにお金をつぎ込んでしまったら、最悪財布の中身がすっからかんだ。そんなバカなことをするのは、よっぽどのバカか金持ちぐらいである。
 俺はどっちでもないため、そんなことは絶対にしないけど。

「……落ちた」

「ああ。失敗だな」

「……そう」

「……」

 特に残念そうな感じもなく、淡々とした声を発する姶良。せっかくのゲームなのに楽しんでる様子が全くない。
 実際、楽しんではいないのだろう。
 俺が少し無理矢理にやらせているところがあるからかもしれないが、それでもゲームは楽しむものだ。楽しめないゲームなんてやるだけ時間の無駄だ。
 そんな無駄な時間にならないように、姶良がこのゲームを楽しめるようにしなければならない。でないと、姶良のお祝いにならない。
 
「……おい」

「……?」

「あの景品を落とす穴があるよな」

「……ん」

「あれはゴミを入れるための穴――つまりゴミ箱だ。そんで、置かれているぬいぐるみは全部ゴミだ。ゴミは何処に入れるんだっけか?」

「……ゴミ箱」

「そうだ。お前がいつもやってることだな。これは置かれているゴミをアームで拾ってゴミ箱に入れるゲームだ。次はそう思ってやってみろ」

「……………………ん」

 少しの間があった後に、さっきよりも力強い返事をする姶良。どうやら、彼女のやる気を出すことには成功したようである。
 一応先ほどと同じで俺が手を貸して、もう一度お金を入れ三度目の挑戦だ。
 
 ――四度目……五度目……六度目。
 立て続けの同じ光景、同じ失敗。
 不満な顔になっている姶良の顔がショーウィンドウに反射してよく見える。
 おまけに「……むぅ」という唸り声まで上げているところを見るに、相当な不満が溜まっていらっしゃるご様子だ。

「俺がやってたの見てなかったのかよ。まともにやっても取れないぞ」

「……むぅ……もう一回」

「はいはい」

 ため息まじりにお金を入れて、七度目の挑戦。
 やる気を出してくれたのは嬉しいが、そろそろまともに掴んでも取れないことを学習して欲しい。
 姶良がそれに気付くのが先か、設定された金額に達してアームの力が一〇〇パーセントになるのが先か。
 そんなことを思っていると姶良が動かしているアームに変化が現れた。
 さっきまでただ単調にスライムの真上へ向かっていたアームが、今度は真上ではなく少し横にずれて降下していく。
 姶良が狙っているだろうスライムを見るに、どうやらそのスライムのタグを狙っているようだ。
 俺が言ったこともあるだろうが、ようやくまともにやっても取れないことに気付いたか。だが気付いたとことで、取れるかどうかは別の話だが。

「――おっ」

「……」

 予想外にも降下したアームは、一発で見事に狙いのタグを引っ掛けた。
 上昇していくアームと共に地面から離れていくスライム。今のところ引っ掛かってるタグが取れそうなことはない。
 しかし、この後がどうなるか分からない。
 クレーンゲームでは景品を掴み持ち上げても、落とし口まで運ばれるまでに厄介なものが二つある。
 一つはアームが上昇し切った瞬間に起こる衝撃での揺れ、もう一つはアームが景品を落とし口まで運ぶために動く揺れだ。
 アームの力が弱いという問題がなかったとしても、大抵の場合この二つの揺れのどちらかでアームが景品を落としてしまう。
 その二つを乗り越えて、やっと景品を手に入れられる。

 アームが上昇し切ると、ガタンという衝撃と共に吊られたスライムが揺れる。
 すると姶良の手が強張るのが重なっている手から伝わってきた。揺れでスライムが落ちてしまうことを心配しているのだろう。
 だがほっとしたことに、アームに引っ掛かっているタグは外れずスライムは未だ宙ぶらりんだ。
 まずは最初の揺れをクリアである。
 あとはこの次に起こる揺れだけ。
 上昇し切ったアームが、次はスライムを落とし口まで運ぶために動き出す。
 それにつられてスライムがゆらゆらと左右に揺れ動く。
 そこまで大きな揺れではないが、それでもその揺れでタグが外れてしまうんじゃないかと考えてしまう。
 ゆっくりと落とし口まで動いていくアーム。
 それをじっと見つめる姶良。彼女の手は未だに強張ったままだ。
 
 ――ガタン。
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