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××男の一日
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「また出掛けるの?」
テレビの前を陣取って、画面を独占していたユウノが問いかけてくる。
もっとテレビの前から離れて見ないと目が悪くなるぞ、と注意したくなるような光景だが、ユウノにはもう縁のないことだ。
「ああ」
「いってらっしゃーい」
朝と変わらない見送りの言葉を受けながら、俺は家を出た。
この町の夜は煩すぎず、静かすぎず、明るすぎず、暗すぎない。
しかし、決して穏やかではないこの町の夜。
そんな曖昧で危なげなこの町の夜を、俺は歩き廻る。
一人、ひっそりと、目的なく。
そんな夜廻りを日課とまではいかないが、ほぼ毎日行なっていた。
通常こんな時間に、学生が一人で歩いているところを警官などに見られれば、補導されること間違いなしだ。しかし、俺は一度もそういうのを受けたことがなかった。
人を見かけないわけでもなく、すれ違わないわけでもないのに。
そんなことを考えていれば、早速前方からこちらに向かってくる人影が目に入ってくる。と同時に、ガラガラガラとキャスター付きのバックを引く時のような音が聞こえてきて、静かな夜によく響いていた。
約五秒。
俺と人影の距離がある程度近づいてきたところで、そいつが自分の体半分ぐらいの大きな箱を、引きずるのではなく、押して運んでいるのが確認できた。
顔はまだ確認できず、相手が男か女かも分からない。
あと五歩。
そいつと俺が交わるまでの距離。その交わる場所には、まるで用意されてたかのように街灯が設置されており、スポットライトのようにその場所を照らしていた。
ゼロ。
俺とそいつが同時に街灯の光に照らされて、その顔が露わになる。
「こんばんわ」
「おう」
頭の上でリボンを揺らすそいつが挨拶してきたので、一応返事をしておき、そいつが立ち止まったので、俺も歩みを止める。
人影の正体は朝にも会った、『ゴミ女』こと御五智姶良だった。
そして姶良が持っている大きな箱は、人一人が入れそうなぐらいのサイズがある、キャスター付きのゴミ箱だ。
こんな時間に、そんなものを持って、女の子が一人、何をしているのか?
普通の人なら、そんな疑問が湧いて出てくるだろうが、俺にはない。何故なら、姶良が何をしているのか知っているから。
それは朝と変わらない、ただのゴミ拾い。
ただ、朝とはまた違う夜のゴミ拾い。
「またお仕事か?お前も大変だな」
「もう慣れた」
「そうかい。そんで中身は?」
「ある」
「……」
俺は姶良が持つゴミ箱を見ながら、その中に入っているだろうゴミを想像しようとして、やめておく。
想像しても意味がないし、どうでもいいことだ。
「ヘルプは?」
「今日は大丈夫」
「そうかい。んじゃ、気をつけろよ」
「……ありがとう」
そう言って俺は止めていた歩みを進め、姶良の横を通って、彼女と別れる。
瞬間、姶良が俺にしか聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。
「つけられてるよ」
「……」
俺は足を止めずに、そのまま歩き続ける。
少しすると後ろの方からガラガラガラという音が聞こえ出し、やがて消えていった。
テレビの前を陣取って、画面を独占していたユウノが問いかけてくる。
もっとテレビの前から離れて見ないと目が悪くなるぞ、と注意したくなるような光景だが、ユウノにはもう縁のないことだ。
「ああ」
「いってらっしゃーい」
朝と変わらない見送りの言葉を受けながら、俺は家を出た。
この町の夜は煩すぎず、静かすぎず、明るすぎず、暗すぎない。
しかし、決して穏やかではないこの町の夜。
そんな曖昧で危なげなこの町の夜を、俺は歩き廻る。
一人、ひっそりと、目的なく。
そんな夜廻りを日課とまではいかないが、ほぼ毎日行なっていた。
通常こんな時間に、学生が一人で歩いているところを警官などに見られれば、補導されること間違いなしだ。しかし、俺は一度もそういうのを受けたことがなかった。
人を見かけないわけでもなく、すれ違わないわけでもないのに。
そんなことを考えていれば、早速前方からこちらに向かってくる人影が目に入ってくる。と同時に、ガラガラガラとキャスター付きのバックを引く時のような音が聞こえてきて、静かな夜によく響いていた。
約五秒。
俺と人影の距離がある程度近づいてきたところで、そいつが自分の体半分ぐらいの大きな箱を、引きずるのではなく、押して運んでいるのが確認できた。
顔はまだ確認できず、相手が男か女かも分からない。
あと五歩。
そいつと俺が交わるまでの距離。その交わる場所には、まるで用意されてたかのように街灯が設置されており、スポットライトのようにその場所を照らしていた。
ゼロ。
俺とそいつが同時に街灯の光に照らされて、その顔が露わになる。
「こんばんわ」
「おう」
頭の上でリボンを揺らすそいつが挨拶してきたので、一応返事をしておき、そいつが立ち止まったので、俺も歩みを止める。
人影の正体は朝にも会った、『ゴミ女』こと御五智姶良だった。
そして姶良が持っている大きな箱は、人一人が入れそうなぐらいのサイズがある、キャスター付きのゴミ箱だ。
こんな時間に、そんなものを持って、女の子が一人、何をしているのか?
普通の人なら、そんな疑問が湧いて出てくるだろうが、俺にはない。何故なら、姶良が何をしているのか知っているから。
それは朝と変わらない、ただのゴミ拾い。
ただ、朝とはまた違う夜のゴミ拾い。
「またお仕事か?お前も大変だな」
「もう慣れた」
「そうかい。そんで中身は?」
「ある」
「……」
俺は姶良が持つゴミ箱を見ながら、その中に入っているだろうゴミを想像しようとして、やめておく。
想像しても意味がないし、どうでもいいことだ。
「ヘルプは?」
「今日は大丈夫」
「そうかい。んじゃ、気をつけろよ」
「……ありがとう」
そう言って俺は止めていた歩みを進め、姶良の横を通って、彼女と別れる。
瞬間、姶良が俺にしか聞こえないぐらいの小さな声で呟いた。
「つけられてるよ」
「……」
俺は足を止めずに、そのまま歩き続ける。
少しすると後ろの方からガラガラガラという音が聞こえ出し、やがて消えていった。
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