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××男の一日
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姶良に出会う前の静かな夜に戻り、俺は夜廻りを再開する。
右へ左へ時にはまっすぐ、目的がない歩みは規則性がなく、迷いもない。
踏切を渡ろうとしたところで?設置されている警報機が鳴り出し、丸く赤い光が点滅しだす。
俺は構わず進んで踏切を渡りきり、後ろを振り向くと黒と黄色のしましま棒があちらとこちらの道を遮断した。
俺はそのまま立ち止まり、遮断機の向こうにある、自分が通ってきた道を眺める。そこには人影の一つも見当たらず、本当にただの道があるだけ。
左の方からけたたましい音が聞こえてくると、すぐ目の前にその音の発生源である鉄の塊が、決められた路線を走って行く。
俺はそんなものには目もくれず、電車の側面で見えない向こう側の道を、ひたすら見ていた。
電車は踏切を越え、あのけたたましい音も聞こえなくなっていき、視界が開ける。
そして、先ほどまで誰もいなかった遮断機の向こうには、一人の少女が立っていた。
「あらら、バレちゃった」
茶髪ロングの少女はそう言うと、軽い足取りで踏切を渡ってくる。
「いつから気付いていたのかな? 今日はいつも以上に気を付けてついてきてたのに」
「いつもいつもついてくんなよ、ひとみ」
「い・や♪」
「……」
こいつの名前は空乃ひとみ。
俺と同じ高校に通う女であり、学校ではそれなりの有名な人物。
そして俺に付き纏う、『ストーカー女』だ。
「だって、私の生き甲斐なんだもん。やめられないよ」
「こんな時間に歩いてたら危ないんじゃないですか? 一応女の子でしょ」
「心配してくれるんだ。嬉しいなー」
「帰れって言ってんだよ」
「じゃあ家まで送ってほしいな」
「ふざけんな、死ね」
俺はそう言い放ちひとみと別れようとするが、当然のようにストーカー女は俺の横に並び、ついてくる。
どうせ言っても聞かないため、もう何も言わないが、悪態ぐらいはつく。
「……この異常女が」
「ひっどーい。私はいたって普通の女の子だよ」
「自分で気付いてない時点で異常だ」
「……」
ひとみが異論があると言いたそうな顔をして俺の方を見ると、一変、納得したように「そうだね」とニコリ顔で言った。
まるで俺の言い放った言葉のいい例が、俺自身であるかのように。
「おい、言っとくが、俺は普通で普通のどこにでもいる男子高校生だぞ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「でも、普通で普通のどこでもいる高校生は、こんな夜道を一人で徘徊なんてしないと思うんだけど」
「探せばそんな高校生もいるだろ」
「それに、普通の人はそんな目をしてないと思うけど」
「一体どんな目だよ、それ」
急にひとみは俺の前に出てくると、まるでキスを迫るかのように、至近距離まで顔を近づけてくる。
同時に女特有の甘ったるい香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
「どんな人に会っても、どんな事が遭っても、何を見ても、何を知っても、何の感情も映さない。まるで死んでいるような、そんな目」
「……近いんだよストーカー」
「キスしていい?」
「殺すぞ」
俺はデッカい虫を払うかのように腕を振ると、ひとみはそれを華麗な後ろステップで躱した。
「じゃあ私こっちだから、ここでお別れだね」
「清々するわ」
「じゃあね、八切キリヤくん。また学校でね」
そう言って、ひとみは自らが指差した道に消えていった。
残ったのは静寂と暗闇、そして俺だけ。
ふと、何かが聞こえたような気がした俺は、後ろを振り向いた。
しかし、後ろにあるのは、同じ静寂と暗闇だけである。
俺は気の所為であると結論づけて、帰路に立つことにした。
こんな一日が、俺の日常である。
××男の一日 (終わり)
右へ左へ時にはまっすぐ、目的がない歩みは規則性がなく、迷いもない。
踏切を渡ろうとしたところで?設置されている警報機が鳴り出し、丸く赤い光が点滅しだす。
俺は構わず進んで踏切を渡りきり、後ろを振り向くと黒と黄色のしましま棒があちらとこちらの道を遮断した。
俺はそのまま立ち止まり、遮断機の向こうにある、自分が通ってきた道を眺める。そこには人影の一つも見当たらず、本当にただの道があるだけ。
左の方からけたたましい音が聞こえてくると、すぐ目の前にその音の発生源である鉄の塊が、決められた路線を走って行く。
俺はそんなものには目もくれず、電車の側面で見えない向こう側の道を、ひたすら見ていた。
電車は踏切を越え、あのけたたましい音も聞こえなくなっていき、視界が開ける。
そして、先ほどまで誰もいなかった遮断機の向こうには、一人の少女が立っていた。
「あらら、バレちゃった」
茶髪ロングの少女はそう言うと、軽い足取りで踏切を渡ってくる。
「いつから気付いていたのかな? 今日はいつも以上に気を付けてついてきてたのに」
「いつもいつもついてくんなよ、ひとみ」
「い・や♪」
「……」
こいつの名前は空乃ひとみ。
俺と同じ高校に通う女であり、学校ではそれなりの有名な人物。
そして俺に付き纏う、『ストーカー女』だ。
「だって、私の生き甲斐なんだもん。やめられないよ」
「こんな時間に歩いてたら危ないんじゃないですか? 一応女の子でしょ」
「心配してくれるんだ。嬉しいなー」
「帰れって言ってんだよ」
「じゃあ家まで送ってほしいな」
「ふざけんな、死ね」
俺はそう言い放ちひとみと別れようとするが、当然のようにストーカー女は俺の横に並び、ついてくる。
どうせ言っても聞かないため、もう何も言わないが、悪態ぐらいはつく。
「……この異常女が」
「ひっどーい。私はいたって普通の女の子だよ」
「自分で気付いてない時点で異常だ」
「……」
ひとみが異論があると言いたそうな顔をして俺の方を見ると、一変、納得したように「そうだね」とニコリ顔で言った。
まるで俺の言い放った言葉のいい例が、俺自身であるかのように。
「おい、言っとくが、俺は普通で普通のどこにでもいる男子高校生だぞ」
「そうかな?」
「そうだよ」
「でも、普通で普通のどこでもいる高校生は、こんな夜道を一人で徘徊なんてしないと思うんだけど」
「探せばそんな高校生もいるだろ」
「それに、普通の人はそんな目をしてないと思うけど」
「一体どんな目だよ、それ」
急にひとみは俺の前に出てくると、まるでキスを迫るかのように、至近距離まで顔を近づけてくる。
同時に女特有の甘ったるい香りが、俺の鼻腔をくすぐる。
「どんな人に会っても、どんな事が遭っても、何を見ても、何を知っても、何の感情も映さない。まるで死んでいるような、そんな目」
「……近いんだよストーカー」
「キスしていい?」
「殺すぞ」
俺はデッカい虫を払うかのように腕を振ると、ひとみはそれを華麗な後ろステップで躱した。
「じゃあ私こっちだから、ここでお別れだね」
「清々するわ」
「じゃあね、八切キリヤくん。また学校でね」
そう言って、ひとみは自らが指差した道に消えていった。
残ったのは静寂と暗闇、そして俺だけ。
ふと、何かが聞こえたような気がした俺は、後ろを振り向いた。
しかし、後ろにあるのは、同じ静寂と暗闇だけである。
俺は気の所為であると結論づけて、帰路に立つことにした。
こんな一日が、俺の日常である。
××男の一日 (終わり)
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