恋人は副会長

福山ともゑ

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(77)恋人への決別 病院編

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それから直ぐに、病院へ連れて行かれた。
背中に付けられたタバコの焦げ跡、顔や口の中や、尻の中に放たれた5人のモノ。
それらを洗われ、胴体に付けられた無数の痣、キスマークは直ぐには消えない。
その夜は、病院で検査入院をすることになった。
先生は、俺の家に電話をすると言ってたが、俺は「自分で言うから、まだ言わないで欲しい」と、お願いした。
翌日の午前中、高田先輩が病院に来た。
ユウはだんまりを通してるので、俺に話を聞きに来たらしい。
警察に話したことと同じ事を高田先輩にも話した。
でも、まだ納得してないみたいだ。

夕食後も、誰かがノックして入って来た。
俺は、(また刑事かよ。いい加減にしてくれ)と思って無視していた。
でも、入って来た人物は刑事ではなかった。
 「コウキ…」
え…、この声、副会長?
一番会いたくて、一番声を聞きたくて、今、…一番会いたくない人。

横向きになっていた俺は、背中から抱きしめられている。
久しぶりに感じる、この温もり。
副会長の声が聞こえる。
 「コウキ。テルとマサから聞いて驚いたよ。でも、俺はコウキから聞きたい。
何があったのか、教えて?」
 「ユウはどうしてますか?」
 「あいつは何も言わない。」
 「なんで…、なんで俺なのか。それを知りたい…」
 「うん」

刑事や高田先輩に話した事を話した。
でも、これだけは言っておかないと、そう思ってもう一度話し出した。
 「俺は…、5人の男に犯された。麻薬なんて知らない。
俺は媚薬を飲まされたんだって。口の中と尻の中に入れられたモノは、錠剤の媚薬だって。
ごめんなさい。俺は、他の男の身体をも受け入れてしまった。最悪な形で…。
迷惑かけたくないし、邪魔もしたくない。だから…、別れましょう」

 「コウキ。俺の顔を見て言ってくれる?」
首を横に振り、鼻水をずるずる言わせていた。こんな泣き顔を見せたくないし、見られたくない。
副会長の腕は、緩むことが無かった。
本当なら、お帰りなさいと言って抱き付きたい。
俺は背中に感じる副会長の温もりと、俺の身体を抱きしめてくれてる両腕の感触を、ありがたいと思っていた。
その腕を持ち上げ頬ずりをしていた。
 「コウキ…」
本当なら、もっと抱きしめられたい。もっと温もりを感じていたい。
だけど俺は言っていた。
 「…短い間だったけど、楽しかったです。」
そう言って、俺は抱きしめてくれてる腕を解いた。
副会長の声がする。
 「俺の方を見て」
俺は首を横に振った。
すると、強めの声で名前を呼んできた。
 「コウキッ」
もう一度、首を横に振った。

 「顔を見せろ!」
くるっと、身体を180度返された。
でも、俺は布団で顔を隠した。が、布団を引き剥がしてくれる。
 「や、やだっ…」
そう言って、俺は枕に顔を押し付け枕を抱きしめた。


副会長が溜息をついたのが分かった。
 「それなら、俺の質問に答えろ。どうしてユウを『チビ』」だと言った?」
 「それは…、他に、何て言えば良いのか、思いつかなかったから」
 「なんで?」
 「だって、名前で言えば、あいつ等に名前と顔を覚えられる。俺は、嫌われても良い。そう思ったから、チビだと言ったんだ。ユウは、チビだと言われる事が嫌いなのは知ってたから。
すぐ逃げると…、そう思ってたのに…。中々逃げなくて、チビチビと連呼すれば、怒って行くだろうと、思って…。やっと、逃げてくれた・・・。」

俺は泣きながらでも、一気に喋っていた。
 「あいつ等は、俺の名前と顔を覚えた。釈放されると、直ぐに俺を探すだろう。
俺は、もうユウとは遊ばない。俺と一緒に居ると、ユウまで、こんな目に遭う。
こんなのは、俺だけでいい…。
明日、退院したら荷物を取りに行きます。その時が最後です。
もう、話したくない…。」
副会長は、一言だけだった。
 「分かった…」
そう言って、俺の前髪を掻きあげて額をだそうとしてるみたいだ。
やだっ…。泣き顔見られるじゃないかっ…。
枕に顔を押し付け、ぎゅっと枕を抱いていた。
暫らくの間、何もしてこないので安心していた。
すると、唇に何かが触れてる感覚がある。これは、枕カバーとは違う。
思わず目を開けてしまった。
え…!

目の前には、意志の強い黒い瞳が、俺を見ていた。
この目は、あの日、俺に告ってきた目と同じ目だ。
俺は、また泣き出していた。
そんな俺に、副会長は唇を離し優しく頭を叩いてくれる。
 「本当に、お前は泣き虫の笑い虫だよな…」

その言葉に、俺は、こう返していた。
 「病院のベッドは狭いんだから、入ってこないで…」


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