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私は勢いよく歩き、クリストフ様の頭上まで来た。

「クリストフ様」
「え! ロ、ローラか!?」
「……ローラ以外の女に見えますか? マリアーナが二人いるとでも?」

突然私が現れたから、マリアーナはおびえてクリストフ様から離れた。
クリストフ様もマリアーナの手を握っていたはずだったのに、簡単に手放した。

簡単に手放すくらいなら、どうしてこんなことしてるのよ。
この女も、クリストフ様に遊ばれているだけだってことがわからないわけ?
ああ……私が好きだったクリストフ様の白くて長い指……私だけのものではなかったくちびる……。

「す、すまないローラ。これはその、ちょっとした気の迷いというか……戯れなのだよ! 初めてのことなんだ」

「私という婚約者がいながら、他の女に結婚しようと言うのが戯れだと?」

「いや、だからそれは……そのときの言葉のあやというかだな……」

「はっきり言ってみてください」

「そう! これは貴族のたしなみというものなんだ。ローラにはまだわからないかもしれないけど。いろんな女性を知ることで、貴族として人間理解を深めるというか、そういう類のものなんだ!」

マリアーナは黙ったまま、悲しそうな、こわがっているような、複雑な顔をしている。
自分との逢瀬を「人間理解」なんて言われてもねえ。
普通は冷めちゃう。
そしてなによりこうして浮気された私の気持ちをクリストフ様は少しも「人間理解」できていないじゃないの。

「あの……わたし帰りますね、ごめんなさい、失礼します」
マリアーナがそう言ったが、私は止めた。
「あなたもここにいなさい! クリストフ様の『人間理解』とやらを聞こうじゃないの? ねえ? 講義してもらいましょう」
「ひぃぃぃぃ……」

マリアーナは恐怖のあまりぷるぷる震えていた。
私も怖さが出せるようになったのかしら。


そしてクリストフ様は苦し紛れに弁明を始めた。
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