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レオンハルトは「え!」と言って驚いていたけど、本気にしている感じではなかった。

「エリーゼ落ち着いてよ。婚約破棄って大事件だよ? 僕たちは昔から婚約しているわけだし、そんなのお互いの家が許さないから……」

家がどうとか言って責任逃れしてきたな。
自分の気持ちで語ってよ。

「レオンハルト。あなたはどうなのよ? あなたは私と結婚したいの? それともしたくないの?」

「……」

レオンハルトは言葉に窮していた。「はは……」と笑顔でごまかそうとしていて、はっきりした返事をしない。ちらちらとユリアーナのことを気にしているし。

家の都合があるからしかたなく結婚するのだろう。今まで婚約のことについてめんどくさいから放置していたけど、こんな男と結婚したくない。爽やかな笑顔だけでごまかせるのは、その辺の頭メルヘンな女だけよ。私は不誠実な男が嫌いだから。

状況を見かねてか、今まで黙っていたユリアーナが急に来て喋り始めた。

「エリーゼ。レオンハルト様がおっしゃるように落ち着きなさいって。ちょっとキスしてただけじゃない? 大人だったらキスくらいするのよ?」

黙っててほしい。あなたがことあるごとにいろんな男を誘惑しているのは知っているの。欲求不満なのかしら?

「ふーん。私も立派な大人よ。大人であれば当然キスくらいするっていうのなら、どうして裏庭でこそこそキスしていたのかしら? みんなの前で堂々とすれば?」

ユリアーナはわかりやすく顔をしかめた。

「ふん……なによそれ。品がない子ね」

「取っ替え引っ替え男に声かけるやめたら? はたから見ていると滑稽よ」

ここで負けるわけにはいかない。貴族の令嬢たるもの、メンツが命よ。言い負かされて終わるものですか!

ユリアーナはふっと鼻で笑って、
「処女でしょ?」
と言ってきた。

「……関係ないでしょ」

「図星みたいね。エリーゼ。恋をしたことがないから、そうやってかたくなになっているのよ。恋に落ちたら最後、底にたどり着くまで身を任せるしかないの」

「恋くらいしたことあるわよ」

「じゃあいつ? どんな殿方と?」

ユリアーナは挑発的な目をしている。小憎らしい……。

「……」

私たちの睨み合いでオドオドしていたレオンハルトが割って入ってきた。
「二人ともやめなよ。ユリアーナも、これ以上エリーゼを刺激しないで」

ユリアーナはレオンハルトの顔を不服そうに見てうなずき、
「帰るわ」
と言うと、ひゅいっと背中を見せて帰った。

レオンハルトは髪を整えながら、決まりが悪そうにしている。
「とりあえず……今日のところは僕たちも帰ろう。ね?」

「嫌よ。許さないわ。帰ったら今日のことをお父様に話して、婚約を破棄するから!」

そう言い捨てて、私もレオンハルトに背を向け帰路についた。レオンハルトは別に追いかけても来なくて、「あ……」と言ったきりだった。




帰宅して私は早速、お父様と婚約破棄について話すのだった。
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