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夫が妹と駆け落ちしました。二度と戻れないようにしたうえで、私は新しい旦那様と生きていきます。

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旦那様が妹と駆け落ちしました。

置き手紙でその事実を知った時、私の胸の中は怒りと悲しみでいっぱいになりました。



我が家には立派な庭園があります。私が指揮を取り、丁寧に手入れをしていました。植物のことを何も知ろうとしない旦那様は、庭園を訪れる人たちに誇らしげに紹介するだけ。本質的にはお飾りのような存在でした。

一緒に暮らしていた妹は、私の助手として働いていました。彼女は、花々や草木に愛情を注ぐことで私の信頼を勝ち取っていたのです。しかし、私が気づかぬ間に、彼女と旦那様との間に恋が生まれ、心を通わせていたのです。



私の背後で行われていた彼らの逢瀬を想像すると、心の中が何度もぐちゃぐちゃになりました。



(やっぱり、このままじゃ納得いかないわ……。泣き寝入りなんてしたくない)



どうしても二人のことが許せない私は、彼らを再び領内に入れないよう領主様に要請しました。領主様は私の願いを聞き入れてくださり、彼らの領内への出入りを禁止されました。加えて、私と旦那様との離縁も認めてくださいました。




それからの日々、私は心の傷を抱えたままでしたが、庭園を彩り続けました。手入れを怠った日は一日もありません。正気でいるために、そうするしかなかったとも言えます。そうして花々の微妙な色彩の変化や季節の巡りに触れていくうちに、私の心は癒されていきました。

やがて、私の庭園は領内で評判となるほどの美しさとなりました。そして私の庭園を訪れた者たちの中に、若い騎士がおりました。彼は領主の息子であり、庭園に魅せられて度々訪れるようになったのです。彼の目は真摯で、剣の腕前も領内で語られるほどでした。私の庭園には新しい風が吹き、彼との会話を重ねるうちに、次なる生活の道筋が見えてきました。

そしてついに、彼は私に嬉しい申し出をしてくださったのです。


「愛しいあなたと、この美しい庭を守りたい。その資格を、僕にいただけませんか? いつまでもあなたのそばで、生涯を通じて……」


私はもちろんその申し出を受け、彼との新婚生活が始まりました。彼の力強さと私の情熱が合わさり、庭園は領内を超えてさらに名を馳せることとなりました。国中に私たちの庭園の美しさが認められたのです。




私たちは新婚旅行に出かけました。かつての旦那様とはどこにも出かけたことがなく、見るものすべてが新鮮でした。

その帰り道のことです。領内に戻るため関所を通過しようとしていたところ、かつての旦那様と妹がみすぼらしい姿で言い争っていました。彼らは領内に入ろうとしているようでしたが、関所の門番たちに止められていました。領主様の命令ですから、当たり前です。二人は無様に罵り合い、門番にも悪態をついたため、とうとう槍を突きつけられるはめになっていました。

彼らを横目に、私は新しい旦那様と関所を通過しました。妹は私の姿に気づき、「お姉ちゃん!」と必死に叫びました。一方の私は彼女に対し、「幸せになってね」と手を振り、笑顔でその場を後にしました。おそらくお金が底をつき助けを求めに来たのでしょうが、もう遅いです。二人で幸せになると決めて駆け落ちしたのでしょうから、あとはお好きにどうぞ。

関所は、私たちの美しい庭園が見渡せる丘に位置しています。つまり、関所を通ることなく、庭園を眺められるのです。私にはもう、彼らに対する少しの情もなく、助ける意思もありませんでした。私が彼らにできる最後の贈り物は、庭園の美しさを遠くから胸に刻ませてあげること。そこからもし彼らに後悔が生まれるなら、それは彼ら自身が受け入れなければならない愛の代償なのかもしれません。
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