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「あーん、旦那様。こんな真っ昼間から……」ローザの声です。使用人として働いているときとは違い、”女”の声を出しています。男の前だとこれほど変わるのかと驚きました。


「あいつがいないうちにしとかないとな。お前も期待してたんだろ?」夫が嫌らしくローザに問いかけます……気持ち悪ぅ……。


「次は何買ってもらおうかな~。やっぱり指輪がいいかしら。ダイヤがついたやつ!」ローザが子供のように期待に満ちた瞳で夫を見上げているのが目に浮かびます。


「前も買ったばかりじゃないか……しょうがないなあ。家内にバレずにお金を使うのは意外に大変なんだぞ……」


「公爵令嬢だった奥様にお金のことなんてわかりませんわ。ほら、その代わりサービスしてあげるから」


「今日は目隠しプレイだ」


「いえーーーい!」


「いっちゃおーーーーう!」


「最高のノリですわ! ……王宮の方が今の旦那様を見たらびっくりなさるでしょうね」


「俺は……いい人戦略でのし上がってきたからな」


「わたしは……悪い人戦略の被害者です!」


「――お前が愛でるダイヤになりたい」


ベッドの下にいる私は、鼓動が早くなっていくのを感じました。危うく咳き込みそうで、泣きそうで、口をおさえました。

私のいない間に……本当に二人は……不倫関係にあったのです。悔しさや悲しさなど、いろいろな感情で心がぐちゃぐちゃになりました。今までこの不倫に気づかなかった自分にも腹が立ってきますし、情けなくなりました。



私がこうして耐えている間も、二人の衣擦れの音が虚しく耳まで届きます。



ベッドの下から、夫とローザの足元を見つめました。夫の野太い足首と、ローザの華奢な足首が対照的です。つま先立ちをしたローザの踵と床の隙間から、鏡台の前脚が覗きます。

私の鼻先が付きそうなくらい目の前に、夫のパンツがぱさりと落ちてきました。夫はするりと片足をあげます。


二人は勢いよくベッドに倒れ込み、やがてキスのちゅぱちゅぱ音が寝室に響き渡りました。マットレスがきしんでいて、その振動が床まで伝わってきます。

一方の私はといえば……ほこりまみれのベッドの下で、寝台面の裏のすえた匂いを嗅ぎながら、屈辱にまみれているのです。




はあ……。

私が真下で息を潜ませているとも知らずに……最低な人たちです。





夫はローザにささやきました。
「たぶん、三時間は帰って来ないよ。ゆっくりできるな」

それに対しローザは、私が聞いたこともないような甘い口調で応えます。
「待ち遠しかったです、旦那様……」


「王宮での仕事は肩がこるよ。お前との時間は……腰がこることになるがな」


「だったら……動かさなければいいのです。わたしはそれでもかまいませんよ」


「お前が動いてくれるのか?」


「……ダイヤの大きさしだいかしら」



こうして二人は行為に及び始めました。もちろん最後までなんかさせません。させてなるものですか! 

私はベッドの下から背中を這いずらせて出ました。立ち上がり、首や背中を回して筋肉をほぐした後、静かに息を吐きました。二人はちょうど目隠しをしていたので、警戒する必要がありませんでした。




   「あなた」




夫の背中に冷たく声をかけました。

今までの人生で最も低い声だったと思います。
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