年下クンと始める初恋

鈴屋埜猫

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 すっかり日も暮れた街を走りながら、車の中は沈黙が下りていた。何か話さなければ、と思うのに何も浮かばない。そうこうしている間に、見慣れた道を走っているのに気付いた。

「帰るの……?」
「え? 帰さなくていいの?」

 右折のウインカーを上げて、信号で止まった葉一の言葉で、茉歩は自分が無意識のうちに呟いた事に気付いた。

「ごめん、違うのっ」
「帰りたくない、とか……思ってくれた?」
「っ……」

 茉歩の膝の上にあった手を、葉一が握る。二人の視線が交錯する。すると葉一は上げていたウインカーを止めた。

「俺ん家で、いい?」
「……うん」

 手は繋がれたままだ。青になった信号を直進した車の中で、茉歩は自分の心臓がやけに大きく響いているように感じる。このままでは葉一に聞かれてしまいそうだ。それくらい、心臓が高鳴っている。

「何もせずに帰す自信、ないんだけど」
「……うん」

 男性の家に行く。それがどんなことか、分からないほど子供ではない。
 正直、怖い。だって、今までそうなりそうになったら逃てきた。だから、いざとなって逃げたくなってしまうかもしれない。けれど。
 茉歩はチラリと運転する葉一の横顔を見る。
 ずっと弟のように思ってきた幼馴染。お見合いで再開して、デートして、昔とは違う成長した姿に惹かれている自分がいる。この気持ちはもう疑いようがない。
 今まで付き合ってきた人たちにも感じたことのない感情。これが恋だというのなら、もしかしたら茉歩の初恋相手は、葉一なのかもしれない。
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