【完結】初恋は檸檬の味 ―後輩と臆病な僕の、恋の記録―

夢鴉

文字の大きさ
24 / 71
三章 少年共、夏を謳歌せよ

二十二話 夏期講習

しおりを挟む

 甘利が来た次の日。俺は炎天下の中、学校に向かう道を歩いている。
(普通に考えて、休みなのに学校行ってんの意味わかんねぇよなぁ)
 汗を拭いながら、俺はぶつくさと呟いた。去年の今頃は確か、秋人と夏生の部活が終わるまで待って、三人でよく遊んでいた気がする。
(映画にカラオケにゲーセンに……うわ、遊んでばっかじゃね、俺ら)

 ――それが今年は、何を間違ったのか甘利と過ごす約束になってしまっている。
(つーか、会うってどうするんだよ)
 甘利のやつ、部活じゃねーの。

「昼に部室に来るとか……? え、アイツ来れんの?」

 相談した方がいいんだろうか。いやでも、そもそも俺は“気が向いたら会ってやる”ってスタンスだし、それをわざわざ自分で崩すのも……なんか腹立つ。
(なーにが『おはうよございます』『今日も大好きです』だよ。その大好きな先輩と待ち合わせすら出来てねーぞ)
 今朝がたに送られてきたメッセージを思い出し、俺は眉を寄せる。
 そんなどうでもいいことより、待ち合わせ場所を送れよと言いたくなるのも、当然だろう。

 苛立ち半分、困惑半分。
 結局どうしたらいいのかもわからず、俺は学校についてしまった。グラウンドでは既に部活に励む生徒たちの元気な声が聞こえる。
(サッカー部……野球部……テニス部……)
 流れるようにグラウンドにいる生徒を眺めていれば、少し先に陸上部の姿が見える。
 タイムでも図っているのだろう。選手が走っては、マネージャーがタイムを叫んでいる。甘利は……もう走り終わった後らしい。件のマネージャー、三浦さんと仲良さそうに話をしている。

「……つまんな」

 どうせならいちゃついている姿じゃなく、走っている姿が見たかった。
 俺はフンと鼻を鳴らして、足早に校舎の中に入って行った。

 夏期講習は一組から三組のクラスで行われる。
 申し込み時に配られる紙に、自分がどのクラスで講習を受けるのかが決まっていて、俺は二組だった。理由は元々三年二組だから。つまり、俺以外の三年二組の奴も同じ二組で講習を受けることになるわけで。

「は~~~~るぅ~~~~…………」
「うわっ! ゾンビ!」
「ゾンビじゃないよ~~」

 ぐでぇー、と机の上に全身を預け、掠れた声を出すのは秋人だった。ゾンビだろ、その顔はもはや。
(つーかそんな顔になるまで何してんだ……?)
 まるで生気を全て吸い取られた人間みたいだ。漫画やアニメでしか存在しないと思っていたが、まさか現実で見ることになるとは。あと、裾掴むな。手放せ。

 グイグイと裾を取り戻そうとしていれば、「春」と落ち着いた声が聞こえて来る。顔を上げれば、夏生が鞄を持って立っていた。
(秋人に気を取られて気づかなかった)

「わり、気づかなかった。おはよ」
「もう昼だぞ」
「まあまあ」

 いいじゃないか、と宥めつつ、「お前、部活は?」と問いかける。
 確か部活と被るから夏期講習はほとんど来れないって言ってなかったっけ。そもそも、有名な大学から剣道で推薦の声が掛かっているらしい夏生に、講習は必要なのかは疑問だけど。

「部活は午後からだ。俺がいるのはこいつを逃さないため」
「こいつって、秋人の事か? なんでまた」
「だってさぁ! 聞いてくれよ!」

 バンッと机を叩き、秋人が叫ぶ。

「そりゃあ遊びまくって成績落としたのは俺が悪いよ!? でもさぁ! 帰ってからも勉強勉強……サボるからって塾に行かされて、日中遊べるかと思ったら夏期講習で学校だよ!? 最悪にもほどがあんじゃん!」
「いや、それ自業自得じゃん」
「そもそもテスト期間忘れて遊び回っていたお前が悪い」
「正論どうも!! でも俺は褒められて伸びるタイプなの! 厳しくしないで! ノーセンキュー正論!」

 バンバンと何度も突く絵を叩く秋人。
(すげぇ荒れ様だな……)
 なんつーか、ストレスやばいんだろうな。

「そりゃあ逃げたくもなるじゃん! 可愛い女の子ナンパしに海に行きたくもなるじゃん!」
「お前なぁ。そうやって反省しないからこんなことになってんだろ」
「うるさい! わかってんだよそんなことはぁ!」

 ついにはうわああん、と泣き出した秋人に、俺は夏生を見る。
 夏生は項垂れる秋人の頭を、ポンポンと撫でる。しかし、秋人は気に入らないのか「触るな裏切り者ぉ!」と手を払った。その言葉に俺はハッとする。

「……もしかして」
「ああ。朝、逃げようとしたこいつを捕まえて、ここまで連れてきたのは俺だ」
「こいつが追って来なければ、俺は今頃、可愛い女の子たちとキャッキャウフフ出来てたはずなのに……」
「なんだよ、キャッキャウフフって」

(つーか自業自得に上塗りすんなよ)
 馬鹿なのか、こいつ? ……馬鹿だったわ。

「まあ、なんだ。次のテストで良い点数取ったらちょっとは緩和するんじゃね? お前の親も、お前なら出来るって期待してんだろ」
「春……」
「たぶん。知らねーけど」
「励ますなら最後まで励ましきってくんない?」

 ドスっと秋人の拳が腰に入る。鈍い痛みが走って、俺は呻いた。
(コイツ……)
 せっかく励ましてやったのに。

 じっと秋人を見れば、秋人は一通り騒ぎ切って落ち着いたのか、ぐっと伸びをしていた。顔色が少し良くなっている。今のでストレスが少し発散できたのだろう。ゾンビからやかましい村人Aになっている。

「もう二度とお前は励まさねぇ」
「いいもーん。夏生に頼むから」
「俺も勘弁してくれ」
「え゛っ」

 夏生に拒否された秋人は、石化した。断られるとは思っていなかったのだろう。
(ざまーみろ)
 俺はそれを横目にしつつ、自分の席に座る。荷物を整理していれば、チャイムと共に西田先生が入って来た。
 夏生を見送り、俺たちは講習に専念した。


 カリカリとシャーペンが紙を削る音が聞こえる。
 遠くからは蝉の音と、部活に励む生徒の声。時々聞こえる音楽は、吹奏楽部だろうか。
(そういえば、吹奏楽は野球とかサッカーの応援に駆り出されるんだっけ)
 暑いのに大変そうだな、と思いつつ、チラリとグラウンドを見る。校舎の窓から一番近いところに、陸上部は集まっていた。

 数えきれないほどの部員の中から、甘利を見つける。
(アイツ、頭真っ黒で暑そうだな)
 人一倍デカいし、太陽に近い分、暑さも倍増しているんじゃないだろうか。
(昨日あんなに押しつぶしたのにけろっとしやがって)

 コンコン。

「蒼井くん」
「!」

 机がノックされる。顔を上げれば、にこやかな笑みを浮かべた西田先生と目が合った。
(げっ、よそ見してんのバレた)

「外の様子が気になる気持ちはわかりますが、集中しましょうね」
「は、はい。すみません」

 俺は素直に謝って、プリントに向かった。
 カリカリとシャーペンが紙を削る音が聞こえる。じわじわと広がる汗に、俺は小さく息を吐いた。


「終わっ、たぁー!」
「いや、昼休憩だから」

 輝かしい顔で伸びをする秋人に、俺はすかさず突っ込む。
 休憩を入れつつ、二時間の講習を終えた俺たちは、一時間の昼休憩になっていた。
 ゴソゴソと鞄を漁る秋人を横目に、俺は席を立つ。「どこ行くの?」と問いかけて来る秋人に「購買」と告げる。キョトンとした秋人の目に、俺は首を傾げる。

「? 春、知らないの?」
「何が?」
「夏休み中、購買やってねーけど」

 秋人の言葉に、俺は固まる。

「……マジ?」
「マジマジ。夏休みだもん」

「プリントにほら、昼飯持参って書いてあっただろー?」と言われ、俺はプリントの内容を思い出す。……だめだ。全然覚えてない。
(え、つまり俺は飯の調達が出来なくなったって、コト……?)
 俺は危機感を覚える。

「つーことは俺、昼抜き……?」

 学校の規則で、基本昼に学校の外に出るのは禁止されている。何かのっぴきならない事情があれば行ってもいいらしいが、その場合先生に許可をもらわなくてはいけないらしい。
(許可は……でないよなぁ……)
 購買もない。コンビニにも行けない。
(詰んだ)
 サァっと引いていく血の気。しかし、秋人は「何言ってんだよ」と呟いた。

「別に夏休みなんだし、コンビニに行けばいいじゃん」
「え? ……あっ」

(そうだ。そうだった)
 基本は学校から出れないけど、夏休み中は行けるんだった!
(夏休みに学校来る事なんかないから、すっかり忘れてた!)
 よかった。俺は飢え死にしなくて済みそうだ。夏休み様様、と拝み、財布を掴む。

 教室を出ようとして、ああそうだと振り返った。

「秋人―、お前は何かいるもんある……って」

(え、弁当?)
 俺は振り返った先で見えた光景に、二度瞬きを繰り返した。
(あの秋人が、弁当?)
 俺と一緒でいつも購買に行っては、一緒に人気のパンを掻っ攫っていくのが日課なのに!

「げっ、見たな」
「あ、秋人、お前それ……」
「別に俺が作ったわけじゃないよ。これは……夏生が、持ってきたやつ」
「夏生が?」
「アイツ、『弁当を作って来た。痛まないように今日中に食え』って押し付けてきたんだよ。俺を逃がさないための口実なのは見え見えだっつーの」

「あーあー、餌付けして思い通りになるとか思われんの、迷惑だよなぁ」と言いながらも、弁当を広げる秋人。
(そう言いながら、ちゃんと食うんじゃん)

「ふーん。そんなに言うなら俺にくれてもいいぜ?」
「やだよ。外出たくねーもん」
「ハイハイ。行ってくるわ」

 俺は秋人に手を振って、教室を出た。
 グラウンドにはほとんど生徒たちは居らず、さっきの喧騒が嘘のように静まり返っている。聞こえるのは蝉の鳴き声くらいだ。
 みんな日陰に入って昼飯を食べているのだろう。人の声がしない、蝉の鳴き声ばかりのグラウンドを突き抜ける。
(あ。そういや甘利……)

 ……いや。まあ、いいか。
 別に待ち合わせしてるわけでもねーし、何かあったら連絡来るだろ。
 コンビニまでは徒歩十分前後。さっさと行って買ってきて、クーラーのある学校でゆっくりしたい。
 俺は足早にコンビニを目指した。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

隣に住む先輩の愛が重いです。

陽七 葵
BL
 主人公である桐原 智(きりはら さとし)十八歳は、平凡でありながらも大学生活を謳歌しようと意気込んでいた。  しかし、入学して間もなく、智が住んでいるアパートの部屋が雨漏りで水浸しに……。修繕工事に約一ヶ月。その間は、部屋を使えないときた。  途方に暮れていた智に声をかけてきたのは、隣に住む大学の先輩。三笠 琥太郎(みかさ こたろう)二十歳だ。容姿端麗な琥太郎は、大学ではアイドル的存在。特技は料理。それはもう抜群に美味い。しかし、そんな琥太郎には欠点が!  まさかの片付け苦手男子だった。誘われた部屋の中はゴミ屋敷。部屋を提供する代わりに片付けを頼まれる。智は嫌々ながらも、貧乏大学生には他に選択肢はない。致し方なく了承することになった。  しかし、琥太郎の真の目的は“片付け”ではなかった。  そんなことも知らない智は、琥太郎の言動や行動に翻弄される日々を過ごすことに——。  隣人から始まる恋物語。どうぞ宜しくお願いします!!

【完結】強がり高校生が同室のド真面目脳筋に喧嘩しながらも惹かれてく話

日向汐
BL
「どけよ!」 「お前こそ!」 末っ子イケメン×脳筋美人の、ラブコメ成長BL! 謎解き要素や青春群像劇感も盛り盛り! ※ホラーではありません✋ ** ┈┈┈┈┈┈** ───俺の高校生活、マジ終わったわ…。 春。山と海に囲まれた小さな温泉町。 その山あいにある歴史ある全寮制高校に入学した千秋楓(ちあき かえで)は、軽口と愛想で「平気な自分」を演じるのが得意な高校一年生。 入学式前日、千秋楓は、自分と正反対な男、真面目系脳筋美人・涼海陸(すずみ りく)と出会う。 出会いは最悪。 初っ端のトラブルから、寮を離れ、学園内の「幽霊小屋」に二人で住むことに。 更に、喧嘩が原因で「おたすけ部」という謎部活に強制加入!? 幽霊小屋での生活や、おたすけ部として学校の雑務や地域のボランティアを共にこなす中で、二人だけの時間が少しずつ積み重なっていく。 揺れる心と、初めての恋。 二人だけの居場所から始まる、じれじれで真っ直ぐな青春BL✨ 全22話です。

【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!

なつか
BL
≪登場人物≫ 七海 千歳(ななみ ちとせ):高校三年生。二次性、未確定。新聞部所属。 佐久間 累(さくま るい):高校一年生。二次性、α。バスケットボール部所属。 田辺 湊(たなべ みなと):千歳の同級生。二次性、α。新聞部所属。 ≪あらすじ≫ α、β、Ωという二次性が存在する世界。通常10歳で確定する二次性が、千歳は高校三年生になった今でも未確定のまま。 そのことを隠してβとして高校生活を送っていた千歳の前に現れたαの累。彼は千歳の運命の番だった。 運命の番である累がそばにいると、千歳はΩになってしまうかもしれない。だから、近づかないようにしようと思ってるのに、そんな千歳にかまうことなく累はぐいぐいと迫ってくる。しかも、βだと思っていた友人の湊も実はαだったことが判明。 二人にのαに挟まれ、果たして千歳はβとして生きていくことができるのか。

アイドルくん、俺の前では生活能力ゼロの甘えん坊でした。~俺の住み込みバイト先は後輩の高校生アイドルくんでした。

天音ねる(旧:えんとっぷ)
BL
家計を助けるため、住み込み家政婦バイトを始めた高校生・桜井智也。豪邸の家主は、寝癖頭によれよれTシャツの青年…と思いきや、その正体は学校の後輩でキラキラ王子様アイドル・橘圭吾だった!? 学校では完璧、家では生活能力ゼロ。そんな圭吾のギャップに振り回されながらも、世話を焼く日々にやりがいを感じる智也。 ステージの上では完璧な王子様なのに、家ではカップ麺すら作れない究極のポンコツ男子。 智也の作る温かい手料理に胃袋を掴まれた圭吾は、次第に心を許し、子犬のように懐いてくる。 「先輩、お腹すいた」「どこにも行かないで」 無防備な素顔と時折見せる寂しげな表情に、智也の心は絆されていく。 住む世界が違うはずの二人。秘密の契約から始まる、甘くて美味しい青春ラブストーリー!

【完結】幼馴染に告白されたけれど、実は俺の方がずっと前から好きだったんです 〜初恋のあわい~

上杉
BL
ずっとお前のことが好きだったんだ。 ある日、突然告白された西脇新汰(にしわきあらた)は驚いた。何故ならその相手は幼馴染の清宮理久(きよみやりく)だったから。思わずパニックになり新汰が返答できずにいると、理久はこう続ける。 「驚いていると思う。だけど少しずつ意識してほしい」 そう言って普段から次々とアプローチを繰り返してくるようになったが、実は新汰の方が昔から理久のことが好きで、それは今も続いている初恋だった。 完全に返答のタイミングを失ってしまった新汰が、気持ちを伝え完全な両想いになる日はやって来るのか? 初めから好き同士の高校生が送る青春小説です!お楽しみ下さい。

【完結】毎日きみに恋してる

藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました! 応援ありがとうございました! ******************* その日、澤下壱月は王子様に恋をした―― 高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。 見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。 けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。 けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど―― このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。

絶対的センターだった俺を匿ったのは、実は俺の熱烈なファンだったクールな俳優様でした。秘密の同居から始まる再生ラブ

水凪しおん
BL
捏造スキャンダルで全てを失った元トップアイドル・朝比奈湊。絶望の淵で彼に手を差し伸べたのは、フードで顔を隠した謎の男だった。連れてこられたのは、豪華なタワーマンションの一室。「君に再起してほしい」とだけ告げ、献身的に世話を焼く『管理人さん』に、湊は少しずつ心を開いていく。しかし、その男の正体は、今をときめく若手No.1俳優・一ノ瀬海翔だった――。 「君のファンだったんだ」 憧れの存在からの衝撃の告白。クールな仮面の下に隠された、長年の熱烈な想い。 絶望から始まる、再生と愛の物語。失われたステージの光を、二人は取り戻せるのか。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

処理中です...