逃げた先に、運命

夢鴉

文字の大きさ
1 / 95

序話 未熟な完璧主義

しおりを挟む
 
 ――平等を謳うこの世界は、いつだって不平等だ。



 男女の性別の他にある、第二の性。

 頭脳、身体能力共に長けた、アルファ。
 人口の大半を占める、平凡な凡人のベータ。
 男女関係なく妊娠が可能な、オメガ。

 その全てが互いに不満や不平を感じていて、それを水面下で言い合う日々。
 特にアルファは、生まれたその瞬間から、周囲には敵ばかりが溢れている。

 俺――暁月凛の周りもそうだった。
 名門アルファの家に生まれ、アルファらしくなんでも出来た俺は、周囲からの妬みも嫉みも小さい頃から人一倍向けられてきた。
 同時に、馬鹿みたいな期待や憧れを押し付けられる日々。

 ……正直、うんざりだった。

 何も考えなくて済むβも。
 自分は出来ない奴だと言い、依存しようとするオメガも。

 俺には敵でしかない。

 必死にやってきたことも、『アルファだから出来て当然』と言わんばかりの目で見られる。
 寧ろ出来ない事があると『アルファなのに残念』とまで言う始末だ。

 ならば問いたい。
『お前らは血反吐を吐くまで努力したことがあるのか』と。

 そう考えてしまう自分も嫌で、しかし周りからの勝手な期待と羨望に、心身は擦り切れていくばかり。
 ……まるで底なし沼にでも入ったような気分だった。

 “百点満点から始まる人生”は、人によっては最高の人生なのかもしれないが、俺にとってはただ息の詰まる箱だった。


「……馬鹿だな、俺も」

 朝起きた時は、いつも通りの朝だった。
 いつも通りかったるくて、重い身体を引き摺りながらスケジュールを確認して。
 適当な飯を食って、大学へ行くために家を出て、駅に向かって――――ふと、見慣れない電車を目にしてしまった。

 瞬間、溢れる『どこか遠いところへ行ってしまいたい気分』。
 抵抗はあった。けれど、疲弊した頭ではその抵抗もほとんど意味は無くて。

 全てを投げ出して入った電車内は、思った以上にすっきりした。




『次はー○○駅~、次はー○○駅~。お降りのお客様は――』

 電車に飛び乗って、もうどれくらい経っただろうか。
 大学はもうすでに始まっている時間だ。さっきから友人面しているやつらが何度も連絡を寄越してきている。鬱陶しくて電源を切れば、俺の小さな世界はあっという間に静かになった。
(これがネグレクトってやつか?)
 自分には縁がないと思っていた言葉が、頭を過る。

 ははっと嘲笑を零して、俺はスマートフォンを鞄の奥底に仕舞った。どうせ連絡をする奴らは、自分の事なんか考えていない奴らばかりだ。
 どうでもいい人間を相手にするには、今の非日常の時間はもったいない。

 ズキズキと痛む頭に、息を吐く。抑制剤の副作用だ。年々ひどくなる副作用に、最近では頭痛薬も併用している。かかりつけ医に言ったら怒られるだろうな。
 俺はゆっくりと目を閉じた。

(少しだけ……)

 静かに呼吸を繰り返し、俺は夢の中へと意識を落としていく。

 ――自分を知る人間がいない世界は、だいぶ、息がしやすいと思った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

流れる星、どうかお願い

ハル
BL
羽水 結弦(うすい ゆずる) オメガで高校中退の彼は国内の財閥の一つ、羽水本家の次男、羽水要と番になって約8年 高層マンションに住み、気兼ねなくスーパーで買い物をして好きな料理を食べられる。同じ性の人からすれば恵まれた生活をしている彼 そんな彼が夜、空を眺めて流れ星に祈る願いはただ一つ ”要が幸せになりますように” オメガバースの世界を舞台にしたアルファ×オメガ 王道な関係の二人が織りなすラブストーリーをお楽しみに! 一応、更新していきますが、修正が入ることは多いので ちょっと読みづらくなったら申し訳ないですが お付き合いください!

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

六年目の恋、もう一度手をつなぐ

高穂もか
BL
幼なじみで恋人のつむぎと渉は互いにオメガ・アルファの親公認のカップルだ。 順調な交際も六年目――最近の渉はデートもしないし、手もつながなくなった。 「もう、おればっかりが好きなんやろか?」 馴ればっかりの関係に、寂しさを覚えるつむぎ。 そのうえ、渉は二人の通う高校にやってきた美貌の転校生・沙也にかまってばかりで。他のオメガには、優しく甘く接する恋人にもやもやしてしまう。 嫉妬をしても、「友達なんやから面倒なこというなって」と笑われ、遂にはお泊りまでしたと聞き…… 「そっちがその気なら、もういい!」 堪忍袋の緒が切れたつむぎは、別れを切り出す。すると、渉は意外な反応を……? 倦怠期を乗り越えて、もう一度恋をする。幼なじみオメガバースBLです♡

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 【エールいただきました。ありがとうございます】 【たくさんの“いいね”ありがとうございます】 【たくさんの方々に読んでいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございます!】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです ※Rシーンを追加した加筆修正版をムーンライトノベルズに掲載しています。

運命の番は僕に振り向かない

ゆうに
BL
大好きだったアルファの恋人が旅先で運命の番と出会ってしまい、泣く泣く別れた経験があるオメガの千遥。 それ以来、ずっと自分の前にも運命の番があらわれることを切に願っていた。 オメガひとりの生活は苦しく、千遥は仕方なく身体を売って稼ぐことを決心する。 ネットで知り合った相手と待ち合わせ、雑踏の中を歩いている時、千遥は自分の運命の番を見つけた。 ところが視線が確かに合ったのに運命の番は千遥を避けるように去っていく。彼の隣には美しいオメガがいた。 ベータのような平凡な見た目のオメガが主人公です。 ふんわり現代、ふんわりオメガバース、設定がふんわりしてます。

泡にはならない/泡にはさせない

BL
――やっと見つけた、オレの『運命』……のはずなのに秒でフラれました。――  明るくてお調子者、だけど憎めない。そんなアルファの大学生・加原 夏樹(かはらなつき)が、ふとした瞬間に嗅いだ香り。今までに経験したことのない、心の奥底をかき乱す“それ”に導かれるまま、出会ったのは——まるで人魚のようなスイマーだった。白磁の肌、滴る水、鋭く澄んだ瞳、そしてフェロモンが、理性を吹き飛ばす。出会った瞬間、確信した。 「『運命だ』!オレと『番』になってくれ!」  衝動のままに告げた愛の言葉。けれど……。 「運命論者は、間に合ってますんで。」  返ってきたのは、冷たい拒絶……。  これは、『運命』に憧れる一途なアルファと、『運命』なんて信じない冷静なオメガの、正反対なふたりが織りなす、もどかしくて、熱くて、ちょっと切ない恋のはじまり。  オメガバースという世界の中で、「個」として「愛」を選び取るための物語。  彼が彼を選ぶまで。彼が彼を認めるまで。 ——『運命』が、ただの言葉ではなくなるその日まで。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

処理中です...