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序話 未熟な完璧主義
しおりを挟む――平等を謳うこの世界は、いつだって不平等だ。
男女の性別の他にある、第二の性。
頭脳、身体能力共に長けた、アルファ。
人口の大半を占める、平凡な凡人のベータ。
男女関係なく妊娠が可能な、オメガ。
その全てが互いに不満や不平を感じていて、それを水面下で言い合う日々。
特にアルファは、生まれたその瞬間から、周囲には敵ばかりが溢れている。
俺――暁月凛の周りもそうだった。
名門アルファの家に生まれ、アルファらしくなんでも出来た俺は、周囲からの妬みも嫉みも小さい頃から人一倍向けられてきた。
同時に、馬鹿みたいな期待や憧れを押し付けられる日々。
……正直、うんざりだった。
何も考えなくて済むβも。
自分は出来ない奴だと言い、依存しようとするオメガも。
俺には敵でしかない。
必死にやってきたことも、『アルファだから出来て当然』と言わんばかりの目で見られる。
寧ろ出来ない事があると『アルファなのに残念』とまで言う始末だ。
ならば問いたい。
『お前らは血反吐を吐くまで努力したことがあるのか』と。
そう考えてしまう自分も嫌で、しかし周りからの勝手な期待と羨望に、心身は擦り切れていくばかり。
……まるで底なし沼にでも入ったような気分だった。
“百点満点から始まる人生”は、人によっては最高の人生なのかもしれないが、俺にとってはただ息の詰まる箱だった。
「……馬鹿だな、俺も」
朝起きた時は、いつも通りの朝だった。
いつも通りかったるくて、重い身体を引き摺りながらスケジュールを確認して。
適当な飯を食って、大学へ行くために家を出て、駅に向かって――――ふと、見慣れない電車を目にしてしまった。
瞬間、溢れる『どこか遠いところへ行ってしまいたい気分』。
抵抗はあった。けれど、疲弊した頭ではその抵抗もほとんど意味は無くて。
全てを投げ出して入った電車内は、思った以上にすっきりした。
『次はー○○駅~、次はー○○駅~。お降りのお客様は――』
電車に飛び乗って、もうどれくらい経っただろうか。
大学はもうすでに始まっている時間だ。さっきから友人面しているやつらが何度も連絡を寄越してきている。鬱陶しくて電源を切れば、俺の小さな世界はあっという間に静かになった。
(これがネグレクトってやつか?)
自分には縁がないと思っていた言葉が、頭を過る。
ははっと嘲笑を零して、俺はスマートフォンを鞄の奥底に仕舞った。どうせ連絡をする奴らは、自分の事なんか考えていない奴らばかりだ。
どうでもいい人間を相手にするには、今の非日常の時間はもったいない。
ズキズキと痛む頭に、息を吐く。抑制剤の副作用だ。年々ひどくなる副作用に、最近では頭痛薬も併用している。かかりつけ医に言ったら怒られるだろうな。
俺はゆっくりと目を閉じた。
(少しだけ……)
静かに呼吸を繰り返し、俺は夢の中へと意識を落としていく。
――自分を知る人間がいない世界は、だいぶ、息がしやすいと思った。
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