逃げた先に、運命

夢鴉

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四章 散らばった真実をかき集めて

27-2 新婚さん気分ですね

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「おかえり、暁月くん」
「ただいま帰りました。蜜希さん」

 俺は両手が塞がったまま、緩みそうになる頬を必死に引き寄せていた。
(出迎えてくれる蜜希さんの破壊力、半端ないな……!)

 扉を開けて、にっこりと微笑んでくれる蜜希さんに心は無事ノックアウトされている。
 更にはエプロンまで着けているので――

(もしかして俺たち、新婚だったんじゃないか?)

 そう勘違いしそうになるのも仕方がないと思う。

「暁月くん、凄い大荷物だね。どうしたの、それ」
「え? ああ……必要になりそうなものを色々買ってきたんです」

 リビングに入り、よいしょ、と両肩に下がっていた紙袋を下ろす。
 中を漁り、まずはと取り出したのは、クッションだった。

「なにこれ」
「クッションです。この家、ソファしかないですし、腰とか痛くなっちゃうかなって」
「それは、有難いけど……いいの?」
「もちろん。俺の分も飼っちゃいましたし。まあ、元々置いてあったクッションは送り返したのは俺なので」
「送り返した?」
「俺、クッションはふわふわ系がいいんです」

 家を渡された時に用意されていたのは、ちょっと硬めのものだった。
 それを知った俺は、覚へ早々に返品したのだ。こんなものいらない。寧ろ邪魔だと言って。
 俺の言葉に何かを悟った蜜希さんは「そっか」とだけ言って、クッションを抱える。
 すりすりと撫でているので、気に入ったのだろう。悩みに悩んだだけある。

「それと、蜜希さんは家にいることが多くなると思ったので、暇つぶしになりそうな物を買ってきました」
「暇つぶしの?」
「はい」

 そこからの俺はまるで商人にでもなった気分だった。

 家で出来るありとあらゆる娯楽を網羅するように、俺は次々に買ってきた物を蜜希さんに手渡していく。
 最初は軽いカードゲームをいくつか。
 次は複数人でやる(主に俺が蜜希さんとやりたいと思った)ボードゲームを。
 次は一人でもオンライン対戦で楽しむことの出来る携帯ゲームの本対とソフトを。

「いろいろ探して来たんです。どんなのが好きかわからなかったので、パズル系やRPG、ガンゲームもあります」
「うわ……すごいね……」
「それと、本もいくつか買ってきました。好みがわからなかったので、一通りですが」
「あ、ありがとう?」
「それと、明日スクリーンとプロジェクターが届くので、それでいつでも映画見放題ですよ」

 蜜希さんは唖然としてこちらを見つめている。
 ぽっかりと開いた口が、塞がっていない。
(指突っ込んだら怒るかな)
 なんて考えていれば、「……暁月くん」と蜜希さんの声が低く聞こえる。俺は弾かれたように顔を上げた。

「は、はい?」
「レシート」
「えっ?」
「出して。全部」

 蜜希さんの手が俺の目の前に差し出される。
 訳が分からなくて首を傾げれば、手を上下に振られた。「ん!」と催促され、俺は背中に冷や汗を滲ませる。
 なんだかよくわからないが、俺は蜜希さんを怒らせてしまったらしい。

「も、貰ってないです」と振るえる声で告げれば、「は?」と地を這うような声を返される。
 いやだって、喜んでもらえると思ってたし。
 まさかレシートを催促されるとは思ってなかったし。

 舞い上がっていた自分を棚に上げて、俺は言い訳にもならない言い訳を募らせる。
 もちろん、今の蜜希さん相手に言えるわけもないが。

「暁月くん」
「は、はい」
「座って」

 俺は静かにその場に正座した。
 見下げていた蜜希さんを、今度は見上げる形になる。

 蜜希さんはそれもう怒っていた。腕を組み、ぎゅっと眉を寄せている。
 謝った方がいいのだろうか。
 何に対して? 理由もわかっていないのに?

「暁月くん。僕はね、別に引き籠りじゃないし、特別ゲームが好きなわけでも、映画が好きなわけでもないよ」
「で、でも、昨日ずっと真剣に観てたじゃないですか」
「まあ、普通に面白かったからね……でも、スクリーンやプロジェクターをわざわざ用意してまで見るほど、映画好きってわけじゃないよ」

 わかる? と言われ、俺は渋々頷く。

 ……わかっては、いる。
 でも、そうしたら蜜希さんを楽しませるものが半減してしまう。
 ――それじゃあ駄目だ。

 悶々と考えていれば、蜜希さんは大きく息を吐き出した。
 まるで聞き分けのない子供を前にしたときの蜜希さんみたいだ。彼の地元で似たような顔をしていたのを目にしたことがある。

「暁月くんが何を考えてるか知らないけど、僕は別につまらないからって、この家を出て行ったりしないよ」
「えっ」
「やっぱり。変なこと考えてると思った」

 眉を下げ、仕方ないなと言わんばかりの目で俺を見下す蜜希さん。
 こういうところの仕草は、女将さんに似ているな……って、そうじゃなくて。

「出て、行かないんですか……?」
「当たり前でしょ。ホテルも取ってないのに、そんなにホイホイ出られるわけないじゃない。時期考えてよ」

「クリスマス前なんて、それこそ混む時期でしょ」と言われ、冷静になった頭が「確かに」と納得する。

「それに、此処にいる方が滞在費が浮くからね。僕にとってはそれだけで十分だよ。食事代も暁月くん家の物使ってるから、半分浮いてるようなものだし」

 蜜希さんは淡々と自分にとっての利点を上げていく。
 俺は無言で蜜希さんを見つめ続ける。……納得しか出来なかった。

「だからさ。暁月くんは普通で居てよ。そりゃあ、好きな人? が一緒に居るのは落ち着かないかもしれないけどさ」
「それは無いです」
「即答。まあ、いいけどね」

 くすくすと蜜希さんが笑う。
 やっと見れたその表情に、俺は心なしか安堵していた。

(そうか……)
 蜜希さんは、此処にいてくれるのか。
 身体の重しがどっと下ろされたような気分だ。

「とりあえず、手洗ってきなよ。ご飯にしよ」
「……はい」

 蜜希さんはくるりと踵を返して、キッチンへと向かって行く。
 黒い髪がふわりと舞った。エプロンの紐が彼の細い腰に回されている。
 俺のサイズだと大きいのか、そのまま腹まで一周しているのが何とも言えない加護欲をそそる。

 俺は荷物をそのままに、蜜希さんの背中を追いかけた。
 どうしたの、と顔を上げる蜜希さんに「手伝います」と告げる。

「えっ。暁月くんって料理できるの……?」
「失礼ですね。夜ご飯、何度も一緒に食べたじゃないですか」
「ふふふ。冗談だって」

 蜜希さんの笑顔に、俺はむず痒い気持ちになりながら、シンクで手を洗う。
 こうしていると、まるであの離れに戻ったようで。
 俺はこんな些細なこと満たされてしまう自分に、恥ずかしくなる。――でも。

(もしかしたら蜜希さんも、同じなのかもしれない)
 好きの種類は違えど、自分達は互いに好感を持っている。
 友人、知人、兄弟、家族……。

 この関係を表すにはどれもピンとこないけれど、それでもいいと思ってしまう。
 蜜希さんが隣に居れば、何だって。

「暁月くんっ、焦げてる!! 焦げてるよ!!」
「あっ」

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