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五章 アルファの家系
37-2 逆鱗に触れる
しおりを挟む俺は息を飲む。
……そんな気は、なかった。はずだ。
だが、ゆくゆくはそうなればいいと考えていたことだったのも事実で。
俺は図星を突かれた気分だった。
祖父は嘲笑するように口角を上げた。
グラスを机に置き、ソファに凭れる。両腕をひじ掛けに乗せ、両手を組んだ。
彼の所作が、強引に網膜に焼き付けられるような感覚だ。
「お前がどう考えていようが、お前はアルファで、暁月家の人間だ。それはどう足掻いても変わらない」
空気が重くなる。
チリリッと背中が焦がされる。
「お前にオメガは不要だ。ましてや番持ちなんぞ、お前の枷にしかならないだろう」
全身に重力がかかる。
――威圧だ。
アルファがアルファにだけ使うことのできる、威嚇行為。
本来は番を守るために自然と出るものだが、力の強いアルファはそれを操ることが出来る。
そして、力の強いアルファのグレアは相手のアルファだけに留まらず、周囲をも巻き込んでいく。
特に、近くにいるオメガは拒否反応を起こす。
「っ、蜜希さん……!」
固まる体を叱咤し、俺は強引に振り返る。
案の定、蜜希さんは真っ青な顔で震えていた。俺の上着をぎゅうっと抱きしめ、両手で自身の両腕を掴んでいる。
ガタガタと震える全身は、彼の受けた恐怖心を如実に表していた。
「蜜希さん、蜜希さんッ! 大丈夫ですかっ!?」
「っ……」
(俺の声が聞こえてない!)
あまりの圧力に、蜜希さんの五感はシャットダウンしてしまったらしい。
こうなってしまったら、落ち着くまでは下手なことは出来ない。
無理矢理何かをしてキャパシティを超えてしまったら、ただじゃ済まないことは、情操教育を受けたばかりの中学生でもわかることだ。
額から落ちる汗を他所に、俺は席を立つ。
蜜希さんを抱きしめ、祖父を睨みつけた。
「っ、すみません、一旦その威圧を引っ込めてくれませんか」
「なんだ。この程度も耐えられないのか。お前も弱くなったものだな」
「俺のことはどう言ったっていい。だからといって、蜜希さんが巻き込まれる謂れはないはずですッ」
「あるだろう」
お前を誑かした。それだけで十分な罪状だ。
祖父は高圧的に答える。
(この人は……)
一体何を言っているんだろうか。
「……それは、罪状でも何でもないでしょう。それに、蜜希さんに迫っているのは俺の方です。俺が、無理を言って傍にいてもらってるんです」
蜜希さんは優しい。
俺が落ち込んでいる時は傍にいてくれるし、俺が家にいて欲しいと言えば家にいてくれる。
俺が好きだと言っても嫌な顔一つせず聞いてくれるし、それからも変わらず接してくれる。
欲しい言葉を口にして、困っていれば力を貸してくれて、時には発破をかけるようなことを言ってくれる。
そんな彼を好きになることはあれど、誑かされたなんて思うことは微塵も、欠片もない。
「己の親をオメガに搾取されたのを、もう忘れたのか」
「それは――!」
「軟弱者が。これだから、最初から私の下で学ばせるべきだったのだ」
祖父はその後も何かを言っているが、俺の耳には入らなかった。
(なんだ、これ)
腹の底から込み上げてくる、どす黒い炎。
通常赤や青であるはずの炎が真っ黒に染まり、体の中で燻っている。
耳が遠ざかり、視界に稲光のような光が走る。
全身に急速に血液が駆け巡った。
「お前はオメガが私たちアルファにどんな災厄を齎すか、身を持って知っているはずだ。そのお前が番のオメガなんぞに……」
「っ――!」
「なんと嘆かわしい」
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