あなたはマイナス4000点です

星森 永羽(ほしもりとわ)

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 王宮の謁見の間は、荘厳な静けさに満ちていた。高い天井、赤い絨毯、整列する近衛兵。  
 その中心に立たされたロキシーは、まるで処刑台に立つ罪人のように震えていた。

「なぜ……なぜこんなことに……たった1日で……バカな……」

 呟きは虚しく空気に溶ける。  
 隣に立つケイティーは、顔を伏せたまま一言も発しない。

 玉座から、王は厳しい眼差しを向けた。

「申し開きはあるか?」

 ロキシーは喉を鳴らし、必死に言葉を紡いだ。

「その……いや、だから……陛下への反意などではなく……単に妻への躾として……家長が誰であるか、知らしめるために言っただけで……」

 王の眉がわずかに動いた。

「余が選んだ花嫁は、嫁いでから躾されねばならぬほど不出来なのか」

「それは……いえ、だから……」

 ロキシーは汗を流しながら口ごもる。  
 王は冷たく続けた。

「そもそも、躾と不倫は無関係であろう。なぜ愛人を寝室に連れて行った」

「それは……ですから……立場をわからせようと……」

 王の瞳が鋭く光った。

「立場を理解しなければならないのは、お前とその愛人だ」

 ロキシーは完全に言葉を失った。  
 玉座の前で、ただ震えるしかなかった。

「証人をここへ」

 王が軽く手を上げると、近衛兵が扉を開いた。

 入ってきたのは、ロキシーの友人たちだった。  
 ロキシーは胸を撫で下ろし、内心でほっと息をつく。  
(助かった……! こいつらなら俺の味方を──)

 しかし、その期待は一瞬で裏切られた。

 1人目が進み出て、恭しく頭を下げる。

「彼は披露宴のあと、イザベラ様を『行き遅れのババア』と言っていました」

 ロキシーの顔が凍りつく。  
 続いて2人目が口を開いた。

「『たいして美人でもないくせに、取り澄ましてる』とも言っておりました」

 3人目が追い打ちをかける。

「『金持ちのくせに、持参金は普通だった。不良債権を押し付けられた』とも」

 謁見の間に、重苦しい沈黙が落ちた。

 王は小さく頷き、淡々と告げた。

「うん、よし。死刑」

「そ、そんな! 少し愚痴ったくらいで死刑などと……っ」

 ロキシーは膝から崩れ落ちそうになりながら叫んだ。  
 隣ではケイティーが蹲り、肩を震わせて泣いている。

 そのとき、謁見の間の扉が静かに開いた。

「お待ちください」

 澄んだ声が響き、一同の視線がそちらへ向く。  
 銀髪を揺らし、イザベラがゆっくりと歩み出てきた。

 その姿は、まるで処刑場に現れた天秤の女神のようだった。

「そこの卑しい犬は、現在マイナス4100ポイントの負債があります。解消させてから殺してください」

 ロキシーは絶叫した。

「ポイント増えてるじゃないか!」

「悪口の分、加点しました」

 イザベラは淡々と答える。

「くそっ! 妻なら助けろ!」

「今のはマイナス50ポイントです」

 ロキシーは言葉を失い、口をぱくぱくと動かすだけだった。

 王は興味深そうに顎に手を当てた。

「ふむ。どうやってポイントを消化する?」

 イザベラは1歩前に出て、静かに頭を下げた。

「私の下僕として使います。マイナス1ポイントにつき1日です。つまり4150日、労働すれば完済です」

 ロキシーは絶望の声を上げた。

「そんな! この女にこき使われてから死ぬくらいなら、いま殺してください!」

 王は冷ややかに言い放つ。

「イザベラに従うなら減刑する」

 ロキシーは震える声で答えた。

「……やらせていただきます」

 その瞬間、謁見の間にいた全員が悟った。  
 クラッツ侯爵ロキシーの人生は、この日を境に完全に終わったのだと。




 こうしてイザベラは、新しい使用人と下僕と舘と領地を手に入れ、家門は以前にも増して発展していった。  
 領地の収支は黒字に転じ、商会は新規契約を次々と結び、舘には活気が戻った。すべてが、彼女の冷静な判断と容赦のない実行力の賜物だった。

 ある日の午後、イザベラは庭園を散歩しながら、満足げに微笑んだ。銀髪が陽光を受けて輝く。

「結婚っていいものね。
 でも、よい子の皆には“花嫁に『愛することはない』と言ってはダメ”と教えないとね」

 その隣で、かつてのクラッツ侯爵ロキシー──今は下僕として働く男が、深々と頭を下げた。  
 かつての傲慢さは跡形もなく、日焼けした顔に汗をにじませながら、恭しく答える。

「その通りでございます。さすがイザベラ様」

 イザベラは満足げに頷き、優雅に歩みを進めた。  
 ロキシーはその後ろを、黙々と従者としてついていく。

 彼の“マイナス4150ポイント”が消える日は、まだまだ遠い。





□完結□



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感想 1

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みんなの感想(1件)

さごはちジュレ

どうやって躾たのか詳細にお願いします、参考までにまでに

2026.02.03 星森 永羽(ほしもりとわ)

コメントありがとうございます!
躾というか、もうロキシーはイザベラに勝てないと思って抵抗をやめた感じです。

エブリスタに投稿した「週刊ノブレス・オブリージュ」という作品は、本編に書いてませんが、主人公が夫(辺境伯)の愛人を、夫の目の前で拷問したところ従順になりました。
ご参考までに。

解除

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