1916年帆装巡洋艦「ゼーアドラー」出撃す

機雷原

ルックナー　航海は順調だな。今はデンマーク中部、リンケビングの辺りか。
ロイデマン　今のところは風に助けられています。南西からの風ですからな。朝にはスカゲラック海峡に到達できるかと。
クリンチ　ロイデマン、気を付けてくれよ。この辺りの海域には、英国海軍が機雷を敷設している。デンマークの沿岸部にさすがに敷設していないが、この辺の海岸部はフィヨルドだ。操船を誤ったら岸壁に船体をぶつけて難破する。
ロイデマン　責任重大ですな。と、っとっと。船の動きがおかしい。
ルックナー　まさか……パーミェン！
パーミェン　艦長！風向きが変わりました！北風、向かい風となっております！帆を下ろします！
クリンチ　いや、パーミェン、帆はそのままだ。一旦引き返すぞ。
ルックナー　いやダメだ、副長。このまま進む。引き返すなどとんでもない！引き返せば軍令部の反対派がそれ見たことかと再度の出航をさせないだろう。
ロイデマン　デンマークの港に入っては？
ルックナー　そして抑留されるか。今のドイツは劣勢だ。その状況下でむざむざ抑留されてたまるか！オレはドイツのために戦う！そのためにこの任務を引き受けたんだ！
クリンチ　しかし、左舷側に機雷原、右舷側に断崖絶壁で逆風です。北に進めないわけではありませんが、操艦の自由が確保できるか。
ロイデマン　逆風で航行する以上、タッキングをやらなきゃなりません。ジグザグに航行しなければなりませんが、両舷を危険地帯に挟まれている今それをやるのは極めて危険です。安全策でいきましょう。
ルックナー　それくらい承知している。だから航路を変更する。西に向かい、機雷原を突破後、スカゲラック海峡からの航路に出る。
クリンチ　艦長！わかっているんですか！？機雷原に突っ込むって自殺行為です！
ロイデマン　死にたくはありませんぜ。
ルックナー　わかっている、オレだって死にたくない。世界一愛しい婚約者がいるんだ。帰国したら結婚するんだ！
ロイデマン　うわあぁぁぁぁ、フラグだあぁぁぁ！
ルックナー　いいから西へ向かえ。オレに考えがある。これは艦長命令だ！
ロイデマン　ええい！取り舵（左折）一杯！！


　舞台上の全員が左に体を倒し取り舵を表現する
　すぐに体を起こし、直進になったことを表現する。


クリンチ　艦長！どうするつもりですか？
ルックナー　副長！この「ゼーアドラー」は、機関を増設したせいで後部の方が沈んでいる。触雷する可能性が高い。総員を船の前部に集合させろ。救命胴衣を着用させてな。
クリンチ　艦長！無謀なことはお止め下さい！戻りましょう。
ルックナー　言っただろう！戻れば、やっぱり帆船で戦うのは無理でしたとなり、「ゼーアドラー」はブイを塞ぐだけの代物に成り下がる！ドイツのために戦う機会を失う！いいから命令に従え！
クリンチ　……了解しました。
ルックナー　幸いこの風は、嵐じゃない。海面は澄んでいる。機雷を発見できる可能性がある。総員に見張りをさせろ。機雷は念のため避ける。
クリンチ　念のためでなくとも避けて下さい！いいですね！


　クリンチは、ルックナーに背を向ける。


クリンチ　総員、救命胴衣着用の上、船首に集合せよ！


　舞台上の船首に出てきた全員が並ぶ。


ロイデマン　艦長、勝算はあるんですかって、おっとっと。


　舞台上の全員が斜めになる。


ルックナー　「ゼーアドラー」は、今から急激に傾くぞ。転覆はさせんが転落に気をつけろ。船から落ちても救助はできんぞ。
ロイデマン　チクショウ、艦長は何を考えてやがるんだ！
エルトマン　前方に機雷１！


　下手から、機雷を模したボールが舞台から一段下がった所に設置されている溝に置かれる。


ルックナー　ロイデマン、面舵！
ロイデマン　面舵！かわせるんですかね？
ルックナー　神に聞くしかあるまい。
プライス　ダメだ！機雷をかわせない！
シュミット　船が機雷に突っ込んでいる！


　機雷を模したボールはゆっくりと上手に転がり始める。


キルヒアイス　舵をきるのが遅かったんだ、船は急には曲がれねえ！
パーミェン　おまけに舷側が海面に没していやがる。機雷からすりゃ、当たる確率が上がっている寸法だ。
クリンチ　総員、耐衝撃防御！手近なものに捕まれ！


　ボールは、溝を転がっていく。


ロイデマン　だそうですぜ。
ルックナー　まだだ！まだ触雷していない！他に機雷が無いか見張りを怠るな！
ロイデマン　無茶苦茶だよ、この艦長は！


　ボールは、溝を転がり上手の方へ抜けていった。


ルックナー　総員！機雷は通過した！
総員　バンザーイ！助かった！！
クリンチ　何故だ！？
ルックナー　気を抜くな！まだ機雷原を突破したわけじゃない！見張りを厳にせよッ！
ロイデマン　どんな魔術を使ったんだが、この艦長殿は？