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ルックナー 帰る

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パーミェン 前方に帆船発見。
ルックナー どれどれ、あのご夫人のご期待に添えるか……。

 ルックナー 双眼鏡を下ろす

ルックナー まさかな……。

 ルックナー 再び双眼鏡を当てる

ルックナー パーミェン、相手の船名を問い合わせろ。
パーミェン 了解!旗流信号上げます。
ルックナー なんだ、この漠然とした悲しい思いは……。まさかまさか。
パーミェン 回答ありました「ピンモア」と名乗っています。

 ルックナー 頭を振る


ルックナー いかん!オレはあの船を撃沈する!撃沈せねばならん!これは戦争なのだ!


ロイデマン 艦長、どうしたんです?急に叫んで?
クリンチ 何を当たり前のことを叫ばれるのです?
ルックナー すまん。総員戦闘配置!キルヒアイス、もう少し接近したらぶっ放せ!ただし当てないでくれ。
キルヒアイス 了解。威嚇射撃は何度もやりましたからな。もう慣れました。お任せください。

 轟音とともに水柱が「ピンモア」の船尾に上がる。

クリンチ 「ピンモア」停止しました。
プライス 拿捕隊準備完了!行ってまいります。

 ルックナー 「ゼーアドラー」の船首に移動する

ルックナー 「ピンモア」、年老いてまだ働いていたんだな。

 拿捕隊 相手船長たちを連れて戻ってくる

ルックナー ドイツ仮装巡洋艦「ゼーアドラー」艦長、フェリックス・フォン・ルックナーです
ミューレン 「ピンモア」船長ミューレンです。我々は不運ですが、それがあなた方の幸運ですな。


ルックナー 幸運だって!?これが幸運だと言うのか!


ロイデマン 艦長、どうしたのですか?
クリンチ 確かに我々は拿捕に成功しました。幸運じゃないですか。
ロイデマン さっきから艦長おかしいですぜ。
ルックナー おかしい、そうか、おかしいか。

 ルックナー カッターに飛び乗る。

ルックナー 「ピンモア」に行って来る。クリンチ、しばらく指揮を任せる。
クリンチ えっ?艦長、何をしたいのですか?

 ルックナー 返答せず「ピンモア」に向かう

プライス 艦長、何しに来たんですか?

 ルックナー 「ピンモア」に乗り込む

ルックナー プライス、自沈処置はどうなっている?
プライス 船底に爆薬をセット終わりました。
ルックナー 今回はオレが起爆させる。拿捕隊は、先に戻ってくれ。
プライス えっ、艦長、なんでですか?
ルックナー すまん一人にしてくれ。こちらの救命用ボートで戻る。カッターは全て戻してくれ。
プライス はぁ、わかりました。起爆用の導火線はこちらに設置しています。火を点ければ二〇分後に爆発します。


 プライス達拿捕隊は、カッターで引き上げる
 上手に「ゼーアドラー」のセットがしまい込まれ、「ピンモア」のセットが舞台を占領する


ルックナー あぁ、あった「フェリックス・フォン・ルックナー」。見張りの時、刻んだやつ。大分削れて消えかかっているが……。

 ルックナー へりをなでる

ルックナー バンクーバーからリバプールまでの航海、ホーン岬を回ろうとして、帆船の悲しさ、何度も嵐に吹き返されたんだ。この後部デッキ、嵐の時しかいなかったような気がするぜ。

 ルックナー 船中央に移動する

ルックナー 「ピンモア」、あんたには、半年分の食糧と水しかないってのに、九か月半、オレは、あんたにつきあう羽目になった。脚気や壊血病で何人も死んだな。オレも両方かかって腹と足がパンパンに膨れ上がった。マストに登れなくなって、陸に戻ったら二週間入院する羽目になったんだ。

 ルックナー 前部に移動する

ルックナー もう二度とこの船には乗らねえ、見たくもねえって思ったもんだが。何の因果だ?まさか、ドイツの通商破壊艦レ イ ダーの艦長として、この船のデッキを歩くなんて思いもよらなかったぜ。

 ルックナー 救命ボートを下ろす

ルックナー でもさ、あんた立派にオレをホーン岬の嵐と荒波からオレを守って、リバプールまで運んでくれた。まるで母親みたいにさ。

 ルックナー 導火線を手にする

ルックナー あんたは、オレがつきあった船の中で一番長いつきあいだった。今、あんたの生涯を終わらせるが恨まないでくれ。こうやって一度だけだけど帰ってきたんだから。

 ルックナー 導火線を放り、救命ボートに飛び乗り、上手に向かう

 「ピンモア」セット下手に引き込まれる。そして轟音と赤い閃光

ルックナー さらばだ、「ピンモア」!あんたのことは、生涯忘れない! 
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