王妃様、残念でしたっ!

久保 倫

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 翌日、ドラード公は、最期を迎えました。

 詳細は、目撃していませんのでバルリオス将軍からの伝聞になります。

 ドラード公は、夜明け直前に国王のいる本営目指し突撃を敢行。
 一時は国王の至近に迫ったそうですが、従う兵はことごとく討たれ、単騎になったところで、包囲の突破を図ります。
 破壊の雷バルク・タドミールの威力もあって、突破に成功し、バエティカ方面に騎行します。

 オクレサ川にたどり着いた所で馬が疲労で倒れ、誰もがドラード公を討ち取れる、と思った時、一人の船頭が現れます。
 ドラード公は、船頭に安全な屋敷カサラ・サラーマ破壊の雷バルク・タドミールを渡し、何か話しかけると、船頭は破壊の雷バルク・タドミールでドラード公の首をはね、首と武具を持ち舟を操って逃亡したそうです。

 無論、追跡しましたが、周囲に徴発できるような舟はなく、橋もなかったため、船頭は対岸に逃げ、そのまま行方をくらましています。

「どこかに潜んでいるのかもしれません。捜索は続けますが。」

 そうバルリオス将軍は、話を締めくくりました。


「それではな、ロザリンド。」
 ギルベルト伯爵も引き上げます。

 ドラード公の死で攻守同盟が終了した、というのが理由ですが、早いところリリアナ様達を安全な所に連れて行きたいようです。

「ニールスとの取引、お前が来ることはできないか?手数料などでニールスより優遇しよう。」
 それは美味しいお言葉です。
「わかりました。都合もありますが、行ける時は行きます。」
「楽しみにしている。」
「私も、どの程度の優遇があるのか楽しみです。」
「……。」
 
 なんで、そこでケスマンさんが苦笑するんですか?

「……一度は来いよ。」

 それだけ言ってギルベルト伯爵は、出発しました。


 ドラード公の死をもって、反乱は鎮圧となり、事後処理は将軍達に委ねられ、国王は王都に戻ることになりました。
 私も、一緒に戻るよう命じられました。
 それも なんと国王の馬車に同乗して。

「クルスの婚約者でもあり、此度の戦いに功があったのだ。余の隣にいる資格は十分。」

 と言われても居心地が悪いんですが。
 かといって断ることもできません。
 本当は一刻も早く、王都に戻り、化粧品を渡して代金を受け取りたいものです。

 やむを得ないので、国王に許可を得て、王都に向かう早馬に父への手紙を託しました。

 包囲が解け、物資の流入が再開したら、化粧品を顧客に渡すよう依頼したのです。
 父ならぬかりなくやってくれます。


 かくして、王都に凱旋しました。

 宰相コルネート公が、王都の城門で出迎えます。

「陛下、無法な反乱者に勝利されましたこと、臣民一同嬉しく思っております。」
「うむ、サルヴァトールよ。そなたも王都の防衛、大儀であった。」
「おそれいります。」
「イ、いや、王妃はいかがしておる?」

 イルダ様やメリナ様のことを知りたかったようですが、さすがにこの場は、王妃様を優先したようで。

「…王妃様は、息災でございます。」

 なんでしょう、この雰囲気。
 なんか、困っているような、笑いをこらえているような。

 それはコルネート公だけでなく、居並ぶ大臣達に共通した雰囲気です。

「そうであるか。そなたのおかげだな。」

 国王も雰囲気は察しているようですが、このような場であれこれ言うのも、と考えているようで、スルーしました。

 城門をくぐり、王都の民衆が歓呼の声で出迎える中、軍列は進みます。
 そしてゴールの広場に入ると、王妃様やクルス王子、メリナ様を連れたイルダ様が待ってます。

 止まった馬車から下り、王族が待つ特設ステージに上がります。

 そこに待っていたのは……。

「陛下、無法な反乱者を平らげての無事のご帰還、わらわは、とても嬉しくかつ誇らしく思っております。」
「う、うむ。」

 陛下、スゴイ!
 よくあれを見て、ちょっとどもっただけで済ますなんて。

 私には真似ができません。

 見た瞬間、とっさに下向いたのは、笑いを堪えるためです。

 いや必死なんですよ。式典のクライマックス、というべき時に爆笑するわけにいかないじゃないですか。
 舌を噛み、手の平に爪をたて、必死に笑いを堪えました。
 そして、落ち着いたところで、顔を上げます。

 視界に王妃様を入れないように、愛しの婚約者(ということにして下さい)クルス王子を見つめます。

「ロザリンド、大儀だったな。」

 本当に言いたいのは違うでしょう。
 思いっ切り困った顔をしていますもの。

 ママンのこと、なんとかしろ、とでも言いたいでしょうが、我慢してます。

 偉い!

 と思ってたら近寄ってささやいてきました。

「どうにかならんか、母上。」

 どーしろと。

 あれは無理です。
 どうしてあぁしているのかは、ちょっとわかりませんが。

 いつまでも婚約者の顔ばかり見ているわけにもいきませんので、国王と王妃に視線を移します。


 ……なんとか吹き出さずにすみました。

 王妃様の顔。

 ひどいんですよ、化粧品の厚塗り加減が。
 いや、ファンデーションを厚く、いや分厚く塗って、その上にさらにアイシャドーやらチークやらをやはり分厚く塗って。

 なんというか、油絵を見てる気分。

 かつてモンセラーノ様が「娘の顔に絵の具を塗るのか!」と言ったことがありましたが、王妃様の顔は、まさにそれ。

 道化ピエロだって、もう少しマシなメイクしますよ、というレベルのメイクです。
 正直、以前の眉墨、白粉、紅だけの化粧の方がマシなんじゃ、と思えるくらいです。

 イルダ様がメリナ様を抱いて近寄ってきます。

 あ~~~メリナ様、かわいい。
 離れてた間に、一段とかわいらしくなっちゃって。
 う~~~目の保養です。

「ロザリンド、王妃様だけどさ。」
 イルダ様がささやきかけてきました。
 何か知ってるかな。

「あの方、化粧品って塗れば塗る程美しくなるものって勘違いされているのよね。」
 それで、あの厚塗り。
 そういえば、白粉も厚塗りされてましたね。
「その意識を改革しないと、どうしようもないと思う。」
「イルダ様、助言しないのですか?」
「私を夫を奪った敵としか認識してないから、聞かないわよ。」
 だから貴女が、と言いたいのでしょうが。
「私も息子を奪った敵ですよ。」
「ひょっとして……。」
 クルス王子、珍しくまともな状況認識です。

 メイクに関し、まともな助言をできる者が……いません。
 取り巻き方が、言って改善できるなら、厚塗りだけでも改善できているでしょうし。

「誰も、どうにもならんのか。」
 
 クルス王子が、絶望にうめく中、王と王妃の会話は続いてます。

「余も戦場にあってもそなたのことを思っておった。卑劣な奸計に陥った時は、そなたのことを思い耐え抜いた。」

 国王は、淡々と王妃への言葉を述べます。
 どもることも、つっかえることも、ましてや吹き出すこともなく。

「さぁ、妃よ。無法な反乱は潰えたことを国民に共に告げよう。」

 そう言った時の国王の顔。

 国民にこの妃をさらさねばならんのか!という心の悲鳴が聞こえる顔でした。
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