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第10章
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キラちゃんから、お母さんが皆さんを食事にご招待したらって、一度ご挨拶しておきたいんだって と、誘いがあって、皆で行くことになった。ご挨拶って言っているけど、キラちゃんが心配でどんな連中なのかを見ておきたいのだろうと、私達は、話し合っていた。
私は、午前中練習があるのでと、家に帰って、一応、変な恰好では行けないのでと、青系のチェックの半袖ワンピースでスカートもひざ丈のプリーツのもので出掛けた。少し遅れて2時頃、聞いていた場所を頼りに何とか探し当てていた。ここで良いのかしらと、川の横の道路沿いに建つ3階建ての家、というよりビルみたいなところ。隣も同じようで、どこかの会社みたい、反対側の隣は木の塀が続いていて樹木の奥には、格式の高そうな瓦屋根の和風の家屋がそびえていた。
ここで良いんだよねと、建物の前にはアルミ柵のゲートがあって、その奥は3台分ぐらいのスペースに白い軽自動車が停まっているだけだった。そのスペースの横が通用口になっているみたいで、 AMANOの表札が・・その下に [菅原スズヱ ピアノ教室] の少し古いような木の看板があった。と惑いながらもインターホンを押してみると、「はぁーい」と、キラちゃんの声だ。良かったと思っていると、直ぐに門が勝手に開いて、いいのかなーと、ゆっくりと中に進んで行くとキラちゃんが現れた。半袖の袖口がフリルで白い綿レースのワンピースに真っ赤なエプロンで、耳の前に1本の髪の毛を持ってきて小さな白いリボン。後ろにも大きなリボンを結んでいるみたいだった。
「キラちゃん これ フィナンシェ 手土産」
「そんなん 何にも 持ってこないでって言ってたのにー すみません 気使わせてしまってー」
案内されて、広めの玄関を入ると、真直ぐ奥につづく廊下があって、上がって直ぐのところに、右手の大きな部屋のダイニング。その真ん中の10人ぐらいが座れるテーブルに仲間の他の4人が座っていた。もう、みんなはフルーツサラダみたいなものをつまみ出していた。
「山葵 お疲れ もう 予選始まるんだろう?」と、山水が気を使ってくれた。
「うん 明後日からね」
「じゃー 今日は 優勝の前祝いネ」と、キラちゃんがお皿に眼の前の木桶に入ったちらし寿司を盛り付け始めていた。
「そんなー 優勝なんて・・ キラちゃん お母さんは?」
「うん さっきも 言ったんだけど、生徒さんが来てるの ここの奥が教室なの 3時まで その後、ご挨拶に来るって言ってた」
「あぁー それで玄関に子供の靴が・・・ あのー 菅原スズヱって お母さん?」
「あぁ あの看板? そう 菅原は結婚前の名前 昔 使ってた看板らしいの 結婚前は岩倉で教室 やってて その時のものなのネ 結婚してからは、しばらく教室やめていたんだけど、私が小学校になってから、再開したの その時に此処に越してきたの あっ すみません 亜里沙さん そこの具材乗せて みんなにまわしてくださいな?」
その具材の皿には、まぐろ、真鯛、サーモン、イカの切り身に厚めの錦糸卵、生姜、きぬさやなどが乗っていた。別のお皿にキザミ海苔が。海鮮ちらしだ。
「うん うまい キラが作ったの?」白木屋君が聞いていたら
「そーだよ お母様に手伝ってもらったけどネ しらすのお酢に椎茸と穴子刻んだのをご飯に混ぜて 卵は私が焼いたの だから、ちょっと焦がしちゃった」
その時、私は亜里沙と顔を見合わせて「お母様だってー・・・ お嬢様なんだよ やっぱり」って、言いたかったのだ。
3時ごろ、生徒さんが帰ったのかお母さんが顔を見せた。私のお母さんも若いけど、それ以上なのかも、ロシァ系の可愛い人といった顔立ちで、確かにキラちゃんに似ている。紺のノースリーブのすっとしてスリムなワンピース。髪の毛も黒くて真直ぐで・・・キラちゃんのウェーブがかかってふわっとしたのは誰に似たんだろう。
「ようこそ みなさん 樹羅の母でございます お客様なのに失礼しちゃってすみません 樹羅がいつもお世話になっております 一度、ご挨拶をしとかなくてはと思っておりましたの」
私達は慌てて椅子から立って・・・白木屋君は立つ時に椅子を倒していた。
「どうぞ ごゆっくりしていってくださいネ あぁ もう 召し上がっていただいてたのね 樹羅ちゃん プリン お出ししたらー この子ね 姉妹居ないでしょ 昨日からはしゃいでて 皆さんが来るのとても楽しみにしてたのよ 朝から張り切っちゃってー プリンも樹羅が作ったの どうぞ 召し上がってくださいな お味のほうは・・どうだか 樹羅ちゃん! お皿の戸棚 開きっぱなしよ 包丁もまな板の上に置きっぱなし!」
「あっあぁー お母様 すみません 気をつけます」と、樹羅ちゃんは、急に萎縮したように・・。その時、私は、ちょっと気になっていたのだが・・・躾にはかなり厳しいのだろう。
出されたプリンはなかなかのもので、ちゃんとオーブンで焼かれたものだった。
「うーん おいしいー キラちゃん お料理も上手ネ」と、亜里沙が唸ると
「亜里沙さんでしょ? 博物館の学芸員を目指しているんですってね 樹羅から聞きました 素敵な目標ですよねー」
「はぁ まぁ 目指してるだけですけどネ キラちゃん そこまで・・」
「樹羅はなんでも報告してくれるのですのよ 山葵さんでしょ? 健康的なお顔で・・ 全国大会で決勝までいかれたんですってね すごいわぁー 練習大変なんでしょ? すぐに、次の予選が始まるとか 今日はごめんなさいね 樹羅のために・・お呼びたてしてしまってー」
「はぁ なんとかー でも、今日は私も楽しみにしてましたから・・」
「そう言ってもらえるとネ あー 当てるわね それからー 多分、こちらが進藤さん いつも、食べに行ってもそれとなくナプキンを渡してくれる親切な人って そして、こちらが山水さん 樹羅に言わすと、落ち着いていて、静かにみんなの言うことを聞いているて イメージどおりだわ あたった?」
「はい その通りです キラちゃんは 本当に何でもお母さんに言ってるんですネ」
「そうよ こちらは 匠さん 直ぐにわかった 樹羅の言ってたとおりの人 楽しそうで頼りになりそう 樹羅は匠さんのこと大好きなんですって!」
「えぇーっ そんなことまでぇー いや 違うんです ただ キラさんとは・・そのー 可愛くて・・ 賢くて・・ えーとー」
こんなにドギマギしている白木屋くんは初めて見た。
「いいんですのよ いつも コンサートにも応援にきてくださってるのね 良いのよ 樹羅が手つないで歩いたんだーって 報告してきた時の嬉しそうな顔 私も嬉しいのよ ただし、まだ、中学生なんですからね それなりにお付き合いしてくださいネ 樹羅が言うお仲間 みなさんに、お会いできて、安心しましたワ この子 皆さんのお仲間に入れてもらってからかしら・・・すごく、頑張るようになってきたのよ まだ 子供だって思っていたら、少し成長したみたい。これからも、樹羅のことよろしくネ まだ、一人前に何にも出来ないですけどネ」
私達は唖然としていた。そんな風に言われると思ってなかったのだろう 白木屋君も 「はっ はぁー」と、言って頭を下げるしかなかったのだ。
私は、あのお母さんにお会いして、キラちゃんが普段は厳しく育てられてるんだなと感じていた。だけど、反面、自由にキラちゃんのことを信じて伸び伸びとさせているんだなーとも。あのお母さんには、一人の女性として母親としても、人間的な余裕を感じさせられていたのだ。厳しいのだろうけど、樹羅ちゃんが天真爛漫なのはこの人によるところが大きいのだろう。
私は、午前中練習があるのでと、家に帰って、一応、変な恰好では行けないのでと、青系のチェックの半袖ワンピースでスカートもひざ丈のプリーツのもので出掛けた。少し遅れて2時頃、聞いていた場所を頼りに何とか探し当てていた。ここで良いのかしらと、川の横の道路沿いに建つ3階建ての家、というよりビルみたいなところ。隣も同じようで、どこかの会社みたい、反対側の隣は木の塀が続いていて樹木の奥には、格式の高そうな瓦屋根の和風の家屋がそびえていた。
ここで良いんだよねと、建物の前にはアルミ柵のゲートがあって、その奥は3台分ぐらいのスペースに白い軽自動車が停まっているだけだった。そのスペースの横が通用口になっているみたいで、 AMANOの表札が・・その下に [菅原スズヱ ピアノ教室] の少し古いような木の看板があった。と惑いながらもインターホンを押してみると、「はぁーい」と、キラちゃんの声だ。良かったと思っていると、直ぐに門が勝手に開いて、いいのかなーと、ゆっくりと中に進んで行くとキラちゃんが現れた。半袖の袖口がフリルで白い綿レースのワンピースに真っ赤なエプロンで、耳の前に1本の髪の毛を持ってきて小さな白いリボン。後ろにも大きなリボンを結んでいるみたいだった。
「キラちゃん これ フィナンシェ 手土産」
「そんなん 何にも 持ってこないでって言ってたのにー すみません 気使わせてしまってー」
案内されて、広めの玄関を入ると、真直ぐ奥につづく廊下があって、上がって直ぐのところに、右手の大きな部屋のダイニング。その真ん中の10人ぐらいが座れるテーブルに仲間の他の4人が座っていた。もう、みんなはフルーツサラダみたいなものをつまみ出していた。
「山葵 お疲れ もう 予選始まるんだろう?」と、山水が気を使ってくれた。
「うん 明後日からね」
「じゃー 今日は 優勝の前祝いネ」と、キラちゃんがお皿に眼の前の木桶に入ったちらし寿司を盛り付け始めていた。
「そんなー 優勝なんて・・ キラちゃん お母さんは?」
「うん さっきも 言ったんだけど、生徒さんが来てるの ここの奥が教室なの 3時まで その後、ご挨拶に来るって言ってた」
「あぁー それで玄関に子供の靴が・・・ あのー 菅原スズヱって お母さん?」
「あぁ あの看板? そう 菅原は結婚前の名前 昔 使ってた看板らしいの 結婚前は岩倉で教室 やってて その時のものなのネ 結婚してからは、しばらく教室やめていたんだけど、私が小学校になってから、再開したの その時に此処に越してきたの あっ すみません 亜里沙さん そこの具材乗せて みんなにまわしてくださいな?」
その具材の皿には、まぐろ、真鯛、サーモン、イカの切り身に厚めの錦糸卵、生姜、きぬさやなどが乗っていた。別のお皿にキザミ海苔が。海鮮ちらしだ。
「うん うまい キラが作ったの?」白木屋君が聞いていたら
「そーだよ お母様に手伝ってもらったけどネ しらすのお酢に椎茸と穴子刻んだのをご飯に混ぜて 卵は私が焼いたの だから、ちょっと焦がしちゃった」
その時、私は亜里沙と顔を見合わせて「お母様だってー・・・ お嬢様なんだよ やっぱり」って、言いたかったのだ。
3時ごろ、生徒さんが帰ったのかお母さんが顔を見せた。私のお母さんも若いけど、それ以上なのかも、ロシァ系の可愛い人といった顔立ちで、確かにキラちゃんに似ている。紺のノースリーブのすっとしてスリムなワンピース。髪の毛も黒くて真直ぐで・・・キラちゃんのウェーブがかかってふわっとしたのは誰に似たんだろう。
「ようこそ みなさん 樹羅の母でございます お客様なのに失礼しちゃってすみません 樹羅がいつもお世話になっております 一度、ご挨拶をしとかなくてはと思っておりましたの」
私達は慌てて椅子から立って・・・白木屋君は立つ時に椅子を倒していた。
「どうぞ ごゆっくりしていってくださいネ あぁ もう 召し上がっていただいてたのね 樹羅ちゃん プリン お出ししたらー この子ね 姉妹居ないでしょ 昨日からはしゃいでて 皆さんが来るのとても楽しみにしてたのよ 朝から張り切っちゃってー プリンも樹羅が作ったの どうぞ 召し上がってくださいな お味のほうは・・どうだか 樹羅ちゃん! お皿の戸棚 開きっぱなしよ 包丁もまな板の上に置きっぱなし!」
「あっあぁー お母様 すみません 気をつけます」と、樹羅ちゃんは、急に萎縮したように・・。その時、私は、ちょっと気になっていたのだが・・・躾にはかなり厳しいのだろう。
出されたプリンはなかなかのもので、ちゃんとオーブンで焼かれたものだった。
「うーん おいしいー キラちゃん お料理も上手ネ」と、亜里沙が唸ると
「亜里沙さんでしょ? 博物館の学芸員を目指しているんですってね 樹羅から聞きました 素敵な目標ですよねー」
「はぁ まぁ 目指してるだけですけどネ キラちゃん そこまで・・」
「樹羅はなんでも報告してくれるのですのよ 山葵さんでしょ? 健康的なお顔で・・ 全国大会で決勝までいかれたんですってね すごいわぁー 練習大変なんでしょ? すぐに、次の予選が始まるとか 今日はごめんなさいね 樹羅のために・・お呼びたてしてしまってー」
「はぁ なんとかー でも、今日は私も楽しみにしてましたから・・」
「そう言ってもらえるとネ あー 当てるわね それからー 多分、こちらが進藤さん いつも、食べに行ってもそれとなくナプキンを渡してくれる親切な人って そして、こちらが山水さん 樹羅に言わすと、落ち着いていて、静かにみんなの言うことを聞いているて イメージどおりだわ あたった?」
「はい その通りです キラちゃんは 本当に何でもお母さんに言ってるんですネ」
「そうよ こちらは 匠さん 直ぐにわかった 樹羅の言ってたとおりの人 楽しそうで頼りになりそう 樹羅は匠さんのこと大好きなんですって!」
「えぇーっ そんなことまでぇー いや 違うんです ただ キラさんとは・・そのー 可愛くて・・ 賢くて・・ えーとー」
こんなにドギマギしている白木屋くんは初めて見た。
「いいんですのよ いつも コンサートにも応援にきてくださってるのね 良いのよ 樹羅が手つないで歩いたんだーって 報告してきた時の嬉しそうな顔 私も嬉しいのよ ただし、まだ、中学生なんですからね それなりにお付き合いしてくださいネ 樹羅が言うお仲間 みなさんに、お会いできて、安心しましたワ この子 皆さんのお仲間に入れてもらってからかしら・・・すごく、頑張るようになってきたのよ まだ 子供だって思っていたら、少し成長したみたい。これからも、樹羅のことよろしくネ まだ、一人前に何にも出来ないですけどネ」
私達は唖然としていた。そんな風に言われると思ってなかったのだろう 白木屋君も 「はっ はぁー」と、言って頭を下げるしかなかったのだ。
私は、あのお母さんにお会いして、キラちゃんが普段は厳しく育てられてるんだなと感じていた。だけど、反面、自由にキラちゃんのことを信じて伸び伸びとさせているんだなーとも。あのお母さんには、一人の女性として母親としても、人間的な余裕を感じさせられていたのだ。厳しいのだろうけど、樹羅ちゃんが天真爛漫なのはこの人によるところが大きいのだろう。
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