少女は 見えない糸だけをたよりに・・

すんのはじめ

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第5章

5-4

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 12月の日曜日、朝から天気のいい日。私が教室から帰って来ると、お父さんが円山公園まで歩こうと言ってきた。床の間のお花を活けていたお姉ちゃんも誘われていたのだ。

「燿さん じゃぁ いづ重の箱寿司 買ってきてもらってもいいかしら 電話しときますから」と、お母さんがお姉ちゃんに頼んでいた。

 お姉ちゃんは、ベルト付きの黒のひざ上丈のワンピースで、私にも、ハーフジップになったグレーのベルトで後ろがリボンになった、やっぱりミニ丈のワンピースを着なさいなと勧められたのだ。

「お父様 いいわねー こんなに可愛い人 モデルさんみたいよ ふたりも連れて歩けるなんて」と、珍しく、お母さんに嫌味ぽく言われて送り出された。

 暖かくて、ポカポカする陽気で、公園の中にも多くの人が散策していて、お父さんが

「歩いたからか、腹減ったなー あそこで、そばでも喰おうか」と、公園の中の茶店に向かって行った。

 お父さんは、ざる蕎麦とビールを頼んでいたんだけど、私は、みたらし団子を、お姉ちゃんはわらび餅を頼んだ。私達は食べ終わっていて

「お父様 私、お母様から頼まれたお寿司いただいて来ます。ここで、ゆっくり休んでいてね」と、お姉ちゃんが言い出したので

「お姉ちゃん 私も、八坂さんの中にある神社 お詣りしたいの 付いていって良い?」

「いいけどさー もしかして 美御前社? 香波 それ以上、美人になってどうすんの」

「うーん お姉ちゃんに追いつきたい」

「うーん もう 追い越してるよ そのピチピチの若い笑顔 じゃあ 行くよ」と、手を繋いできてくれた。

「私 これ以上 美肌も必要じゃぁないから」と、お姉ちゃんは境内でバイバイしてお寿司屋さんに向かっていって、私は、独りでそのお社のほうへ。

 そして、お詣りをして、湧き水を頬にベタベタとしている時、3人連れの男の人が

「ねぇ 君 可愛いね 写真撮っていい?」と、強引に写真を撮られて、その後、一緒にと・・無理やり並ばされて・・私、怖くて、身体中が縮んでしまって、(バク 助けて・・)と思っていて、声も出せなかった。ずーと下を向いて黙ったままでいたんだけど、「どこから来たの? 一人?」とか「幾つ」「名前は」とか聞かれたとき、「バクー 助けて―」とようやく声が出た。「チェッ なんだ こいつ わけわかんないの」とか言い捨てて過ぎ去ってくれた。

 私は、その後、お社の横に隠れるようにして、怖くて震えてしまって動けなかった。その間「どうかしたんですか 大丈夫ですか?」と声も掛けてくれた人が居たが、私は、うなづくだけで、声も出なかったので、その人もどうしょうもなかったのだろう、そのまま行き去ってしまっていた。

 どれぐらい時間が過ぎたろうか。電話が鳴った。お姉ちゃんだった。

「香波 今 どこ? やっと、お寿司受け取れたのよ! 混んでてね」

「お姉ちやん・・・私・・」

「香波 どうしたの? なにー どうかしたの?」

「私・・ 今・・」と、泣き始めていた。

「香波 今 どこにいるのよー」

「うん ここに・・ お社 お姉ちゃん・・」

「わかった 直ぐ行くからね 動かないでね」

「香波 かなみー」と、お姉ちゃんが来てくれた時、私は抱き着いて「男の人達に声掛けられて・・怖くなってしまって・・」その後、本当に震えながら声を出して泣いていた。

「もう大丈夫よ 落ち着いて! もう 安心だから」と、抱きしめてくれていた。その後、お父さんと合流して、タクシーで帰ってきた。

 落ち着いた後、私は、お父さん、お母さんとお姉ちゃんを前にして、訳を話し始めた。島にいる時、観光で来ていた男たちに襲われかけた時、バクに助けてもらったこと。以来、数人の男の人が近づいてくると、怖くて身体が震えてしまって、ひどい時は動けなくなってしまうことを。

「そうか やっぱり そんなことがあったのかー なんかあるとは思っていたが・・ すまんな 一人にしてしまって」

「私も ごめんね 近くだからって 大丈夫だろうって 私が悪いのよね 一人にしてしまったから・・」

「ううん ごめんなさい 私 もっと 強くなんなきゃいけないのに・・ 普通のこと出来なくって・・」

「香波 それは 違うわ 誰だって 女の子がそんな風にされると怖いわよ それに、香波がそんな目にあってたこと知らなくて 気持ちわかるわよ だけど 嫌って声を出す 勇気は必要よ でないと、ずーと 今日みたいに怯えなきゃなんないわよ 香波は身寄りもいないのに、京都に出て来た勇気があるんだから、出来るでしょ 強くね」

「うん」と、私は返事をしていたが、いざとなるとわからなかったのだ。

「まぁ ワシも悪かった。のんきにビールを飲んでいたんだからな 守ると言いながら、油断していた」

「まぁ 飲んでいたんですか 誘いだしていながら・・ あきれた」と、お母さんが・・

「違うんです お母さん 私が勝手言って お側を離れてしまったから・・」

「いいの! 香波ちゃん 悪くないわ 浮かれ過ぎていたんじゃぁないんですか こんな可愛い娘達を持っているってこと 少しは 自覚してもらわなきゃね」と、今日のお母さんは、普段と違っていた。

 その夜、お姉ちゃんに

「香波 聞いて 私は、香波が男の子みたいな恰好している方が安全だと思うのよ だけど、香波は女の子としても可愛いし美人なのよ だからね 可愛くするのは、特権だと思うの その人にしか出来ないんだもの 芸能人だってモデルさんも、そうでしょ 精一杯アピールしているわ その人だけの特権 誰にでも出来ることじゃぁ無い 天から授かったものなのよ 香波もそうなの だから、私は、香波には、より可愛くあって欲しいの 色んなもの着飾ってもいいわよ だって 他の人には出来ないのよ 私の傲慢かも知れないけど・・ 香波が可愛く見えなければ、今日みたいなこと無かったかも知れないけど そんなのに負けないで、香波には もっと もっと 可愛い恰好でも何でもして欲しい そんなこと出来るって香波だけよ だから 強くなってね 自分はその辺の男には負けないって、自分に言い聞かせるのよ そして、並大抵の男なんかは近くには寄れないわよってね 香波の王子様に再会するまでね」

「お姉ちゃん ありがとう お姉ちゃん 強いよね だから なかなか 彼氏出てこないんだ」

「こらー 香波なんかより ずーと 色気あるんだからー」と、私は、お姉ちゃんにくしゃくしゃにされていた。でも、なんか、元気が湧いていた。  


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