少女は 見えない糸だけをたよりに・・

すんのはじめ

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第9章

9-4

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 8月の初め暁美さんが男の子を出産したので、退院する前に、お姉ちゃんと私はお祝いに出かけた。

「暁美ちゃん おめでとう 元気そうね」

「ありがとうございます 香波ちゃんもね」

「どう 名前決まったの?」

「それがね 聞いてよー 店長 あの人 まだ 迷っているのよ ほんと 決断悪いんだからー」

「そう まぁね 初めてなんだから いろいろとあるのよ 多分 それで、暁美ちゃんのご両親には、連絡したんでしょ?」

「ええ まだ、見に来てくれていないんだけど、ようやく、結婚 認めてくれそう」

「そう 良かったね 初孫なんでしょ」

「そうなんだ 退院したら、お母さんが来てくれるって いろいろ必要なもの出てくるだろうからって やっと、私 あの人のお嫁さんになれたんだって 感じているの だから、嬉しくって」

「良かったね 暁美ちゃんも母親なんだものね」

「うーん だけどね すぐに、私が働かないと 経済的に苦しいんだ 向こうのお母さんが援助するからって、言ってくれてるけど、そうもいかないしね」

「だって 赤ちゃんどうすんのよ」

「うーん そこは、助けてもらわないとね 赤ちゃんのうちから、保育園ってわけにもいかないしねー」

「たいへんだね 母親って あのさー 働くの 相談に乗るからね 落ち着いたら、どれぐらい時間取れるのか 教えてちょうだいね」

「ありがとうございます 店長」

 病院を出て、歩いているとき、お姉ちゃんが

「香波 私 やっぱり2号店 進めるわ 暁美ちゃんにやってもらう あの子がどれだけ働けるんかだけど」

「えー そーなんですか だけど 今は 客足も落ちているし・・」

「大学の傍だからよ もっと 人が多い所 考えているの テイクアウト専門なら、そんなに大きいお店 要らないしね やってみないと、わからないわよ 飲食店への入店が規制されたら、それまでの人はどこで食べるのよ チャンスかもね」

「うーん よく わからないけど チャンスなんかなー」

 ― ― ― * * * ― ― ―
 
 8月に入って、最初の頃、巧がお店に顔を出して

「すべて、終わったよ 試験」

「うん 手ごたえあるの?」

「まぁな それなりにな でも、試験官の印象がどうかだからなぁー」

「巧は やる気あるように見えるから大丈夫よ」

「見えるだけかー?」

「そんなー やることやったんだから いいじゃぁない いつ 発表だっけ?」

「16日 こくだよなー もう少し早い方がいいけどな」

「そうかー お盆休み 遊びに行けないね」

「だなー なんとなく おとなしくしているよ 香波は誰かと遊びに行けよ」

「そんなこと ゆうてもなー 私だって 落着けないよ」

 そして、暁美さんがひょっこり顔を出して

「よおー 元気かなー」

「暁美さん 赤ちゃんは?」

「うん 少しだけだから お義母さんにまかせてきた お店の様子 見に来たんだ 暇そうね」

「そんなに暇ってわけじゃぁないけど お客さん少ない」

「だろうね 人もあんまり歩いてないものー」

「ねぇ 店長と話した? 暁美さんの復帰後の話」

「うぅん なんにも でもさー ウチの稼ぎ旦那の稼ぎ多くないから、少しでも早く、ウチも働かなきゃって思ってるんだけどね」

「そう 働けるようになったら 店長とゆっくり話してね あの人なりに考えているみたいよ」

「そうなんだ 世間がこんな時に無理言うのも悪いしねー」

「そんなことないよ 暁美さんが復帰してくれるの期待してるみたい 詳しく知らないけど」

「そう ありがとう じゃぁ あんまり ゆっくりしてられないから」と、バタバタとサンドを買って帰って行った。

 ― ― ― * * * ― ― ―
 
 お店がお盆休みになって、急にお姉ちゃんが

「香波 巧さんと 予定ないんでしょ あなたのお墓詣りに行こう」

「まぁ 予定ないんだけど 16日の発表まで」

「日帰りでいいじゃぁない べつに 岡山だったら どこかホテルも空いているよ」

 結局、すぐに行動する人だから、押し切られて、島に渡る船に乗っていた。島の風景は前と何にも変わっていない。島に降り立ったのは私達だけだった。

 すぐに、坂を上り始めて、そのうち階段になっている坂道を・・。

「香波 先に行ってていいよ さすがにこの坂はきついわー」

「うん ゆっくり上っているんだけどなぁー お姉ちゃん 足 弱っているんじゃぁない?」

「なに言ってんなよー 年寄扱いしてー 誰だって こんなのきついわよー」

 そして、お墓の前に着いて、ペットボトルのお水で墓石を掃除して、お参りを済ませた。お墓の前で私は、巧のことも報告したのだ。「私 あの人にずーとついていくから」と

「海がきれいね 京都では見られないわね 香波 いいところで育ったわよ」

「うん お姉ちゃんにね 山の上から見る朝日も見せてあげたいんだけどね すごくきれいなんだよー」

「そう 見てみたいけどなぁー」

 それから、巌さんの民宿のほうに・・バクのお墓詣りもするつもりだった。民宿のある浜も変わっていない。バクの墓標の木はもう灰色になっていて、私は、持ってきたウィンナーを供えて、やっぱり、巧とのことを報告した。

「ヤッパー 香波ちゃんカエー 窓から姿が見えたもんでナー」おばさんだ

「ただいまー おばさん お元気そうでー 巌さんもお元気ですか?」

「うんじゃ 元気だぞ 今な 島の集まりでいっちょるがー」

「そうなんだー 会いたかったけどなー」

「泊っていくんじゃろー」

「うーん だって 部屋ないんじゃあないのー」

「そんなことないわー 世間がこんなじゃけー お客なんて 来やせんがなー 数人じゃー」

「お姉ちゃん どうしょっかー」

「うん じゃぁさ お世話になって あした その朝日見に行こうか」

「うん そうしよう 巌さんにも会いたいしね」

 私達は、浜辺で少し遊んで、民宿の夕食のお手伝いを仕掛けていたら、巌さんが帰ってきて

「おぉー 香波ちゃん お姉さんも 来てくれていたんか」

「巌さん お元気そうで 今日 お世話になります」

「なんの 香波ちゃん 手伝いしてるんか ゆっくりすればいいのにのー」

「うぅん やっぱりね 手伝いたくなるからー」

「そりゃー 助かるけんど どうじゃ 彼氏はどうした?」

「ええ 仲良くやってますよ」

「そっかぁー 可愛がってもらっちょるんやろー?」

「おじさん 言い方 やーらしいぃっ」私 変に 捉えていたのかも・・・

 宿泊の人たちが食事をしている間に、私達はお風呂に入って、上がってきたら表で巌さんに誘われて、お姉ちゃんも飲み出したのだ。そして、お姉ちゃんもどんどん飲んでしまって、私がなんとか抱えて寝かしつけた。いつもお姉ちゃんはこんなに飲まないのに・・

「なんで 起こしてくれなかったのよー」

 もう、陽が出てしまっていたのだ。

「だって 暗いうちに起こしたんだよー だけど、お姉ちゃんは もう少し寝るとか そのうちに うるさい! とか言い出してさー」

「そう そうかなー 覚えてない」

「もーう 勝手なんだからー」

 結局、私達は水着も持ってきていないから、朝ご飯を食べて、島を離れることにした。

「巌さんも一度 京都に遊びに来てくださいね おばさんと ウチに泊まればー きっとお父様も喜ぶと思います」と、お姉ちゃんはお礼を言っていたのだ。
  
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