少女は 見えない糸だけをたよりに・・

すんのはじめ

文字の大きさ
47 / 60
第10章

10-1

しおりを挟む
 9月に入って、巧がウチの家に来ることになっていた。私は、朝から、お母さんと食事の準備に追われていた。あの人の好きなお肉とサラダに私の故郷のバラ寿司を用意していた。

 お父さんも朝からそわそわしていて、お母さんに何を着たらいいんだろうとか聞いていた。特別なものでなくて、普段着でいいんじゃぁないですかと言われていたみたい。お姉ちゃんは、白い長袖のブラウスにグレーのボックスのスカートだったので、私も、白いブラウスに濃紺のフレァースカートにした。お母さんは、いつものように着物のままだった。

 私は、岡崎公園まで迎えに行って、白のポロシャツの巧の姿が見えた。

「香波 何にも お土産 持ってこなかったんだよ いいかなー」

「そんなの いいの いいの 気楽にね」

「そ~いうけどなー 緊張するよ 何 話したらいいのかなー なんてね」

「私も わかんない でもね お姉ちゃんがそーいうところ うまいから 安心してー」

 表の門扉をくぐると

「うわー まだ あっちにもくぐり戸みたいなのあんのかー すごいね こーいうのを屋敷って言うんだろうな」

「うん 私も最初 びっくりした」

 玄関にはお母さんが迎えに出てくれていた。

「いらっしゃい 香波の母です」と、私 なんだか 変な気持ちだった。

「赤嶺巧です 今日は お招きありがとうございます」

 部屋の中では、お父さんとお姉ちゃんが待っていた。

「ようこそ 香波から聞いていて 一度 お会いしたかったんですよ」

「いいえ こちらこそ 赤嶺巧です よろしくお願いいたします」

「まぁ 今日は気楽にしてください 君が就職決まったって聞いたんでな そのお祝いも兼ねているんだから まぁ さっそく 一杯 まだ、外は暑いだろー」

 そして、さっそく、みんなで巧の就職のお祝いに乾杯したのだ。私も、少しだけビールを飲んだのだ。

「君は農政のほうだってな」

「ええ 京都市街地の周りには、近いところで大原とか久御山、洛西のほう亀山なんかも、京都野菜もそうですが、品種改良して新しい農産物を目指している人がいっぱいいるんです。そんな人達と僕も一緒にやれたらなぁーって思っています。それに、これからは、遊休地なんかも若い人達がやってくれるようになればなって思っています。」

「そうかー そりゃー 素晴らしい志だなぁー 京都もいつまでも伝統だけじゃぁ だめになるもんなー」

「はい 頑張ってやっていこうと思っています」

 それから、お父さんは帯の伝統の話とか、これから伝統を守りながら、どう発展させていくかとか一人でしゃべっていた。私達は、その話を黙って聞いていたのだが、しびれをきらしたのか、お姉ちゃんが

「ねぇ 巧さん 最初 香波に会った時、どんな感じだったのか 聞かせてー」

「はぁ そーですねー 最初 見たとき 細いんだけど真っ黒に陽に焼けて、不愛想な男の子に見えたんですよね。だけど、女の子だった。それでも、海の岩場で飛び跳ねていて・・・そして、人に対しても優しいし、話をしていても素直で賢いのがすぐにわかったんです。なんか、僕の心の中に飛び込んでくる感じだった」

「だから 香波もあなたとつながっていると思ったのよね」

「そうです 僕は香波を離したくありません ずーと。 仕事が落ち着いたら、結婚したいんです お願いします そのときは 香波を 僕に 任せてください」と、巧はお父さんとお母さんに手をついて頭を下げていた。私も、あわてて、頭を下げていた。

「いゃ そのー 頭を上げてください ワシは香波が幸せになるんだから これ以上のことはないと思っている。君も立派な男だと思う。だけど、ここに居る聡も燿も香波もワシの宝なんだ。その宝の一つを奪っていくんだったってことだけは忘れんでくれよな その覚悟でな」

「わかってます 僕は、香波と一緒に幸せになるんです」と、はっきり言ってくれた。私、その言葉がうれしかったのだった。

 ― ― ― * * * ― ― ―
 
 10月初め、三条に近い木屋町通り沿いに新しいお店が出来た。ワッフルサンドのテイクアウト専門店で、バナナジュースとキューイジュースを用意した。店長は暁美さんがなって、火曜、水曜はお休みで11時から6時まで、バイトの女の子を二人雇ってやっていくということだった。オープンからの一週間はくるみちゃんも応援で入っていた。今は、テイクアウトのお店がはやるし、そのうち観光客も戻るだろうから、その時には有名店になっているはずと、お姉ちゃんは言っていた。

 こっちのお店も10時から7時まで、営業時間を1時間縮めたのだ。閉店時間の間際、くるみちゃんが向こうのお店を終えた後、報告に来てくれた。

「オープンして直ぐだからか、お客さん多くってさー ひと安心だよ」

「そう 人通りが少なくなってるんで心配してたんだけどね」

「やっぱり ここら辺りとはちがうよ なんだかんだ言っても、やっぱり繁華街はちがうね」

「暁美さんも頑張ってるんでしょ?」

「うん 張り切ってるよ 店の子もハキハキしていい子達だよ あっ そうだ ウチなぁー ひとつ 内定もらったんだ ホテルなんだけど、フロント業務」

「そう 良かったね 行くんでしょ?」

「そーだねー まぁ 今んところ 決めるかなぁー」

「いいじゃん 希望のとこでしょ」

「そー だけどね CORONAで客足が遠のいているし この先 不安だなぁー」

「そんなの 一時よ また 戻るようになるって このお店だって、そのうちに学生さんが戻ってくるって」

「香波は 今 希望に膨らんでいるからねー 巧さんとのことも」

「そんなー 成り行きよ まだ」

「ねぇ まだ 何にもしてないのー?」

「えー 何にもって?」

「だからー してないの?」

「うん してないよー」

「あんまり もったいぶると 逃げられちゃうからね 向こうだって男なんだから、したいと思ってるに決まってるんだから ねぇ 匠さんって 男として大丈夫なの?」

「男としてって?」

「だからぁー 性欲って 普通にあるの?」

「そんなの わかんないよー でも そのうちにね」

 私は、くるみちゃんには、あの家にお世話になっていることも、巧に抱かれたことも内緒にしているんだ。なんか打ち明ける気にならなかった。それに、匠とのことは、私の大切な想い出なんだからー
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

25年目の真実

yuzu
ミステリー
結婚して25年。娘1人、夫婦2人の3人家族で幸せ……の筈だった。 明かされた真実に戸惑いながらも、愛を取り戻す夫婦の話。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

処理中です...