少女は 見えない糸だけをたよりに・・

すんのはじめ

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第11章

11-2

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 5月の連休はお店を土曜、日曜とお休みにして、お父さんと島に行くことになった。今度は、事情もあるので、お父さんは無理にお母さんも誘ったのだ。巧は実家に帰って、私とのことを報告してくると言っていた。巧のお父さんは、もう亡くなっていて、実家の車の修理工場はお兄さんが次いで、お母さんの面倒を見ていると、前に聞いたことがあった。

 島に着いた後、お墓に登っていく坂道を見て、お母さんは

「えー 聞いていたけど こんなに急なんですか 私 歩けるかしら」

「お母さん すみません ゆっくり上りますから・・ 私 支えますから」

「そうね 私 足が弱くてね お願い 香波のお父様とお母様にお逢いできるんだから 頑張るからね」

 私 独りだったら、15分位なんだけど、1時間位かけてゆっくり上って行った。お父さんは、さすがに先に行ってお墓の前で待っていた。

 それから、私は、掃除をして、お墓の前で報告したのだ。きっと、お父さんもお母さんも、そして、おばぁちゃんも反対はしないだろう。私、幸せなんだから・・。そして、お父さんとお母さんは、声を出して、(香波のことは責任を持って見守りますのでどうか私達の子供として、任せてください 不幸になるようなことは絶対にしません) と。もう、一度、私はお参りをして・・涙が出てきていた。少し、親不孝なのかなって感じたりもしていた。

 そして、巌さんの民宿に・・。今夜はお世話になるつもりで連絡しておいたのだ。あらかじめ、お世話になるからと伏見のお酒をお父さんは送っていたから、また、お父さんは巌さんと飲むつもりなんだろう。それでも、お母さんは手土産にと宇治のお茶と和菓子を持ってきていた。

 バクのお墓の墓標はずいぶん古くなっていたけど、周りは、ちゃんと草も丁寧に抜いてあった。私は、焼いたお肉を少し持ってきていたので、手を合わせていると、お母さんが寄ってきて

「ここが、香波ちゃんと仲のよかったバクちゃんのところね」と、一緒に手をあわせてくれた。

「バク こうやって幸せでいられるのも いつも バクが見守ってくれているからよ」と、私は、心の中でお礼を言っていたのだ。

 もう、夜になる前から、お父さんと巌さんの酒盛りが始まった。お母さんは、おばさんに私の籍を移すことを報告したのだ。おばさんも、喜んでくれて

「本当はね ウチも子供が居ないから 香波ちゃんがひとりぼっちになった時になー、私等のとこにこないかと言っちょたんだけんど・・そのうち、黙っておらんようになってしまって・・だけんど 良かったわー いい人ばっかーで」

 お風呂に入った後、お母さんと浜辺に出て、星空と暗い海を眺めながら

「香波ちゃん 素敵な島ね あなたが、素直に育ったんがわかるわ きっと、おばぁさんも優しい人だったのね」

「うん 明るくてね 私に 両親が居ないこと 寂しい思いをさせないようにと・・」私、また、思い出してしまっていて、涙が・・

「ごめんなさい 思い出させてしまったわね ねぇ お父様のこと お願いしてもいいかしら 私 疲れたので、お先に寝てしまっていい? 私がお酒 止めても言うこと聞かないんだから・・ 香波ちゃんが傍にいると きっと 無茶しないと思うからね」

「いいですよ 私 ちゃんと見張りしますから 休んでください あんなきつい坂を上ったんですから・・」

「でも、すばらしい海の景色見させてもらったわ おかげでね」

 ― ― ― * * * ― ― ―
 
 連休も終わった時、お店を閉めようかと思っていたら、巧が顔を出して

「香波 もう 終わりだろう? 閉めたら、少し話せるか?」

「うん いいよ 待ってね 表 片付けて シャッター閉めるね」

 巧は、スーツ姿じゃぁなくて、ジャンパーを羽織っていた。私が、巧の隣に腰を下ろすと

「帰った時 香波とのことを言ってきた。来春には、結婚するつもりだと、伝えてきた」

「うーん そーなんだ 私は うれしいけど・・ 反応は?」

「兄貴は 少し、早いんじゃあないかといっていたけど、母親と兄貴の嫁さんは、早い方がいいよと、喜んでくれた。香波だって、来年は二十歳だろー 早くはないよなー」

「そう 私は ずーと 巧の傍に居られるの 夢だったから」

「それでな、お盆休みには、連れてくるよと言ってしまったんだ 一度 会わせておいた方がいいと思って・・」

「うん いいよ 行く お会いしておかなきゃぁね」

 そして、私が、帯屋の養子になることも、巧に伝えておいた。巧も少し複雑な気持ちもすると言っていたが、どっちみち、結婚すれば赤嶺になるんだから・・。

 そして、お父さんは、私を自分の籍に入れるように手続きを進めて、私は帯屋香波になったのだ。その夜、軽く、家族揃ってお祝いをしてくれた。

 お父さんは、娘になってくれたお祝いだといって、分厚い金のネックレスを私の首につけてくれたのだ。

 こんなのする機会も無いからと思っていたけど、お父さんは値打ちが下がるもんじゃぁないから、持っていなさいと、冗談半分に言ってくれたのだ。
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