少女は 見えない糸だけをたよりに・・

すんのはじめ

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第11章

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 お父さんが、もう一度、巧に会って、ゆっくりと話したいと言っていたので、巧を家に招くことにしていた。

 朝から、私はお母さんと、お料理を作って用意していた。そのうちにお姉ちゃんも加わって・・。

 お昼前に巧は来ることになっていたから、私とお姉ちゃんはワンピースに着替えて、念入りにお化粧もしてもらっていた。お母さんも普段より良い着物に着替えていた。

「巧 いらっしゃい」私は、門扉の前で待っていて、巧の姿が見えると手を振って、迎えた。

「表で待っていてくれたのか あのさー お土産 何がいいのかわからないから これっ 地元のマグロの燻製」

「そんな 気にしなくていいのにー」

 そして、座敷に案内して、お父さんの直ぐ角隣りに巧、その横に私が座った。向かいには、お母さんとお姉ちゃん。

「うん 忙しいだろうに今日はすまんのー 来てくれて」

「いいえ 僕も 改めて ご挨拶って思っていましたから」

「そうか 今日は ゆっくり 君と飲みながら 気楽に話をしたかったんじゃ」

「ですね でも、最初に・・ 僕は香波と 来春 式をあげるつもりなんです 今日は そのお許しをお願いにあがりました」

「そうか 覚悟はしとったがー 来年かー 時間もあんまりないのぉー 手放すとなると寂しいが、香波が幸せになるんだったら ワシは何の文句もないわい いや めでたいことじゃぁないか じゃぁ その祝いも兼ねて飲もう 巧君は結構 飲めるみたいだしな」 

 その後、巧の仕事の内容を話させていて、お父さんが

「君は 香波のどういったところに魅かれたんじゃ?」

「はぁー 最初 男の子かと思っていたんですけどねー、ウフッフー そっけないんだけど、人への気遣いが細かくて、優しいんです。それに、陽焼けした脚で島の岩場を飛ぶようにしている姿を見てるとバンビみたいで、無性に可愛く思えてきて、話をするうちに魅かれてしまったのかなー おばぁちゃん思いで、純真な良い子だったし」

 その時、お台所から戻ってきた私の顔を見ながら

「そうかー ワシもな こんな純真な娘がいるのか と 直ぐに 魅かれてしまった それに、ワシのことでも、よく尽くしてくれる」

「お父さん 私 感謝してるんですから これ 巧が持ってきたの」と、マグロの燻製のお皿を並べていった。

「ウン うまいな これは あのなー 巧君は気分良くないかもしれんがのー この前 この娘を籍に入れるんで、ご両親に許してもらうんでなー 島に行った時な 酔っぱらったワシを心配して添い寝してくれたんじゃ 聡が横に居るのにじゃぞー 年寄だからって嫌うのが普通だろー でも、この娘はやさしいんじゃー 可愛くてしかたがない」

「うーんもうー お父さん 飲みすぎー」

「そーですよ お父様 少し、控えてくださいな この前も島で巌さんと、ぐでぐでになってしまって 香波ちゃんが抱えて、ようやくお布団に連れて来たんですから・・ 仕方なくて、そのまま隣で寝ただけですから・・ そんなことを 旦那様になる人の前で・・」

「いいじゃぁないかー 今日は ワシにとっても初めての息子と飲んでるんじゃ 楽しいんじゃ それに 巧君はそんなこと、気にするようなちっぽけな男じゃぁないぞ 堂々とワシから大事な宝を奪っていくんだから」

「まぁまぁ お父様 それにしても 少し 控えてくださいな あのね おうどん 作りますから 飲むの 休憩」と、それまで、黙って聞いていたお姉ちゃんが釘をさしたみたい。

 だけど、おうどんも半分ぐらい残して、お父さんは、又、飲み始めてしまった。その後も、巧にしきりと、香波を絶対に悲しませるようなことはするなよと、もし 香波が泣くようなことがあったら、直ぐに連れ戻すからなと しつこく迫っていた。

 ― ― ― * * * ― ― ―
 
 夏を迎えようとしていたが、今年も祇園祭は中止とかで、街も何となく落ち込んでしまって、飲食店なんかも活気を失われていた。そんな中だったけど、新しいお店は、そんなに客足が途絶えることもなかった。そして、すみれさんところのパンの移動販売も在宅が増えたせいなのか、好調で売り上げを伸ばしているみたい。だから、ワッフルサンドも順調に売れて、比較的そっちの売り上げのほうが多くなっていた。

「香波 お盆休み取れるんだろう? 実家に連絡するから・・」

「うん お店自体は お休みにする だけど、木屋町のお店は暁美さんに任せてるから、どうするかなー それと、すみれさんとこのパン屋さんも・・」

「香波も休めないのか?」

「ううん みんなにお願いして 休みとるつもりだけど・・ お姉ちゃんも、代わりに入ってくれるっていっているし」

「そうか じゃぁ 近くの宿 取るよ 高校の時の同級生がやっているとこあるから CORONAで客足がもうひとつって言っていたから 空き室あると思う」

「泊るんだー」

「そう 実家には 日帰りってことにして 海水浴でも・・ いいだろう?」

「うん いいけど 今度は、ちゃんと お父さんに話すね 巧と一緒だってこと」

「香波がいいなら それで、いいんじゃぁないか 結婚する意志も伝えてあるんだから 僕の実家への挨拶だし」

「そっ そうだよねー でも なんて言われるかなー まだ 結婚前だし・・」

「それなりに 覚悟してるだろうから・・今更、古臭いこと言わないと思うよ」

「だと いいけどね 私 お父さんに叱られたことないから・・わかんない 今までは、娘って言っても、形だけだったからね だけど、今は帯屋の娘なんだよ 本気で、そんなこと許さんと言われるかも 怖いなぁー」

「だったら 内緒にしておけばー」

「ダメ 嘘つきたくない! 娘なんだから・・ね」

「複雑 香波の気持ち 香波はどうしたいんだよー」

「行きたいに決まってるじゃあない 巧と海を見ながら、抱かれていたいし・・」

「じゃぁ 堂々と お父さんにも 言えるだろーぅ?」

「だね でも 怖い」

 私は、巧の胸に飛び込んでいった。しっかりと、抱きしめて欲しかったのだ。
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