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58話 勧善懲悪! ザッコス盗賊団ざまぁ回 前編

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「「「──すいやせんでしたぁあ!」」」

 俺様たちに魔法は効かねー! と豪語した盗賊団の男たちが、顔に痣とたんこぶをつくり、パンツいっちょで靴下のみの情け無い変態みたいな姿で私に土下座していた。

「い、いやぁ、まさかこちらにいらっしゃる方が【神託の勇者ユーナ・ステラレコード】様とその一行、【天使の聖剣】の方々だとはつゆ知らず……! あっしらの目が節穴でした!」

 手をスリスリとゴマをすりながらそう言うのは、盗賊団の親玉で名を【ザッコス・ギール】というモヒカン頭だった。

 別にこいつの名前などどうでもいいのだが、私は親玉モヒカンに語りかける。

「……ほう? かまわん、続けろケダモノ。話しくらいは聞いてやろう、あんま聞きたくないけど」

「いやぁ、ダンナも人がわるいや! まさか、魔王軍の頂点にして魔王のヨーケス・ブーゲンビリア様だったなんて! 言ってくれりゃあ、あっしらも剣を向けるなんてこたぁしなかったのによぉ」

「ほう? 私が魔王でなければぬっころす気だったと? とんでもない悪党だなケダモノども。よし、全員まとめてぬっころすか!」

 私は両手合わせ、ボキボキと鳴らす。すると焦りの表情でザッコスは懇願し始めた。

「ちょっ!? だ、ダンナ、あっしの話を聞いてくだせぇ! 聞くも涙、語るも涙の話を……あっしらは、王国や冒険者ギルドから締め出され、『追放』された不遇の元冒険者なんでさぁ!」

「あっそ。だからどうした、私には関係ない。よしそれでは裁きを執行……」

「ちょちょちょ、魔王のダンナ!? ま、まだ話の続きがありやして!」

「ほう? では私を納得させる命乞いをするなんだな……!」

 私は両手に魔力を込め、魔法を放つ仕草を盗賊たちに示す。

「あっしらだって、もし冒険者を『追放』されなきゃ、そこのお嬢ちゃんらが勇者とその一行だって知ってたんでさぁ! じゃなきゃこんな酷い仕打ちをするもんですか!」

「……さすがにその言い訳にはムリがあるな、ケダモノ。慈悲の感情がこれっぽっちも湧かん」

 私は無感情のまま、ザッコスに返す。

「というかだ。この魔王である私が心情的にキサマらを許すと思うのか? キサマらは私の大切な人を傷つけた……お前、このまま無事に済むと思うなよケダモノが!」

「そんなことを言わねぇでくだせぇダンナ! ほ、ほら、この通りでさぁ!」

 平伏し謝り散らす盗賊たち。

 しかし、私は女や子どもを手にかける外道は断固として許さない。

 それに、こいつらのせいで涙を流した者がきっといるのだろう。ユーナたちを襲ったのがいい証拠だ。

 許してなるものか。

 すると、そんな盗賊たちはさらに命乞いを続けてくる。

「ワシらもう二度と悪さはしねぇよぉ! これからは心を入れ替えてますからぁ!」 

「そ、そうさ! オレたちもう反省したし、絶対に人を襲わねーって誓うよ! ま、マジメに働くよ!」

「な、なぁダンナ! この通りだ、おいらたちを許してくれよ!」

「な、なぁ魔王のダンナ! こいつらもこう言ってる。た、頼むから命ばかりは助けてくれよぉ! あっしらにできることなら何でもする! だから──」

 バカバカしいほど、その場かぎりの苦しいウソや言い訳、御託を並べて生への執着を私にアピールする。

 しかし……そうか。こいつら何でもすると言ったな。

 マジメに働くと言ったな。

「……そうか。では、一つだけお前たちに生きるチャンスをやる」

 私はピンと閃いた提案を盗賊たちに告げることにした。
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