魔王様はレベル1の勇者に恋をする! 〜ヤンデレ系こじらせ魔王は愛する勇者のレベルを上げさせない〜

愛善楽笑

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65話 売られたケンカは買おうじゃないか 後編

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「あんたは魔王、オレはS級冒険者! なら決まってる……勝負だ! オレが勝ったら土下座して、今後は人間たちの前に姿を現さないと誓え!」

 アイドが指を差して言った。この魔王軍の頂点にして魔王の私に、なんという無礼なことを……! 

 私はアイドを睨み。

「なるほど、では私が勝ったらお前は何をしてくれるんだ?」

「あんたが勝ったら? ふん、何でも一つ、言う事を聞こうじゃないか」

「いいだろう、では覚悟するんだなナル男!」

 予想通りの展開だ。

 しかし、私からしたら勇敢と無謀は意味が違う。この男は後者、無謀にも私に挑もうとしているのだ。

 アイドにS級冒険者という肩書きがあろうが、そんなもの知ったことではない。いかに自分が未熟であるか教えてやる。

 私は魔力を両手に込め、アイドは腰の剣に手を当てて抜刀の構えだ。

 ……互いを見据え、刹那的に訪れた沈黙の中……泉の水面から魚が飛び跳ねる。

 パチャン! という音を皮切りに、互いに飛びかかろうとしたその時──。

「コラ! ヨーケスもアイドも何しよるん!? あかんよ!」

「「!?」」

 ユーナが厳しい表情をして、私とアイドを注意する。

「あんたら何考えとんの? こんな綺麗な場所で戦って魔法ぶっぱなしたり血を流したりするん? アホちゃう? 大自然を壊したり汚すよーなことするなら、ユーナは二人ともしょーちせんよ?」

「「ゴメンナサイ」」

 叱咤するユーナに私とアイドは小さく汗をかき、同時に身体を直角にして頭を下げていた。

 チラッとユーナの表情をうかがうと、眉を吊り上げていて両手を腰に当てている。

「あんな、ヨーケス、それからアイド」

「な、なんだいユーナ……」
「な、なんだよユーナさん……」

 頭を上げた私とアイドが同時に声を出す。すると、ユーナは私たちにこう言った。

「正々堂々の、自然を壊さん勝負ならユーナは何も言わんよ? せっかく泉も綺麗なんやし……たとえば水泳とか?」

 ……なるほど。

 大自然のことを考えたグッドなアイデアだ。

 さすが私のユーナ、君は天才だな。


 ☆★

 私はエツィーに、アイドへ人口呼吸をするように告げる。

「ま、魔王様……ほんとにワガハイが人口呼吸するゴリか……?」

「当たり前だ。お前、私の命令が聞けないのか? ぬっころすぞ」

「そ、そんなあ魔王様! せめてワガハイも最初は女性とキスをしたいゴリよ!」

「グズグズ吐かすな、お前は勇者パーティーではないのか!? いいから人命救助に貢献しろ!」

 横たわるアイドを前に、嫌々そうな表情で私に振り返るエツィー。

 仕方ないのだ、キノコもシャンプルもファーストキスを捧げる人は決まってるらしいし、私の唇もユーナのものだし。

 ……しかし、『いいよ、ユーナがやる!』と言った時にはほんとに青ざめたわ。

 ユーナのファーストキスをこんな男に差し出す必要などない。絶対にダメだ。
 ゆえに消去法からエツィーには生け贄になってもらうしかないのだ。

 と、なんやかんや理由をつけてユーナを説得し、エツィーがアイドを助けることになった。

 それにしてもまったく、このアイドという男は口ほどにもない。

 口から水を吹き出し、ドザエモンになったアイドを見下ろす私は、数十分前のことを思い出していた。


 …………時は少しだけ遡り──

 気がつくとパンツいっちょの変態アイドが私に指を指して言う。

 もちろん私は一枚も服を脱いではいない。

「いいか魔王、ユーナさんのよーいドン! でスタートだ。で、オレたちがいる場所から向こうの対岸に早く着いた方が勝ち! 異論はないな?」

「異論はないが、方法は自由なのか?」

「もちろん構わないさ、好きにすりゃいい……って、瞬間移動とか、魔法を使うのはなしだ! 男なら身体一つで戦えよ!」

「そうか、魔法はダメか。ふむ、身体一つね……わかった、まぁいいだろう」

 そんなこんなで、ユーナの『よーいドン!』のかけ声で勝負は開始される。

 アイドは泉に勢いよく飛び込み、バッシャバッシャと泳ぎ始めた。

 私は思った。お前それでは私に敗北するがいいのか? と。

 そう、ユーナはさっき『たとえば水泳?』と言ったのであって、私は水泳で勝負するとは一言も言ってないのだ。

 そこで私は、どうしたかというと──!

 トラッフグの泉を正面にして、右手で軽く正拳突きをする。

 すると、発生した衝撃波で瞬く間に真っ二つに割れるトラッフグの泉。
 かつて、ある聖人が海を割ったという奇跡の伝説と同じように、私は泉を割って道を作ったのだ。

 私はその道を悠々と歩いていき、ふと右上を見ると懸命に泳ぐアイドと目が合う。

 ギョッとしたアイドにニコ……ッ、と微笑んでから私は再び、対岸を目指して歩いていく。

 泳ぐより歩いた方が、間違いなく対岸へ早く到達できるというのは賢い者ならばすぐ理解できるというのに。

 もしアイドがその発想に至ったならば、もしかしたら私といい勝負をしたかもしれないのだが──ヤツはそれができなかったのだ。

 ヤツは判断を見誤り、敗北するのは当たり前。

 そして結果的に私が勝利したのだが……ここで一つ、問題が起きてしまう。

 なんと、アイドは私と目が合った後すぐに、『ゴボ!? ゴボブバババ!』と言って溺れてしまったのだ。

 まったく、トラッフグの泉の猛毒は消え、回復の泉に生まれ変わったというのに……回復の泉で溺れてしまうとはこの男、残念でならない。

 これには私も、やれやれと肩を落とす。

 なんで勝負だというのに、私がこのアホを助けてやらねばならないのか。

 とはいえ、ユーナの手前、放っておくわけにもいくまい。

 私は浮遊魔法をアイドに向けて放ち、対岸へと運ぶのだった──。

 ────……時を戻して。

 そんな経緯から、人口呼吸をせざるを得ないという、現在の状況になってしまったのだ。

 ……いやぁ、アイドが絶命したところに蘇生魔法をかけるという手もあるのだが、ヤツはまだ生きていたのだ。
 私は生きてる者がただ死ぬのを待つほど、無慈悲ではない。

 アイドにしても、回復の泉で命を落としたという黒歴史など望まないだろうしな。

 しかし、ほんとマヌケなヤツだ。

 そんなことを考えていると、エツィーの献身的な人命救助の末にアイドは目を覚ます。

「ひ、卑怯者、卑怯者ぉ! おえぇえええええ!」

 叫びながら嗚咽とともに嘔吐するアイド。

 仕方ないだろう、こいつは屈強なゴリラの濃厚な人口呼吸で目を覚ましたのだからな。

 私だってきっと吐くだろう……いや、吐くどころか死ぬ。つーか死ぬ。

 しかし、アイドめ。

 お前は何を言ってるんだ? 卑怯もクソもない、私は正々堂々と戦ったのだ。

 私は『先に対岸に着いたら勝ち』『魔法は使わない』『身体一つで』というルールを守ったのだが?

 それに、助けてもらったらまずは『ありがとう』だろ。

 アイドは貴族の息子ということだが、実に礼儀の知らん男だと、私は改めて思うのだった。
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