66 / 89
66話 アイドにユーナを持ち上げさせる
しおりを挟む「潔ぎよく負けを認めたらいかがかしら? アイドさん、あなたはダールンに負けたの、負けたのですよっ?」
「そうだよ! というか、キミが持ちかけたルールでヨーケスおにいさんは正々堂々と勝負したんだよ!? それを卑怯者呼ばわりするなんて……キミの方が卑怯者だ!」
キノコとシャンプルがアイドへ刺し貫くようなキツい視線を送り、罵倒する。
それをアイドはうぬぬぬ、口を噛みながら堪えて聞いていた。
「き、君らはなんで魔王の肩を持つんだ!? オレたちは同じ人間の仲間じゃないのか……っ!?」
アイドは不満げな声を出し、キノコとシャンプルを見上げる。醜態というか、見るに耐えないビショ濡れのパンツを晒しながら。
たしかにキノコもシャンプルも私たち魔族の敵対する種族、人間だ。
しかし、大魔法使いと大聖女ともなると、種族の違い関係なく物事の分別がつくのだろう。実にフェアなジャッジと言える。
ありがとうキノコ、シャンプル。
私はうんうん、とうなずいて心の中で感謝の声を出していた。
さて、そんなアイドはまだ納得いかない顔をしている様だった。まだ自分の判断が甘かったというのを認めてないのだろう。
だが私はアイドに厳しい現実を突きつける。勝負は勝負、約束は守ってもらおう。男に二言はないのだから。
「そういうことだ。アイド、どうしたって私の勝利は覆らない。さて、約束だ、お前は何でも一つ言うことを聞くと言っていたな? では……」
「では……!? な、なんだよ!?」
「そうだな、『猛毒の泉トラッフグはユーナの聖なる力によって浄化され、モンスターもそのおかげで姿を消した。付近の盗賊も既にいないから安心してくれ』と街の者に伝えろ」
仮にもこいつは人間たちの中では有名人らしいし、何よりS級冒険者だ。街の者たちも耳を傾けるだろう。
そんな私の一言に、アイドは目をまるくした。
「なっ!? ……そ、そんなことでいいのか? オレはてっきり、『お前の命をもらう、今後ユーナの前に二度と現れないようにな!』と言われるものかとばかり……!」
予想の斜め上の言葉だったのか、アイドは驚愕の表情で私に言う。
まぁアイドの思ったことは当然、私も少しは考えた。
しかし、私は快楽殺人鬼ではない。まったく、私を今までの魔王と一緒にされては困る。
それにさっきユーナから『血を流して自然を汚すな』と言われたばかりではないか。話を聞いてなかったのかこいつ。
そして、私はユーナの方を振り向いた。
「……ユーナ、君はどう思う? 私が勝ったということでいいだろうか? それからアイドへ告げた内容はどうだい?」
「うん、ユーナは二人に勝負の仕方の提案をしただけやし、いいと思うよ? アイドも先に対岸まで着いた方が勝ちって言いよったし。でもユーナ、泉を浄化したりモンスターを倒したりもせんかったよ? ユーナ、ウソはキライなん」
知っている。君がウソを嫌いなことは……私がいちばん良く知ってるんだ。
しかし、これは真実なのだ。
なぜなら私は、ユーナの聖なる〝愛の〟力によって魔王軍を突き動かしたのだから。その結果として、トラッフグの泉は回復の泉へと生まれ変わり、モンスターもいなくなったのだ。
つまり、これはユーナの功績と言っても過言ではない。
私はユーナへ穏やかに語りかける。
「ユーナ、君の聖なる力があったから泉は浄化されたのは間違いない。それと、モンスターはおそらく君の〝伝説の剣・エクスカリバー〟に恐れをなしてどこかへ逃げたんだろう」
「えぇー? そんなことあるかなぁ? ていうか、ヨーケスはさっき、ザッコス盗賊団が流したデマにみんな騙されよったんちゃう? て言いよったよ?」
きょとんとするユーナに、しかし私は平然と話し続ける。
「さっきはそう言った。しかし、私は思い出したんだ。この泉は初代魔王によって毒化した恐怖の場所で、魔物の巣窟だったことを」
「うん、ユーナもそう聞いとるよ?」
「だろう? じゃなきゃユーナにモンスター討伐の依頼がくるものか。それが一瞬にして美しい場所へと生まれ変わってしまうなんて……ユーナの存在が引き起こした、聖なる奇跡によるものと言わざるをえない」
「えぇー? うーん……そうなんかなぁ」
釈然としないユーナは腕を組み、首を傾げる。
するとユーナはしばらく考えてから言った。
「でもモンスターがいないのは事実やし、トラッフグの泉もめちゃキレイやし、街のみんなは喜んでくれよると思う。どのみちギルドには報告せんといけんしね!」
「そうですわ! 勇者様、前向きに考えましょう? 勇者様の奇跡の力が、平和をもたらしたのだと!」
「ねぇユーナちゃん、早速ギルドに報告に行こうよ! 盗賊団の件はヨーケスおにいさんの手柄だけどね、あはは」
キノコがそう言うと、「そうだね!」とユーナはシャンプルと一緒にケラケラと笑う。
そして、三人を微笑ましく見つめる私のすぐそばで、バカゴリラが「あ、たぶんそれ魔王軍の……」とユーナに言いかけたが、私が睨みつけるとエツィーは押し黙り、口を結ぶ。
すると、そんなユーナたちのやりとりを無言でじっと見ていたアイドが「よっこらせ」と立ち上がり、私に話しかけた。
「ふん……! おい、魔王。今回はオレの負けってことにしとくぜ……! だがな、あんたは魔王で、オレたちの敵ってことに変わりはないんだ! 次は負けないから覚えておけよ!」
アイドの真剣な眼差しとその言葉は、私との約束を守ろうという意志を告げていた。
だけど……パンツいっちょで言われてもなぁ。しかも後ろが破れて尻丸出しじゃないか。
股間隠して尻隠さずとはまさにこのことだ。ほんと、この男は最後までカッコのつかんヤツだ。
捨て台詞はいいから早く服を着ろよ、このS級変態冒険者め。
0
あなたにおすすめの小説
冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎
王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。
……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。
追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。
無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」
騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
モブ転生とはこんなもの
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。
乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。
今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。
いったいどうしたらいいのかしら……。
現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。
どうぞよろしくお願いいたします。
他サイトでも公開しています。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない
ラム猫
恋愛
幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。
その後、十年以上彼と再会することはなかった。
三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。
しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。
それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。
「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」
「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」
※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる