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70話 魔王軍幹部会議 ②
しおりを挟む「そこでだ。私のユーナが凶悪なドラゴンと、血も涙もない悪徳領主の成敗に向かおうとしている。このままでは私のユーナが領主に会う前にドラゴンの胃袋の中だ。全力でこれを阻止する」
まだまだ続いている魔王軍幹部会議。
そんなことを話す最中だ。ふと私が三人に視線をやると、ノゾッキーもビエルもロリエラも、頷きながら珍しく真剣な表情で聞き入っていた。
私はさらに続けて言う。
「まず第一に、私は弱きを打ち据える者や女、子どもに手を出すバカが反吐が出るほど大嫌いだ。それが民を守る頂点ならばなおさらだ」
四天王たちから向けられる視線のなかで私はそう言うと、幼き日々のことを思い出していた。
……──忘れもしない10年前──
私とユーナはかつて、魔族と人族の戦いのせいで……家族を失った。
焼け野原になった街。魔族も人族も相討ちになって、生き残ってたのは私とユーナだけだった。
耐え難い悲しみの中で、子どもだった私たちには生きていくには過酷な時代だった。
当時は一日一日をなんとか生きるのが精一杯で、私たちはモンスターだって食べたくらいだ。
よく私たちが食べたのはミノタウロスの肉。
きちんと味付けと調理をしなければ、とてもじゃないが美味しくないし、食えたものじゃなかった。
私たちは……生きるのに必死だったんだ。生きるために、食べられるものならなんでも食べた。
そのおかげでユーナは体調を崩し、私が回復魔法で彼女を癒すこともしばしばあった。
そんなある日の夜……二人で好きな食事はなんだったか語り合う。奇遇なことに、私とユーナの大好物の料理は同じで、『お母さんのカレーライス』だった。
私はそんな彼女にどうにかしてカレーライスを食べさせてやりたくて……焼け野原になった街から何か使えるものはないかと、瓦礫の中から鍋や包丁なんかの調理道具を探し出す。
生まれて初めて包丁を握る。
当然、使い方なんてなっちゃいない。ドがつくほどヘタクソだった。
手のひらをぼろぼろの傷だらけにして、ようやく完成したのは、カレーみたいなモノ。
どうしてそんなことをしたのかって? そんなの決まっている。
私は男だから泣きたい気持ちを我慢することができたが、ユーナは女の子だぞ?
大好きな父も母も失って、どうして笑顔になれるってんだ。彼女の深い悲しみを計り知ることなんてできない。
毎晩シクシクと泣きながら眠りにつくユーナを見て私は……少しでも笑顔になってほしいと思ったんだ……!
もちろん、最初の頃は料理なんて上手くできるわけなんてない。
クッソ不味く仕上がったモンスターカレーを泣きながら、二人で食べたのを記憶している。
そんな私たちに少しずつ笑顔が生まれたのは、ユーナが私のカレーを「おいしいね!」と言ってくれるようになってからだ。
少し時間はかかったが、徐々に私の料理のレベルも上がっていく。
それに付随してユーナから、
「ヨーケスのカレー、お母さんのと同じくらい好き」
「元気がでよる」
「もっと食べたい」
そんなふうに言われることが増えた。
その言葉は私にとって、これ以上のない喜びを感じさせてくれるものだった。
ユーナの笑顔って、とってもかわいいんだな。そう思った瞬間だった。
────……
そんなことを思い出したのは、今日トゥースの街の冒険者ギルドで【サンドリッチの街】の現状を聞いたからだ。
悲しいことに、そこに住む者たちの多くは暗い未来しかない。子どもたちも腹を減らしているという。
彼らは食べるものもなく、逃げることもできず、ただひたすらに領主の労働力として生きて、悲しみのうちに死んでいくのだ。
……私は、魔族だろうが人間たちだろうが、私やユーナの過去の辛さを子どもたちに味わってほしくない。そう思っている……!
と、私は三人に告げる。
すると、目頭が熱くなったのか三人とも涙を堪えてるようだった。
ロリエラはクシャクシャになった顔で、ティッシュで思い切り鼻をチーン! とかんでいて、ビエルは人差し指で涙を拭う。
ノゾッキーは……ポケットチーフと取り出し、サングラスをクイっと上げて涙を押さえていた。
「……と、いうわけだ。ドラゴン討伐は大元の『ユーナのレベルを上げさせない作戦』でもある。それにだ、そんな悲しい街の現状をユーナが見たらどう思う? きっと胸を痛めて悲しむだろう。ならば私が取る行動はひとつだ」
「うんうん。まおーちゃまやさしいでちね! あたちはさんせーでち!」
「もちろん俺も賛成だ。魔王様のためにひと肌もふた肌も脱ごう、なんなら全裸にもなるさ」
「うむ、ロリエラよありがとう。そしてビエル、全裸はいらないが協力頼むぞ? でだ、ノゾッキー。私の言いたいことは理解しているな?」
「もちろんオーケーです魔王様。さっそく呼び出しましょう……セッシャの配下たちを!」
ノゾッキーはそう言うと、スーツのポケットから魔導水晶板を取り出して、すぐさま耳に当てる。
「あー、もしもし? 【魔王軍爆走愚連隊】特効隊長の四天王ノゾッキーだ! 全員会議室へダッシュで集合、魔王総長がお呼びだ! 気合い入れて来いッ」
ノゾッキーの豪快に張り上げた声が再び、会議室に響くのだった。
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