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1章
【第17話】恐怖の行進と、ただ一人の恍惚
巨大な白銀の獣――フェンリルの出現により、城壁都市バルドは完全な混乱状態に陥っていた。
城門は慌ただしく開かれ、兵士たちが叫び声を上げながら人々を下がらせている。
「み、道を空けろ! 刺激するな!」
「目を合わせるな! 頭を下げるんだ!」
恐怖に染まった声が飛び交い、人々は次々と地面に額を擦り付ける。
その光景を前に、フェンリルは感心していた。
(おお……すごい統率力だな。先導してる人、たぶん偉いんだろうな)
(お祭りの練習、しっかりしてるんだぁ)
みんなの動きがぴたりと揃っていて、思わず感心した。
どうやら、この街では来客のとき、こうして道を開ける文化らしい。
そんな中、一人だけ異様なほどテンションが高い存在がいた。
「さあ、始めましょう! 神獣様への歓迎パレードですわ!!」
恍惚とした表情で両腕を広げるエルフの女性、セレン。
彼女の声だけが、恐怖に沈んだ空気を切り裂くように響いていた。
――この恐怖の有り様を「歓迎」と称しているのは、この場でただ一人、恍惚とした表情を浮かべるセレンだけだった。
周囲の人間たちは、誰一人として「歓迎」などという感情はない。
兵士も市民も、己が「生き延びるため」に命じられるまま動いているだけだ。
ここにいる全員がそんな決死の思いでいることに、フェンリルはまったく気づいていなかった。
(おお、このエルフが先導してくれるんだな)
セレンが前に立ち、腕で進行方向を指し示す。
フェンリルはそれを「どうぞこちらへ」という意味だと解釈し、大人しく後について歩いていった。
――まだこの人たちの言葉は分からない。
この世界の言語は、音としては認識できるのだが、理解ができない。
だが、表情や身振り、空気感だけは、なんとなく理解できる。
……この勘違いが、この騒ぎの元凶なのだ……。
「ヒィ……」
「こっちに来る……!」
沿道の人々が、恐怖に顔を歪める。
フェンリルが一歩進むたびに、皆が後退していく。
(うんうん、ちゃんと道を空けてくれてる。礼儀正しい街だなぁ)
前足を上げて軽く挨拶すると、悲鳴が上がった。
「おいっ、こっちに向かって構えはじめたぞっ!」
「み、見ろ、あの爪っ!?」
「あの爪でいつでも八つ裂きにできるってことか!?」
挨拶をされた人々は、威嚇をされたのだと思い、恐怖で震え上がった。
(……? あれ? 挨拶、違ったかな?)
一瞬だけ周囲の反応に戸惑ったが、文化の違いだと思って受け流した。
(よし、失礼のないように堂々としないと)
モフモフの自慢の胸を張り、堂々と道を歩く。
その堂々とした姿に、人々はひたすら恐怖を感じ、平伏していた。
やがて、街の中央へと続く大通りに入る。
(すごいな……夜なのにこんなに明るい。お祭りって感じだ)
森では決して味わえなかった光景。
初めての街で、人の営みの中心を歩いているという感覚にワクワクした。
その背後で、アルヴィンたち冒険者は真っ青な顔をして付いて歩いている。
「……なあ、これ、本当に道案内してるってことで合ってるよな?」
「知らん……俺はもう遺書を書きたい……」
アルヴィンたちがぶつぶつボヤいている中、セレンだけが幸福そうに微笑んでいた。
「素晴らしいですわ……! 皆が神獣様の神々しさと優雅さにひれ伏し、道を切り開いている。
これこそ、神獣様を迎えるに相応しい!」
彼女のそんな歓喜は誰にも理解されず、誰にも止めることはできない。
こうして――
一匹は「お祭りに参加しているつもり」で、
一人は「神獣の威光に酔いしれ」、
街全体は「ただ必死に殺されまいと」、
恐怖の行進は、何一つ噛み合うことなく中央広場へと進んでいくのだった。
城門は慌ただしく開かれ、兵士たちが叫び声を上げながら人々を下がらせている。
「み、道を空けろ! 刺激するな!」
「目を合わせるな! 頭を下げるんだ!」
恐怖に染まった声が飛び交い、人々は次々と地面に額を擦り付ける。
その光景を前に、フェンリルは感心していた。
(おお……すごい統率力だな。先導してる人、たぶん偉いんだろうな)
(お祭りの練習、しっかりしてるんだぁ)
みんなの動きがぴたりと揃っていて、思わず感心した。
どうやら、この街では来客のとき、こうして道を開ける文化らしい。
そんな中、一人だけ異様なほどテンションが高い存在がいた。
「さあ、始めましょう! 神獣様への歓迎パレードですわ!!」
恍惚とした表情で両腕を広げるエルフの女性、セレン。
彼女の声だけが、恐怖に沈んだ空気を切り裂くように響いていた。
――この恐怖の有り様を「歓迎」と称しているのは、この場でただ一人、恍惚とした表情を浮かべるセレンだけだった。
周囲の人間たちは、誰一人として「歓迎」などという感情はない。
兵士も市民も、己が「生き延びるため」に命じられるまま動いているだけだ。
ここにいる全員がそんな決死の思いでいることに、フェンリルはまったく気づいていなかった。
(おお、このエルフが先導してくれるんだな)
セレンが前に立ち、腕で進行方向を指し示す。
フェンリルはそれを「どうぞこちらへ」という意味だと解釈し、大人しく後について歩いていった。
――まだこの人たちの言葉は分からない。
この世界の言語は、音としては認識できるのだが、理解ができない。
だが、表情や身振り、空気感だけは、なんとなく理解できる。
……この勘違いが、この騒ぎの元凶なのだ……。
「ヒィ……」
「こっちに来る……!」
沿道の人々が、恐怖に顔を歪める。
フェンリルが一歩進むたびに、皆が後退していく。
(うんうん、ちゃんと道を空けてくれてる。礼儀正しい街だなぁ)
前足を上げて軽く挨拶すると、悲鳴が上がった。
「おいっ、こっちに向かって構えはじめたぞっ!」
「み、見ろ、あの爪っ!?」
「あの爪でいつでも八つ裂きにできるってことか!?」
挨拶をされた人々は、威嚇をされたのだと思い、恐怖で震え上がった。
(……? あれ? 挨拶、違ったかな?)
一瞬だけ周囲の反応に戸惑ったが、文化の違いだと思って受け流した。
(よし、失礼のないように堂々としないと)
モフモフの自慢の胸を張り、堂々と道を歩く。
その堂々とした姿に、人々はひたすら恐怖を感じ、平伏していた。
やがて、街の中央へと続く大通りに入る。
(すごいな……夜なのにこんなに明るい。お祭りって感じだ)
森では決して味わえなかった光景。
初めての街で、人の営みの中心を歩いているという感覚にワクワクした。
その背後で、アルヴィンたち冒険者は真っ青な顔をして付いて歩いている。
「……なあ、これ、本当に道案内してるってことで合ってるよな?」
「知らん……俺はもう遺書を書きたい……」
アルヴィンたちがぶつぶつボヤいている中、セレンだけが幸福そうに微笑んでいた。
「素晴らしいですわ……! 皆が神獣様の神々しさと優雅さにひれ伏し、道を切り開いている。
これこそ、神獣様を迎えるに相応しい!」
彼女のそんな歓喜は誰にも理解されず、誰にも止めることはできない。
こうして――
一匹は「お祭りに参加しているつもり」で、
一人は「神獣の威光に酔いしれ」、
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