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Side-A 消失少女と喪失少年
まぎれもなく、サキだった
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美波と別れて、急いで家に帰った。玄関にサーフボードとスポーツバッグをぞんざいに投げ、サンダルを脱ぎ捨てた。
自室のドアを乱暴に開け、押入れの扉を開け放つ。
押入れの物色しながら、必死に記憶をたどる。
俺はあの砂浜でサキに姉ちゃんの話をした。サキはとても楽しそうに聞いていた。
口を開けば、思い出は簡単に溢れてくるのに。
何故だろう。
姉ちゃんの顔が、まったく思い出せないんだ。
「――あった!」
探し物は簡単に見つかった。思い出の詰まった、真っ赤なアルバム。冬服が入っている衣装ケースの隣にぽつんと置かれている。
アルバムを手に取り、机の上に広げた。
震える指でアルバムをめくる。
俺たち家族の思い出がフラッシュバックする。
ページをめくれば、季節も巡る。時が経ち、俺たち姉弟は成長していた。俺はといえば、姉ちゃんの背を追い越してしまったし、男らしく肩幅も出ていた。
閉ざされた思い出に挟まれた無数の栞を、一つ一つ丁寧に取り除いていく。
「あぁ……あぁぁ……!」
アルバムはあるページで止まった。
左側のページに収められた写真は、姉ちゃんの高校の入学式だ。桜舞い散る校門の前で、はにかんでいる姉ちゃんが写っている。
右側の写真は……高校生になったばかりの姉ちゃんと俺のツーショット。肩を寄せ合い、歯を見せて笑っている。
「ねえ、ちゃん……?」
間違いない。
俺の隣で笑うのは姉ちゃんであり――まぎれもなくサキだった。
アルバムを確認した俺は、急いで戸田家にやってきた。
美波と別れてから時間は経っている。美波があのまま直帰したのなら、もう自宅に着いているだろう。
入り口のわきにあるインターホンを押す。間延びした無機質な機械音は少しくぐもっていた。
バタバタと廊下を走る音が聞こえる。
足音は段々と大きくなっていき、やがて止まった。
「はーい、お待たせしましました……って蓮?」
玄関のドアを開けた美波は、俺を見て一驚する。
「……アルバム、見たの?」
「ああ。美波の言うとおり、サキは俺の姉ちゃんの名前だ。そして俺がサーフィンを教えているのは……おそらく、姉ちゃんの幻だろう」
サキの体が透けているのは消失病だからじゃない。幽霊のような存在だからだ。もしサキが普通の消失病患者なら、美波にも見えていないとおかしいからな。
「あのさ……いくつか疑問があるんだ」
「疑問?」
美波が不思議そうに首を傾げる。
「ああ。そのために美波の力を借りたいんだ。俺は今、美波しか頼れる人がいない。随分と時間がかかっちまたけど……お前を頼らせてくれ。俺の相談に乗ってくれるか?」
「蓮……いいわよ。私に任せて」
美波は満面の笑みで快諾してくれた。
幼なじみの優しさに、どれだけ救われたのだろう。
事故の日、ふと姉ちゃんが残した言葉を思い出す。
まさしくその通りだ。
人は一人では生きていけないのだなと、身をもって知った。
「それで、私は何をすればいいの?」
「その前に一つ聞きたいんだが……今、家に誰かいるのか?」
「誰もいないわよ。うちの両親、共働きじゃない。知ってるでしょ?」
「そうだったっけ?」
「そうよ。というか、どうしてそんなこと聞くのよ?」
「いや、ちょっとお前の家に上がりたくてさ」
「え……ええっ!?」
顔を真っ赤にした美波は玄関のドアを慌てて閉めた。いや、手伝ってくれるんじゃないのかよ。
「ちょ、なんで閉めるんだよ!」
ドアノブに手をかける。全然回らない。なんて馬鹿力だ。
「だだだだだって! 男の子が家に誰かいるか尋ねた後に上がるとか言われたら、普通の女の子はビビるわよ! この変態っ!」
「はぁ? なんだよ変態って――ああっ!?」
どうして美波が顔を赤くした挙句、玄関のドアを閉めたのか理解した。俺も恥ずかしさのせいか耳が熱くなる。
「ち、違う! ちょっと調べ物がしたいだけで、他意はない! 本当だ!」
……サキの裸を見たときも似たようなリアクションだったような気がする。「痴漢」と呼ばれたトラウマが蘇り、なんだか死にたい気分になった。
「し、調べ物?」
「ああ、そうだ! 俺が美波のことを襲うわけないだろ!」
「それはそれで、女としてムカつくわ!」
叫び声とともに、ドアが開け放たれた。
「うごっ!」
急にドアが開いたせいで、おでこにドアがクリーンヒットした。地味に痛い。
「れ、蓮が悪いんだからね! 私、謝らないわよ」
「お、おう。すまん」
「はぁ……まぁいいわ。で、調べ物って何よ?」
少し不機嫌な顔で尋ねる美波。そんなに怒らなくたっていいじゃないかよ。
「その、調べ物なんだけどさ……」
俺が両親の不在を聞いた理由。
それは――。
「お前の親父の部屋、入ってもいいか?」
美波の親父の書斎に用があったからだ。
自室のドアを乱暴に開け、押入れの扉を開け放つ。
押入れの物色しながら、必死に記憶をたどる。
俺はあの砂浜でサキに姉ちゃんの話をした。サキはとても楽しそうに聞いていた。
口を開けば、思い出は簡単に溢れてくるのに。
何故だろう。
姉ちゃんの顔が、まったく思い出せないんだ。
「――あった!」
探し物は簡単に見つかった。思い出の詰まった、真っ赤なアルバム。冬服が入っている衣装ケースの隣にぽつんと置かれている。
アルバムを手に取り、机の上に広げた。
震える指でアルバムをめくる。
俺たち家族の思い出がフラッシュバックする。
ページをめくれば、季節も巡る。時が経ち、俺たち姉弟は成長していた。俺はといえば、姉ちゃんの背を追い越してしまったし、男らしく肩幅も出ていた。
閉ざされた思い出に挟まれた無数の栞を、一つ一つ丁寧に取り除いていく。
「あぁ……あぁぁ……!」
アルバムはあるページで止まった。
左側のページに収められた写真は、姉ちゃんの高校の入学式だ。桜舞い散る校門の前で、はにかんでいる姉ちゃんが写っている。
右側の写真は……高校生になったばかりの姉ちゃんと俺のツーショット。肩を寄せ合い、歯を見せて笑っている。
「ねえ、ちゃん……?」
間違いない。
俺の隣で笑うのは姉ちゃんであり――まぎれもなくサキだった。
アルバムを確認した俺は、急いで戸田家にやってきた。
美波と別れてから時間は経っている。美波があのまま直帰したのなら、もう自宅に着いているだろう。
入り口のわきにあるインターホンを押す。間延びした無機質な機械音は少しくぐもっていた。
バタバタと廊下を走る音が聞こえる。
足音は段々と大きくなっていき、やがて止まった。
「はーい、お待たせしましました……って蓮?」
玄関のドアを開けた美波は、俺を見て一驚する。
「……アルバム、見たの?」
「ああ。美波の言うとおり、サキは俺の姉ちゃんの名前だ。そして俺がサーフィンを教えているのは……おそらく、姉ちゃんの幻だろう」
サキの体が透けているのは消失病だからじゃない。幽霊のような存在だからだ。もしサキが普通の消失病患者なら、美波にも見えていないとおかしいからな。
「あのさ……いくつか疑問があるんだ」
「疑問?」
美波が不思議そうに首を傾げる。
「ああ。そのために美波の力を借りたいんだ。俺は今、美波しか頼れる人がいない。随分と時間がかかっちまたけど……お前を頼らせてくれ。俺の相談に乗ってくれるか?」
「蓮……いいわよ。私に任せて」
美波は満面の笑みで快諾してくれた。
幼なじみの優しさに、どれだけ救われたのだろう。
事故の日、ふと姉ちゃんが残した言葉を思い出す。
まさしくその通りだ。
人は一人では生きていけないのだなと、身をもって知った。
「それで、私は何をすればいいの?」
「その前に一つ聞きたいんだが……今、家に誰かいるのか?」
「誰もいないわよ。うちの両親、共働きじゃない。知ってるでしょ?」
「そうだったっけ?」
「そうよ。というか、どうしてそんなこと聞くのよ?」
「いや、ちょっとお前の家に上がりたくてさ」
「え……ええっ!?」
顔を真っ赤にした美波は玄関のドアを慌てて閉めた。いや、手伝ってくれるんじゃないのかよ。
「ちょ、なんで閉めるんだよ!」
ドアノブに手をかける。全然回らない。なんて馬鹿力だ。
「だだだだだって! 男の子が家に誰かいるか尋ねた後に上がるとか言われたら、普通の女の子はビビるわよ! この変態っ!」
「はぁ? なんだよ変態って――ああっ!?」
どうして美波が顔を赤くした挙句、玄関のドアを閉めたのか理解した。俺も恥ずかしさのせいか耳が熱くなる。
「ち、違う! ちょっと調べ物がしたいだけで、他意はない! 本当だ!」
……サキの裸を見たときも似たようなリアクションだったような気がする。「痴漢」と呼ばれたトラウマが蘇り、なんだか死にたい気分になった。
「し、調べ物?」
「ああ、そうだ! 俺が美波のことを襲うわけないだろ!」
「それはそれで、女としてムカつくわ!」
叫び声とともに、ドアが開け放たれた。
「うごっ!」
急にドアが開いたせいで、おでこにドアがクリーンヒットした。地味に痛い。
「れ、蓮が悪いんだからね! 私、謝らないわよ」
「お、おう。すまん」
「はぁ……まぁいいわ。で、調べ物って何よ?」
少し不機嫌な顔で尋ねる美波。そんなに怒らなくたっていいじゃないかよ。
「その、調べ物なんだけどさ……」
俺が両親の不在を聞いた理由。
それは――。
「お前の親父の部屋、入ってもいいか?」
美波の親父の書斎に用があったからだ。
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