28 / 30
熱
しおりを挟む
蕩けている。心も、それに躰も。
全身の神経という神経、細胞という細胞が甘い歓喜にうちふるえ、躰を、その奥から烈しく燃え上がらせているのだ。
ああそうか。
これが、生きているということか。
「ん……ふっ、」
唇に吸い付かれ、貪欲な舌先に口中を貪られる。もう何度となく経験した田沢の口づけは、しかし、今日に限ってはひどく新鮮な印象を敦に与えた。
激しくも哀しく、そして、優しい。
口づけはやがて顎へ、首筋へと下る。鎖骨の形を確かめるように辿りながら、少しずつ肩口へと移る唇の感触を敦は粛々と受け入れ、そして味わった。もっともそれは、以前のような諦めからくる無抵抗ではなく、敦自身がそれを望み、そして受け入れているものだ。
腕から袖を抜かれ、胸をはだけさせられる。ベッドに横たえられ、顕わになった白い胸板に、田沢の頭がおもむろに沈んだ。
その唇が、早くも膨らみかけた敦の蕾を口に含んで――
「あ、ぅんっ」
与えられた刺激の強さに、ぴくり背筋をのけぞらせる。全身に痺れにも似た感覚が走って、はしたなくも敦は淫らな声を漏らした。
「敏感だな、敦は」
言って、今度は前歯で軽く噛みつく。そうかと思えば舌先で宥めるように転がして、敦に息をつく暇さえ与えない。焙るような熱が体の芯で熾火のように燃え、たまらず腰を揺らめかせれば、見逃されるはずもなく裾を捲られ、宥めるように内股を撫でられる。
が、その手はいっこうに奥まで至らない。
「は、んんっ、う……」
焦らすような手つきに、覚えず責める眼差しで睨んでしまう。その視線が、偶然顔を上げた田沢のそれに捉えられ、慌てて顔を逸らしたがすでに後の祭りだった。
「やれやれ」
身体を起こしながら、田沢が呆れたように溜息を吐く。
「今夜は優しくしてやろうと思ったら、とんだ欲張り坊ちゃんときてやがる」
そして、そのまま大きく裾を捲り上げると、早くも芯を持ちはじめた敦のそこを、下着越しにそっと撫でた。
「っ、うん、っ」
鎮まるはずの熱は、しかし、田沢の指先が触れるたびに余計に燃え上がり、いよいよ敦にとって耐えがたいものとなる。満たされるようで満たされないじれったさに、今度は懇願する眼差しで田沢を見上げれば、意を得たというように田沢はにっと笑い、ついに下着の奥へと指を進めてきた。
田沢の長い指先が芯に絡み、ゆるやかに上下を始める。
ようやく欲するものを与えられた歓びに、敦はひときわ甲高い悲鳴を上げた。
「あ……ああぁ……!」
「……いやらしいな」
上擦った声で田沢が呟く。その間も彼の手は、なおも敦のそこを扱きつづける。時に強く握りつぶすように、時にやわやわと撫でるように――与えられたかと思えば止められる、その絶妙な緩急にいよいよ敦の理性は揺さぶられ、その均衡を失ってゆく。
「いいぜ。もっと……もっと乱れればいい」
「……あ……あぁ」
そのつもりだとも、と心中で敦は呟く。今日、この瞬間だけは、むしろ思いきり乱れてみたい。乱れて、弾けて――死ぬためではない、生きるために、新しい何かに成り変わってみたい。
「た……ざわ、さん。ぼくは……」
「その田沢さんっての、やめてくれねぇか?」
のしかかるように見下ろしながら、田沢が白い歯を覗かせる。
「健吾って呼べよ。じゃなきゃこっちも雰囲気出ねぇだろ?」
「あ……」
そうだった。これまで敦は、強いて彼を遠ざけるために敬称つきの名字で呼び続けていたのだ。必要以上に田沢が敦の中に入ってこないように――だが、今となってはその必要もない。もはや田沢は、敦の心の大切な一部と化しているのだから。
「健吾、さん」
「〝さん〟はいらねぇよ」
「……健吾」
返事の代わりのつもりだったのだろう。田沢の唇が降りてきて、敦のそれと重なり、覆う。その、燃えるような熱を深く求めながら、敦は心の中で何度も田沢の――健吾の名を呼び続けた。
全身の神経という神経、細胞という細胞が甘い歓喜にうちふるえ、躰を、その奥から烈しく燃え上がらせているのだ。
ああそうか。
これが、生きているということか。
「ん……ふっ、」
唇に吸い付かれ、貪欲な舌先に口中を貪られる。もう何度となく経験した田沢の口づけは、しかし、今日に限ってはひどく新鮮な印象を敦に与えた。
激しくも哀しく、そして、優しい。
口づけはやがて顎へ、首筋へと下る。鎖骨の形を確かめるように辿りながら、少しずつ肩口へと移る唇の感触を敦は粛々と受け入れ、そして味わった。もっともそれは、以前のような諦めからくる無抵抗ではなく、敦自身がそれを望み、そして受け入れているものだ。
腕から袖を抜かれ、胸をはだけさせられる。ベッドに横たえられ、顕わになった白い胸板に、田沢の頭がおもむろに沈んだ。
その唇が、早くも膨らみかけた敦の蕾を口に含んで――
「あ、ぅんっ」
与えられた刺激の強さに、ぴくり背筋をのけぞらせる。全身に痺れにも似た感覚が走って、はしたなくも敦は淫らな声を漏らした。
「敏感だな、敦は」
言って、今度は前歯で軽く噛みつく。そうかと思えば舌先で宥めるように転がして、敦に息をつく暇さえ与えない。焙るような熱が体の芯で熾火のように燃え、たまらず腰を揺らめかせれば、見逃されるはずもなく裾を捲られ、宥めるように内股を撫でられる。
が、その手はいっこうに奥まで至らない。
「は、んんっ、う……」
焦らすような手つきに、覚えず責める眼差しで睨んでしまう。その視線が、偶然顔を上げた田沢のそれに捉えられ、慌てて顔を逸らしたがすでに後の祭りだった。
「やれやれ」
身体を起こしながら、田沢が呆れたように溜息を吐く。
「今夜は優しくしてやろうと思ったら、とんだ欲張り坊ちゃんときてやがる」
そして、そのまま大きく裾を捲り上げると、早くも芯を持ちはじめた敦のそこを、下着越しにそっと撫でた。
「っ、うん、っ」
鎮まるはずの熱は、しかし、田沢の指先が触れるたびに余計に燃え上がり、いよいよ敦にとって耐えがたいものとなる。満たされるようで満たされないじれったさに、今度は懇願する眼差しで田沢を見上げれば、意を得たというように田沢はにっと笑い、ついに下着の奥へと指を進めてきた。
田沢の長い指先が芯に絡み、ゆるやかに上下を始める。
ようやく欲するものを与えられた歓びに、敦はひときわ甲高い悲鳴を上げた。
「あ……ああぁ……!」
「……いやらしいな」
上擦った声で田沢が呟く。その間も彼の手は、なおも敦のそこを扱きつづける。時に強く握りつぶすように、時にやわやわと撫でるように――与えられたかと思えば止められる、その絶妙な緩急にいよいよ敦の理性は揺さぶられ、その均衡を失ってゆく。
「いいぜ。もっと……もっと乱れればいい」
「……あ……あぁ」
そのつもりだとも、と心中で敦は呟く。今日、この瞬間だけは、むしろ思いきり乱れてみたい。乱れて、弾けて――死ぬためではない、生きるために、新しい何かに成り変わってみたい。
「た……ざわ、さん。ぼくは……」
「その田沢さんっての、やめてくれねぇか?」
のしかかるように見下ろしながら、田沢が白い歯を覗かせる。
「健吾って呼べよ。じゃなきゃこっちも雰囲気出ねぇだろ?」
「あ……」
そうだった。これまで敦は、強いて彼を遠ざけるために敬称つきの名字で呼び続けていたのだ。必要以上に田沢が敦の中に入ってこないように――だが、今となってはその必要もない。もはや田沢は、敦の心の大切な一部と化しているのだから。
「健吾、さん」
「〝さん〟はいらねぇよ」
「……健吾」
返事の代わりのつもりだったのだろう。田沢の唇が降りてきて、敦のそれと重なり、覆う。その、燃えるような熱を深く求めながら、敦は心の中で何度も田沢の――健吾の名を呼び続けた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
32
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる