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6.聞き飽きた
しおりを挟むくそ……!! 閉じ込められた!!
扉は、どれだけ開こうとしても開かない。鍵穴や鍵らしきものもない。鍵の魔法をかけて、扉が開かないようにしているんだ。
最悪だ……こんなところで待てって、あいつ、どうかしてるんじゃないのか?
もしかして、ここに監禁することで僕の気力を削ぐつもりなのか?
きっと、こんな不気味な部屋に僕を閉じ込めて、僕の気持ちがすっかり折れてしまったところで、僕を弄びながら尋問する気なんだ!
そうは行くか!!
僕は、扉に鍵の魔法を解除する魔法をかけ始めた。
扉さえ開けば、逃げられる。今日は魔物退治で結構魔力を使っちゃったけど、鍵の魔法を解くくらいならできるはず……
必死に魔法をかけるけど、扉はなかなか開かない。
複雑な魔法がかかっているな……そんなにまでして、僕を捕まえておきたいのか? ふざけやがって……
こんな扉、絶対に開いてやる!!
少しずつ魔力を扉に注いで、扉に縛るように絡みついたヴァトズフィウズ様の魔力を解いていく。
まだ時間がかかりそうだ……思っていたより魔力を使いそう。すぐに開くと思ったのに……どれだけ強固な魔法かけてるんだ……
魔力が尽きたら逃げられなくなる。この部屋から出ることができても、すぐに捕まったら意味がない。
自分の部屋に戻れば、魔力を回復する魔法の薬があるし、あそこは僕が何重にも鍵の魔法をかけているんだ。あそこまで逃げたら、なんとかなる!!
だけど、しばらく続けても扉は開かない。
くそっ……ヴァトズフィウズ様、噂どおりの魔法の使い手だ。
鍵の魔法を解こうとドアに張り付いていると、突然、それが開いた。
「わっ…………!」
驚いて飛び退く僕。
すると、ドアから入ってきたヴァトズフィウズ様まで驚いた。
「どうした? ドアに張り付いて。トイレか? 向こうにあるぞ」
そう言って、そいつは廊下の向こうを指す。
なんで僕が今そんなこと聞くと思うんだよ……鍵開けようとしてたに決まってるだろ!!
腹が立つけど、そんなこと馬鹿正直に言ったって、僕がひどい目に遭うだけだ。
僕は押し黙ってヴァトズフィウズ様から離れた。
変なことしてみろ……その腕を千切ってでも、逃げてやる!!
黙ってそいつを睨む僕だけど、ヴァトズフィウズ様は突然、両手を上げた。
攻撃の魔法が飛んでくるのかと思いきや、彼は信じられないことを言い出した。
「落ち着け……何もしない」
「………………」
え? 今、なんて?
何もしない? そんなこと、ありうるのか?
誰が信じるもんか。この部屋が、全てを物語っているじゃないか。
この男は僕を拘束して、拷問する気なんだ。フォルゲソスに手を上げた僕に、仕返しをする気なんだ。
「そんなこと…………信じません!! だったら僕をここから出してください!!」
怒鳴りつけると、そいつはあっさり答える。
「それはできない」
「で、できないって、なんでですか!?」
「聞きたいことがあると言っただろう? 話を聞かせてくれ」
「こ、ここでですか!?」
「ここでだ」
「…………」
さも当然のように言うなぁ……こんなところで話を聞くって、手荒なことをして聞くって意味じゃないのか!??
黙り込む僕の前で、そいつは持ってきた袋の中から、布のようなものを取り出す。拷問用の魔法の道具だな!?
僕は、即座に魔力で短剣を作り、自分の周りに結界を張ろうとした。だけど、短剣はなんとか作れたけど、結界はごく弱いものしか張れない。魔力が尽きそうなんだ。
くそ……さっき鍵の魔法を解こうとした時に、ほとんど魔力は使ってしまった。
まさか、このために鍵の魔法をかけたのか?
しまった……
ひどく悔しい思いをする僕の前で、ヴァトズフィウズ様はそばにあったテーブルを魔法できれいに洗うと、その上にさっきの布を丁寧にかけた。テーブルクロスじゃないか。
なんで…………こんなところにテーブルクロスなんか持ってきてるんだ……
ポカンとする僕の前で、ヴァトズフィウズ様はまた袋に手を突っ込む。取り出したのは丸いもので、鉄球か何かかと思いきや、今度はただの丸いパン。
なんなんだ……
落ち着け。こんな奴のペースに乗せられたら、また無駄に魔法を使ってしまう。魔力が尽きたら、僕は敵に勝つ手段を失う。
体も鍛えたけど、なかなか腕力はつかなかったし、そもそも武器を魔力で作らなくてはならない僕は、魔力を失ったら丸腰。それでこんなにでかい男に勝てるはずがない。
だから、常に冷静でいなきゃ。
ただのパンに見せかけて、毒が入っているのかも知れない。
フォルゲソスに手を上げましたって無理矢理言わせるために、食事をしている最中に傀儡の魔法をかける気かも知れない!
ヴァトズフィウズ様は、警戒して壁際から動かない僕に向かって、パンを突き出して呼び寄せるように振って言った。
「……何もしないからこっちに来い。食事にしよう」
「…………」
なんなんだこいつ。
ひどく腹が立つ。馬鹿にしてるんだ!! 誰が食べるか!!
「い、いりませんっ……!! 近づかないでください!!」
「腹が減ってるんじゃないのか?」
「減ってます。でも、他人から差し出されたものは食べません! どうせ毒が入ってるんですよね!?」
「入ってないぞ」
そう言って、そいつは目の前でパンを咥えてしまう。
「ほら、入ってないだろう?」
「…………食べてる途中で魔法にかける気ですね? そんな手に僕が引っかかると思ってるんですか!?? 食事で気をひいて油断させて、傀儡の魔法にかけようなんて、侯爵家は汚い手を思いつくんですね」
「全くそんなつもりはない」
「嘘だっ……じゃあなんで、食事なんか持ってきたんですか!!!!」
「しばらく何も食べてないんじゃないか?」
「…………っっ!!」
なんで……そんなことを知っているんだ?
ヴァトズフィウズ様は、今日帰ってきたばかりのはずなのに。誰かに聞いたのか? いや……ここにいる奴らは、体裁の悪いことは話さないはず。
混乱する僕に、その男は、まるで知られたくないことを全て見透かすかのような目をして言った。
「見たところ、十分な食事はしていないようだ。体もだいぶ弱っている。魔力も回復できていないだろう?」
「…………」
なんで、そんな事まで分かるんだ……?
もしかして、さっきからジロジロ見てたのって、そのためか!?? 僕のことを観察していたんだ。
なんで……そんなことするんだ?
僕がどうなろうが、この人には関係ないはずだ。
聞きたいこととやらを聞くまでは、死なれたら困るってことか?
だったらすぐに僕を痛めつければいいのに……なんでこんなことするんだよ。僕をからかって楽しんでいるのか?
「パンは嫌いか? 別のものももらってきた。どれでも食べることができそうなものを言ってくれ」
「…………いりません……」
小さな声で、答えた。
騙されるもんか。
今まで、散々騙されて、その度に酷い目に遭ってきた。食事に毒だって盛られたし、動けなくなったところで、魔法の的にされたこともある。
今さら、そんな言葉になんか、騙されない。
「し、食事なんかいりません!! お腹もすいてないし、回復くらい、すぐにできます!!」
「だが……」
「どうせお前だってっ……僕の言うことなんか、信じないくせにっ……!! 僕が何言ったって、聞く気なんかないくせに!! 僕がっ……何言ったって、無駄なんだっ…………拷問したいなら、すればいいじゃないですか!」
「……そんなつもりはない」
「じゃあなんでこんなところ連れてきたんですか!!」
「ここの鍵が、どこより強固だからだ」
言って彼は、扉の方に振り向いた。
「ここの扉は、どこより強力な鍵の魔法がかかっている。扉自体も、鍵の魔法を強化するものだ」
「だ、だからっ……僕を閉じ込めたかったんじゃっ……」
「フォルゲソスに立ち入られたくなかっただけだ」
「…………え…………?」
「あいつの話は聞き飽きた。何を聞いても、あいつが言うのは、リュイウェリレクは俺に手を上げた極悪人だ、だ。邪魔な奴が入ってこないところに行きたかったんだ」
「じ、じゃあ…………な、なんで拷問器具なんて……」
恐る恐る聞くと、ヴァトズフィウズ様は、それらに振り向いて、一言。
「気になるか?」
なるよ。
なるに決まってるだろ。
だけど、僕が黙ると、ヴァトズフィウズ様は、魔法で拷問器具を消してくれた。
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