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8.なんだか笑顔、怖くないか?
しおりを挟むヴァトズフィウズ様は、テーブルに勝手に魔法で皿を出して、そこにパンを並べている。
「食べないか?」
「…………」
もうお手上げだ。それに、僕だって腹が減った。
僕にこんなことをしたら責められるのはこの人……もらっちゃダメなのに……
そっと、パンに手を伸ばした。
けれどその時、ドンっと大きな音がして、部屋の扉が揺れた。
びっくりして振り向けば、扉は破裂するように開いて、そこからいくつも真っ黒な虫のような姿をしたものが飛び込んでくる。
なんだ!? 魔物か!??
だけど城には、結界が張ってある。中に魔物が入ってくることなんかないはずだ。何より、勝手に砦に魔物が入ってきたら、魔法使いたちが気づいて飛んでくるはず。
原因はよく分からないけど……驚いている場合じゃない。
僕は、魔力で短剣を作った。
今ここにいるのは僕だけじゃない。ヴァトズフィウズ様だっているんだ。
まだ、彼に対して警戒は解けない。だけど、さっきは彼がきたおかげでフォルゲソスたちから逃げられたんだし……何より、二人でここで魔物に殺されるなんて、嫌だ。
僕は、魔力の短剣で襲いかかってくる魔物たちを斬り払った。
そばでは、ヴァトズフィウズ様が、一本の杖を片手に、魔物を破壊していた。
「なんだこれは……使い魔か?」
「えっ……!?」
短剣で襲い掛かってきたものを切って、僕は、切り捨てたものを捕まえた。
崩れていくそれは、魔物っぽいけど、そうじゃない。
ヴァトズフィウズ様の言うとおり、使い魔だ。この短時間でそれを見抜くなんて……
使い魔は、魔法で作られるもので、魔法をかけた者の思い通りに動く。だから、これだって誰かが差し向けたもののはず。
僕に対する嫌がらせか?
…………もしかして……さっきのことを根に持ったフォルゲソスの仕業かな? でなかったら、キャマバラーデか??
どっちの仕業にしろ、今ここにはヴァトズフィウズ様だっているのに……
僕は魔法の剣で飛びかかってくる使い魔を切り裂いた。
けれど、使い魔は次々に部屋に飛び込んでくる。どれだけ殺しにきてるんだよ……あいつら!!
振り向けば、ヴァトズフィウズ様も同じように使い魔たちを切り裂いている。
この人まで巻き込んじゃうなんて……あいつらも、ここにヴァトズフィウズ様がいるなんて思わなかったんだろうな……
ヴァトズフィウズ様は、杖を掲げていた。
すると、光が部屋を包んでいく。結界の魔法だ。しかもこれは、魔物の侵入を防ぐためのものではなくて、魔物を結界の外に出さないためのもの。その上、結界の中の魔法を外に漏らさないものになっている。これで魔物たちは結界の中に閉じ込めたし、ここで魔法を使ったからと言って、砦に影響が出ることはないだろう。
ヴァトズフィウズ様は、僕に振り向いた。
「広範囲に破壊する魔法が得意だというのは本当か?」
「…………え……」
な、なんでそんなことまで知ってるんだ!?
驚く僕に、ヴァトズフィウズ様は飛んできた使い魔を片手で薙ぎ払ってみせる。彼の腕にも魔法がかかっている。強い魔力だ。それを腕と杖に集約させて、使い魔を片っ端から破壊している。
砦を守るための結界なんて張るから、彼自身が広範囲にぶっ壊すような魔法を使うつもりかと思ったのに。
それなのに、なんで僕に得意な魔法なんて聞くんだ?
僕を調査しろって言われてるみたいだけど、だからって……使える魔法の調査なんて、必要か? フォルゲソスに手を出したんじゃないかって疑って、僕を調査しにきたんじゃないのか?
「そ、そういう魔法は使えます……でも……ここでは使えません。制御が難しくて、僕がやると、他のものまで破壊してしまうんです」
「全く問題ない。この部屋と砦とお前は、俺が守る」
「で、でもっ……」
「俺は、消去の魔法が使える。辺りを壊しそうになった魔法は、俺が無効化してやる」
「…………」
そんなこと……できるのか??
だけど、確かにさっきから僕の魔法はずっと彼に全く効いてない。
それに、その方法なら、すぐに片をつけることができそうだ。手間取っていたらどんどん増えそうだし……
砦のことは、ヴァトズフィウズ様が守ってくれている。彼自身のことも、自分で守れるなら……
それなら、やってみるか!!
僕は、片手に魔力を集中して、それを爆発させた。
破裂した魔力にやられて、使い魔たちが粉々に壊れていく。
だけど、部屋にあるものには傷ひとつつかないし、窓すら割れない。
結界……すごい威力だな……
けれどその威力に見惚れていたら、使い魔の破片が僕の方にまで飛んできた。
しまった……自分を守るのを忘れたっ!!
間抜けに焦る僕。
だけど僕の目の前で、その破片も消えてしまう。ヴァトズフィウズ様が、魔法で破壊してくれたんだ。
さっきの戦闘のせいか、彼のかぶっていたフードが肩に落ちていて、初めてちゃんと彼の顔が見えた。真っ黒な長い髪の男で、鋭い目が、僕を見据えている。睨まれているのかと思ったけど、彼はすぐに僕に微笑んだ。
だけど……
さっきフードをかぶっていた時より、なんだか笑顔が怖いように見えたのは、気のせいかな…………
そもそも、使い魔に襲われた後なのに、なんでそんなに嬉しそうなんだ?
「素晴らしい威力だっ……!! 惚れるなっ……!!」
「は!!???」
なんなの!? なんでそんなに笑顔なの!?
しかも、めちゃくちゃ嬉しそう……
「こんな魔法が使えるとは思ってなかった!! 今の魔法はどうやったんだ!??」
「どうって…………そんなに特殊な魔法ではありません……」
「だが、あれだけの威力が出せるのはすごい。他にはどんな魔法が使える?」
「ひ、一通り…………」
「そうか……他の魔法も見せてもらいたいな…………俺の部隊に入らないか?」
「………………は?」
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