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28.迷惑ですか?
しおりを挟むドキドキしながら僕は部屋を出て、隣のヴァトズフィウズ様の部屋のドアの前に立った。
早くノックすればいいのに、緊張する……
や、やっぱり迷惑な気がしてきた……
また、余計なことばかり考えてしまう。
だって、もしも嫌そうな顔をされたら、せっかく昨日は二人で魔物退治に行けたのに、今日はそうできなくなるかもしれない。そう考えるのはやっぱり怖いし、こうしていろいろ考えちゃうのも、辛くなってくる。つまりは僕は、拒絶されるのが怖いんだ……
それに、もしかしたら、まだ寝ているかもしれない。
朝から一族のところに行くって言ってたから、帰っているかも分からないし、帰っていても、朝早くから部屋を訪れたりしたら、迷惑なんじゃ…………
ぐるぐると、僕を引き止めるような考えばかりが浮かんきて、ますます何もできなくなりそう。
困った……ヴァトズフィウズ様と、どう接していいのか分からなくなってきた……
こんなことしていいのかとか、迷惑じゃないのかとか、そんなことばかり考えてしまう。
こんな思いをするなら自分の部屋に戻ろうかとも思ったけど、持ってきたドーナツの袋を見下ろしたら、それが自分の手元にあることが寂しく思えてくる。
だってこれ、本当はヴァトズフィウズ様に渡したかったのにっ……!
僕は、勇んでドアに近づいた。
困ったような顔されたら、持ってきたものを引っ込めて謝ればいいんだ!!
決意して、ドアをノックする。
ドキドキしながら、ヴァトズフィウズ様が出てくるのを待つ。
なかなか出てこなくて、ハラハラした。
どうしたんだろう……もしかして、いないのかな?
そう思ったけど、少し待ったらガチャっと音がして、扉が開いた。
そしたら、ヴァトズフィウズ様が出てくる。昨日はつけていた魔物と戦うための装備は今はなくて、ローブも着ていない。リラックスした部屋着のような格好で、シャワーを浴びていたのか、髪が少し濡れていた。これから出かける準備中だったようだ。
「す、すみませんっっ!! 朝早くに!!」
即座に頭を下げる僕。
すると、ヴァトズフィウズ様は少し驚いたようだった。
「リュイウェリレク……どうした? 謝ることはない。少しシャワーを浴びていただけだ。気にしないでくれ」
「で、でも……すみません…………い、いきなり来ちゃって…………」
「いいや。リュイウェリレクが訪ねて来てくれて、俺は嬉しいぞ!」
そう言ってヴァトズフィウズ様は笑う。
僕が来て? なんで? 気を遣ってくれてるのかな……僕が気にしないように。そうだとしても、嬉しい……
い、今の勢いで渡すんだ! これ、昨日のお詫びとお礼ですって!! ……僕、お詫びしてばっかりだな……
だけど、なかなか言い出せなくて、もたもたしていたから、ヴァトズフィウズ様に先を越されてしまう。
「よく来てくれたな。入ってくれ。コーヒーをいれる」
「え……!? そ、それは僕がいれます!!」
「俺のいれたコーヒーはうまいぞ? せっかく来たんだから飲んでいけ」
「あ、ありがとうございます…………」
ち、違う……僕がもてなされてどうする。そうじゃなくて、お礼を言いたいのにっ……!!
恐る恐る、ヴァトズフィウズ様のお部屋に足を踏み入れる。
彼の部屋も、窓が開いていた。
テーブルには魔法の道具が並んでいて、壁には装備とローブがかけてある。いくつか杖も並んでいた。
テーブルには、少し前に入れたのか、湯気を上げなくなったコーヒーの入ったマグカップと、魔法の薬の瓶が置いてある。
これが、ヴァトズフィウズ様の部屋……
「何か、珍しいものでもあったか?」
「へ!?? あ、い、いえっ……あのっ……!! 僕、こんなふうに部屋に迎えられたのは、初めてでっ……う、嬉しくてっ…………」
慌てて言うと、ヴァトズフィウズ様は、どこか嬉しそうに笑った。
「それはよかった。何か、見たいものがあれば言ってくれ」
「あ、ありがとうございます……」
「今日はどこへ行く予定だ?」
「え、えっと…………今日は、東の方にある谷へ、魔物退治に行こうと思ってて…………そこには、結界を張って拘束している魔物がいるんです。少し前に別の部隊が見つけたのですが、倒しきれずに結界で拘束しているもので……」
説明していると、ヴァトズフィウズ様の表情がだんだん曇っていく。
どうしたんだろう……
もしかして、いきなりそんな魔物を退治に行くなんて、迷惑だった!?? よく考えたら、そんな強力な魔物退治に連れて行こうとしているんだ。ちょっと図々しかったかもしれない!!
「あ……えっと…………す、すみません……僕、あのっ……や、やっぱり、今日の魔物退治は、一人で行きます!!!!」
「なに? 急にどうした?」
「だ、だって……あ、あのっ……急にこんなことっ…………ぼ、僕の都合で、ヴァトズフィウズ様を危険な目に合わせるわけには……」
「そんなことは気にしなくていい。そうじゃない……」
ヴァトズフィウズ様は、慌てるばかりの僕に、そっと手を伸ばしてきた。
何かと思って、一歩下がる。それでも彼の手は近づいてきて、僕の頬に触れそうだった。
な、なんだろう……どうしてそんなに真剣な顔をしているんだ??
よく分からないけど、ヴァトズフィウズ様は、そっと、慰めるように言った。
「…………俺がいなかったら、グレヴロオルは、そんなところへリュイウェリレクを一人でやる気だったのか?」
「へ? あ、はい。そうだと思います」
だって、多分諦めさせようとして言ったんだし、僕がそれでも行くって言ったら行かせたんだろう。
僕が死んだところで、グレヴロオルはなんとも思わない。もしかしたら、便利な使い捨てが死んでフォルゲソスが怒らないかとか、リギューラ家になんて言おうとか、そんなことは思うかもしれないけど、多分それだけなんだろうなー……
けれど、ヴァトズフィウズ様は、真顔で僕を見つめている。
「これからは、そんなところに行く時は、必ず俺に言え」
「え……でも…………」
「でもじゃない。かならずそうしろ。一人では行くな。魔物退治で命を落とす魔法使いが多いことは知っているだろう?」
「…………」
確かに、知っているけど……そんなに真剣な顔をして言われるなんて、思ってなかった。
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