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59.手に入らなかった
しおりを挟む「でも……一族の方は…………」
僕が首を傾げて言うと、ヴァトズフィウズ様は、「もう話はつけた」と言って、少しいたずらげに笑う。
「リュイウェリレクの魔法も見せてもらったしな。部隊に入らないか?」
「…………」
ヴァトズフィウズ様の、この、部隊に入らないか? っていうの、何回聞いただろう……
いつも聞いているから、それを聞くたびに安心してることにも気づけなかった。こんな僕でも、必要としてくれて、手を握って一緒にいこうと言ってくれている人がいることが嬉しい。そのたびに、僕にそんなこと言ってくれる人がいる訳ないって思ってしまってたけど……
「……ごめんなさい……」
僕が言うと、彼はまるでその返事を予測していたかのように、肩をすくめて冗談を言うような軽い口調で言う。
「なんだ、またダメか。せっかく砦の覇権も手に入れたのに」
「あ、ちがっ……そうじゃなくてっ……」
今のは、断る意味で言った「ごめんなさい」じゃない。
僕って、なんでこう間が悪いんだ!
僕だって、昨日覚悟を決めて、ここに来たのに。
焦るばかりの僕に、ヴァトズフィウズ様は近づいてくる。
僕に断わられたと思っている割には、やけに自信に満ちたように笑うから、僕は、微かに一歩下がってしまう。
「あ…………」
「俺はもう砦の管理者だからな。命じることもできるんだぞ?」
「え………………っ!!」
下がりすぎて、いつのまにかすぐ背後に壁があった。どうしよう……急に逃げられない。
それなのに、ヴァトズフィウズ様が迫ってくるから、僕は怯えるばかり。
彼の手が僕の腰に回って、動けない僕に、ヴァトズフィウズ様が微笑んだ。
「……冗談だ」
「え…………」
「……リュイウェリレクがここを出るためにこれまでやってきたことを、俺は知っているからな」
「…………」
そんな顔で笑うなんて、ちょっとずるい。
僕だって、ちゃんと言おうと思ったのに。僕は、ヴァトズフィウズ様といたいって。
せっかく砦の覇権だって手に入れたんだし、ヴァトズフィウズ様がここにいなきゃならないなら、僕の方が今度は何度も会いに来る。そう言いたかったのに……そ、そんなに近づかれると……
ヴァトズフィウズ様に腰に手を回されて、抱き寄せられると、僕の胸と彼の胸が擦れて、ますます声が出なくなりそうだ。
じっと僕を見下ろす彼と目があってしまい、僕は、慌てて顔を背けた。
こ、この距離はおかしくないか!? 抱き合ってるみたいじゃないか。
「…………あ、あの……ヴァトズフィウズ様…………あの……」
離れてって、言わなきゃ。そうしないと、言いたかったことも言えない。そんなふうに焦れば焦るほど、心臓が高鳴るばかりだ。
「あの…………」
ダメだ。離れてって言わなきゃならないのに、離れてって言えない。
黙り込んでしまう僕。
すると、ヴァトズフィウズの腕に力が入る。抱き寄せられて、微かに感じる痛みが、気持ちいいと思ってしまう。
「命じることは諦めるが…………俺は、リュイウェリレクといるからな」
「え…………!??」
びっくりして、見上げる僕。
すると、やっぱりヴァトズフィウズ様は、余裕な表情。なんかずるい。僕だけ息苦しいのか? 呼吸するだけで緊張して辛いのに……
「あ…………あのっ……」
「覇権は手に入れた。砦も俺のものになったのに、リュイウェリレクは手に入らなかったな…………本当に、頑なだ」
「あっ……その……」
「……それでも俺は、リュイウェリレクと一緒にいるし、諦めるつもりもないからな」
「へっ……!??」
ちゅって、僕の頬に彼の唇が触れた。
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