嫌われた王と愛された側室が逃げ出してから

迷路を跳ぶ狐

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chap4.堕ちる城

45.気づけない視線

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 シグダードとフィズが案内されたのは、洞窟の中にある温泉だった。

 シグダードが、案内をしてくれた狐妖狼に礼を言うと、彼は仲間のところへ戻っていく。
 身につけたものを脱いで湯に体をつけると、疲れがすっと消えていく気がした。

 フィズは、シグダードから少し離れたところで湯につかっている。

「……シグ、本当に悪いこと、考えてないですよね?」
「ああ、もちろんだ」
「……」
「フィズ……こっちに来たらどうだ?」

 シグダードがフィズを誘っても、彼は顔をそむけてしまう。

「……嫌です」
「私のことを警戒しているのか?」
「…………け、警戒してます。本当に悪いこと、考えてないんですよね?」
「……当たり前だ」

 フィズの警戒と怯えが分かって、シグダードは、ひどく寂しかった。
 少し前まで、いつもシグダードのことを愛おしげに見上げてくれたのに、今のフィズは、目も合わせてくれない。

 彼の心が離れてしまっている。そう思うと、辛かった。
 散々傷付けたのは自分なのに、彼が振り向いてくれないと、それだけで苦しい。

 もう、シグダードも分かっていた。

 彼を失うなど、考えられないことを。

「フィズ…………」
「……なんですか?」
「もしも……城の毒が無事消えて、キラフィリュイザと皆が無事で……その時、私がまだ生きていたら……」
「シグ?」

 緊張の下から無理やり引きずり出すように言葉を続けると、フィズはやっと顔を上げて、シグダードに振り向いてくれた。

 彼に見つめられると、ひどく緊張した。いまだかつて、こんなに緊張したことがなかったシグダードは、一度ゆっくりと息を吐いて、一気に言葉を出した。

「私の妻になってくれないか?」

 シグダードの偽りではない求婚に、フィズはあからさまに焦り出す。

「え……あ……え……??」

 彼はひどく狼狽していたが、すぐに俯いてしまう。

「ま、また……そんなこと言って……す、好きじゃないくせに! 好きじゃないのにそばにいろとか……シグはそんなことばっかりです!」
「好きだ」

 一時は、フィズへの思いが分からなくなった。フィズの正体を知り、彼を憎んだ。惚れ薬のことを知った時は驚いた。今も、雷魔族への憎悪は消えない。

 それでも、フィズを失いたくない。

 誰も愛さず、誰からも愛されることがなかったシグダードには、フィズから受けた恋慕は決して忘れられないものだった。

 けれどフィズは、シグダードの告白を聞いて、首を横に振ってしまう。

「う、嘘ですっ……そんなの……!! だ、だって……私は……雷魔族……」
「ああ。お前を嫌う理由はそれだ。それだけだ」
「……シグ…………」
「そうであっても、お前にそばにいて欲しい。お前を失いたくない。お前が私の前からいなくなるなど、我慢できないんだ」
「……」

 フィズが、シグダードに振り向く。風呂で温められ、火照った顔で見つめられると、今すぐ彼の体を奪ってしまいたくなる。

 しかし、シグダードに返ってきたのは、大嫌いな名前だった。

「だ、だったら……ヴィザルーマ様とも仲良くしてくださいっ……ヴィザルーマ様を嫌う理由も雷魔族のことだけでしょう?」
「……嫌だ」

 あんまりだと思った。

 真剣に、しかも一生分とも言える勇気を振り絞って求婚したのに、こんなときにあんな男の名前をだすなんて。

 しかし、シグダードの怒りに気づかないのか、フィズは驚いたような顔をする。

「なんでですか?」
「魔族のことがなかったとしても、あの男は気に入らない。あの男、お前ばかり見ているぞ」

 それは、シグダードが四人で城を出た時から気づいていたことだった。

 ヴィザルーマはフィズばかり見ている。その視線に、フィズは全く気づいていないようだし、気づいたとしても、そんなヴィザルーマの真意に気づくことはないだろう。

 案の定、フィズは的外れなことを言い出す。

「それは……ヴィザルーマ様は……私のことを心配しているからです……」
「お前はあいつの側室だったんだろう?」
「だ、だからっっ!! それは形だけだと言ったじゃないですか!! 私とヴィザルーマ様は、そんな関係ではありません!! わっ……!」

 フィズは憎いヴィザルーマの側室だった。自分でその事実を口にしてますます苛立ったシグダードは、フィズを強引に引き寄せ、深く口づけた。

 フィズに抵抗されると、ますます許せなくて、シグダードは、彼を押し倒し、唇を無理やり開かせ、舌を絡める。

「ん……」

 口を塞がれ、彼が苦しげに呻く姿に煽られそうになるが、もうフィズを苦しめたくなくて、離してやった。

「……し、シグ…………」
「返事をしろ」
「……え?」
「求婚の返事だ。妻になれと言っているだろう。なるのか? ならないのか?」
「……」

 フィズは、少し俯いて、やはりまたあの苦しそうな目で答えた。

「……迷っているんです…………ほ、本当に、私はシグのそばにいていいのか……」
「もう…………私のことは、好きではないのか?」
「そ、そうじゃありません! 好きですっ……!! なんで……ずっとこんなに好きなのか、分からないくらい……ただ、私は雷魔族だって黙ってて、一度シグをひどく傷付けて……魔族だってことだけじゃなく、薬のことも…………それなのに、シグのそばにいていいのか、分からないんです。それに……シグは…………ひ、ひどいことするし……ルイのことだって……! 今は、何より先に彼を助け出さないと……」
「…………」

 ルイのことを話す彼は、ひどく悲痛な顔をしていた。彼はルイを大切な友人だと思っているし、あの城でずっと泣いていたフィズにとって、ルイは唯一の支えになっていたはずだ。あの竜をフィズのそばに置いておきたくないが、散々傷付けてきたフィズに、本当のことを話せない。

 そして、まだ薬によって作られた思いに戸惑っていることも、雷魔族への憎悪も、彼には見抜かれている。シグダードの中にある迷いを、彼は感じ取ってしまっている。

 彼が迷うのも、当然だと思った。

 しかし、次の一言は許せなかった。

「そ、それに……ヴィザルーマ様にだって」
「──っ!!」

 ヴィザルーマの名前を聞いた瞬間、シグダードは、フィズを引き寄せ、再び口付けていた。

 強引なキスに、フィズが動揺している。しかし、こちらの思いどおりになる気はないらしく、彼が暴れ出す。

 拒絶されると、ますます力を込めてしまう。

 彼を手に入れたい。離れていくことが許せない。

 特に、こんな時に、あの男の名を呼ぶなんて。

 この手だけは使わないでおこうと思っていたのに、気づけばシグダードは、彼に魔法をかけ、水でできた鎖で彼を宙吊りにしていた。

「な、何するんですか! シグっっ!! はなしてください!」
「黙れ!! 人がまじめに求婚しているというのに、あんな男の話をするなど、どういうつもりだ!」
「わ、私はヴィザルーマ様の話がしたいんじゃありません!! それに、ヴィザルーマ様と私はなんでもありません! そんな関係じゃないと何度言えば」
「そう考えているのはお前だけだっっ!!!!」

 ヴィザルーマの視線に気づかないフィズに、シグダードが怒鳴っても、フィズはそんなはずないと否定するばかりだった。







 シグダードは、城を出る時から気づき始めていた。ヴィザルーマがフィズを見る目に。

 何が形だけの側室だ。あの男がフィズを見る目は、王でもなく友人でもなく、男の目だ。

 フィズは全く気づいていないようだが、あの男は彼を欲情の混じった目で見ている。

 フィズの方には、全くそういった様子がないから、彼は本当に友人だと思っていて、ヴィザルーマに対してそれ以外の感情はないのだろう。

 それなのに、ヴィザルーマのことを信じて疑わないフィズの態度が許せない。

 彼の身の安全を確保するために身分を与えたというのは事実なのかもしれない。しかし、身分を与えるなら、なにも側室などではなくて良かったはずだ。わざわざ側室としたのは、そういう感情からだろう。

 面と向かって思いを伝えることもせず、きれいな理由をつけて、あの男がフィズを側室にしていたかと思うと、シグダードは今すぐヴィザルーマの首を切り落としたくなった。

 しかし、今はそれより、目の前でいやらしく体をくねらせているフィズの方が先だ。他の男の劣情の視線を浴びながら、全く気づかないばかりか、その男のことばかり気にかける彼に、じっくり分からせてやりたい。

「し、シグ! お願いです!! はなしてください!」
「嫌だ。はなして欲しかったら、二度とヴィザルーマのことを口にしないと誓え」
「い、嫌です! そんなこと、あなたに命令されるいわれはありません!」
「そうか……」

 カッとなったシグダードは、魔法を操り、彼を下ろす。解放するためではなく、床に捕らえるために。
 魔法で粘性を増した湯で彼を床に押さえつけてやると、無駄な足掻きなのに、フィズが暴れ出した。

「……や、やだ……シグ! シグ!! はなしてください! お願いします! シグ!」

 どろどろした液体に体を絡め取られながら、床で足掻く姿に、シグダードの中心が熱を持ち始める。

「早く約束した方がいいぞ」
「な、何をですか?」
「誓えと言っているんだ! 二度とヴィザルーマの名前を口にしないと誓え!!」
「なんで…………そんなこと……嫌です!」
「お前は気づいていないが、あの男は色々と綺麗事を抜かしながら、お前をいつもいやらしい目で見ている。お前を差し出したのも、本当はいつまで経っても自分に振り向かないお前を側に置いておくのが嫌になったからじゃないか!?」
「なっ…………そんなこと……ヴィ……ヴィザルーマ様は……そんな理由であんなことしません! ひゃっ……!」

 何度目か分からないヴィザルーマの名前に頭に血が上り、彼の後孔にどろっとした液体を入り込ませる。

 最後通告のつもりで、床で踠く彼の隣に腰を下ろし、シグダードは囁いた。

「早く約束しろ」
「嫌です!」
「……」

 分かってはいた。こういうことをすると、フィズはひどく頑なになる。そして絶対にひかない。分かってはいても、こちらも退けない。ここで退いたら、ヴィザルーマに負けたようではないか。

 どろどろした液体を少し固めたもので、彼の内壁をすってやる。奥の柔らかいところをわざと優しく刺激してやると、彼は床で官能的にのたうち回る。

「あ……う……や、やだ! シグ! やめてください!」
「約束するか?」
「しません! こんなことするなら絶対にしません!」
「……泣き叫んでもやめてやらんぞ」
「やっ……やああぁっ……やっ……あぁっ……!」

 体を捩らせ嬌声をあげる扇情的な姿に、ますます煽られてしまう。

 自分の魔法に翻弄されている彼が、自分の足元でどろどろに濡れながら喘いでいるのを見ていると、もっと苛めてやりたくなる。

 シグダードは、フィズを宙に上げた。

 宙吊りにされ足掻くフィズを、訳も分からないくらいによがらせてやりたい。その欲望を抑えるのも、もう限界だ。

「フィズ……苦しいだろう?」
「う……や……」
「早く言った方がいいぞ」
「い、嫌だ…………」
「相変わらず強情な奴だな」
「あっ……ああぁぁっ……!」

 魔法で中を好き勝手に抉ってやると、ぐちゃぐちゃと淫靡な音が響く。

 湯で濡れ、彼の肌は赤らんでいる。甘い色香に吸い寄せられ、乳首を咥えてやると、彼の体が一際大きく震えた。

「いやぁぁっ……! やだっ……! シグ! う……あ!」
「言うまでイカセてやらんぞ」

 膨らんだ彼の屹立の根元を握ってやると、彼は低い呻き声を上げる。自分が与える快楽に対して、無駄な抵抗を繰り返す彼が堕ちるところを見たい。

 鈴口の先を弄ってやると、耐えきれなくなったのか、彼は涙を流し始めた。

「あっ……んんっ……! いやっ……そこっ……!」
「フィズ、言うことを聞いた方がいいんじゃないか?」
「……やだ……」

 もうここまでくると、何をしようが、彼は絶対に言わないであろうことは分かっていた。こんなことをして言う男じゃない。下ろしてやって、紳士的に優しく話してやれば、ともすれば言うかもしれない。

 ヴィザルーマの視線に全く気づかない彼だ。本当にあれのことはなんとも思っていないのだろう。

 しかし、手をゆるめる気にはなれなかった。
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