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chap4.堕ちる城
49.黙っていられない正体
しおりを挟むグラスに入ってから一番近い村で、正体を隠し馬を借りた四人は、一日ほど馬をとばし、城壁に守られた城下町の門まできていた。
木の陰から門の様子をうかがっていると、フィズは、暗いのだからあまり警戒しなくてもと思ったが、それはあっさりシグダードに否定された。日が暮れ、辺りは薄暗いが、用心するに越したことはないらしい。
国境の門より、こちらの門の方が警備は手薄なようで、門の入り口には一人の兵士しか立っていない。
こんな時間にこんなところへやってくる人間は少ないせいか、兵士は暇そうにあくびをしていた。
フィズ達が、遠くから魔法で気絶させるかと話していると、ヴィザルーマが何か思い出したように呟いた。
「あれは……ミズグリバス……なぜここに……」
「知り合いですか? ヴィザルーマ様」
フィズが聞くと、ヴィザルーマは頷いた。
「ああ……呼んでみるか……」
そう言って、ヴィザルーマはその場でとても小さな雷撃を光らせた。
その光に気づいたのか、ミズグリバスはこちらに駆け寄ってくる。水色の短い髪の、少し神経質そうな顔をした男だ。
「その魔法は……まさか……ヴィザルーマ様?」
「ああ。久しぶりだな。ミズグリバス」
ヴィザルーマの姿を見たミズグリバスは、破顔して目に涙を浮かべ、ヴィザルーマの手を取る。
「ヴィザルーマ様! まさか……ヴィザルーマ様……良かった……あなたが……お戻りになられて……」
「……? ミズグリバス?」
ヴィザルーマが名前を呼んでも、彼は言葉を濁らせ、うつむいてしまう。
「とにかく、こんなところにいては危険です。こちらへ……」
うなだれたままの彼の様子を訝りながら、四人は彼についていくことにした。
*
ミズグリバスに案内されたのは、城門近くにある小さな屋敷だった。彼の自宅らしく、生活に必要なものは一式揃っているが、使用人は誰もいない。彼の話では、給料を減らされて、人を雇うことができなくなったらしい。
小さなテーブルを囲んで座るフィズたちにコーヒーをいれながら、ミズグリバスは重たい口調でグラスの現状を話し出した。
「チュスラスは……国民すべてに兵役義務を課して、隣国に攻めいる気です」
それを聞いたヴィザルーマは深いため息をついた。
「チュスラス……」
「あれは、キラフィリュイザを落としたと得意になっているようで……」
「……そんなこと……元老院が許さないだろう」
「チュスラスに反対すると、反逆者だと言われ処分されます」
「……」
チュスラスの横暴極まりない振る舞いに、ヴィザルーマは言葉を失う。
しかし、非情な方法で王座についたチュスラスだ。ヴィザルーマもある程度のことは予測していたようで、コーヒーを一口飲んでから、ミズグリバスに問いかけた。
「こちらにルイが帰ってきたという話は聞かないか?」
「ルイ? あの生意気な金竜ですか? 私は聞いておりませんが……」
「そうか……」
城の内情を知る彼でも知らないということは、まだ城には行っていないのだろうか。
フィズは、ルイの行方が未だに知れないことに不安を隠せなかった。
「ルイ……ルイを早く見つけないと……」
「あの竜が何か?」
ミズグリバスに聞かれて、フィズが、今起きている事態を話すべきか悩んでいると、隣のシグダードに肩をたたかれ止められた。話さない方がいいという意味かと思った。
しかし、今度はシグダードが口を開いた。
「ルイは必ず城に行く。あいつはグラスを潰したいはずだからな」
「グラスをつぶす!? あの竜が!?」
不穏な言葉に、ミズグリバスが悲鳴じみた声を上げる。
シグダードは鬱陶しそうに言った。
「うるさい奴だ。臆病者め」
「お、臆病者!?」
「そうだろう。こんな奴が兵士だとは、呆れたものだ」
「無礼な方ですね! だいたい、あなた誰ですか!?」
誰、と聞かれても、まさか本当のことは言えない。
ミズグリバスに会った時から、フィズがシグダードのことを「シグ」と呼んでいたので、それをそのまま偽名にすることにして、ヴィザルーマが「この三人は自分に協力してくれている貴族だ」と適当なうそをついた。
「ミズグリバス、城はどうなっている?」
「城は常に厳戒態勢です。長い手続きを経ないと、外から中にははいれません」
「だが中に入らねば……皆死んでしまう」
「ヴィザルーマ様?」
「早く……毒が回る前に……」
「…………内側から認められなければ、けして門は開きません。外からいくら求めても……」
ミズグリバスとヴィザルーマが頭を抱える中、シグダードが立ち上がった。
「あいつらが門を開けなくてはならない状況を作ればいい。キラフィリュイザの王を簡単に殺せると思い込んだ、あいつらの負けだ」
「え……き、キラフィリュイザの王?」
驚くミズグリバス。
ヴィザルーマは頭を抱え、リーイックは呆れかえったようにため息をついていた。
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