188 / 290
chap11.深く暗く賑やかな森
188.届かない報告
しおりを挟む「アメジースアが、チュスラスに接触したらしいよ」
城のバルコニーで、使い魔から伝令が書かれた紙を受け取ったアロルーガは、円卓についたストーンに伝えた。
それを待っていたであろうストーンは、面白くなさそうに、円卓を叩く。
ストーンは今、こちらに戻ってきているが、だからといって城の状況を全く知らないわけにはいかない。
そこで、王城に忍ばせておいたスパイに、こうして使い魔を使って連絡させることにしたのだが、それから受ける一番最初の連絡が、身内が反旗を翻したことになって、アロルーガですら、多少は落胆していた。
あの城には今、イルジファルアがいる。だからこそ、アメジースアを置いてきたと、ストーンは言った。城にいて、チュスラスと、あの鳥の製作の動きを、ストーンに報告するようにと言いつけていたらしい。
自慢の武器らしいチュスラスの塔に、他の貴族が近づくことをチュスラスは嫌がっていたし、いずれあれを、貴族たちに向けることがあるかもしれない。あれの詳細を知るためにも、アメジースアには、折を見て、チュスラスに近づくように話しておいた。
しかし、甥であるアメジースアは、確かに以前はストーンを尊敬していたが、ストーンがリリファラッジに夢中になるにつれ、だんだん呆れ、最近では見限ったとも取れるような言動が増えてきたことに、アロルーガは気づいていた。そろそろ裏切るのではないかと思っていたが、案の定だ。
今回、チュスラスに近づいたのも、カウィ家の領地に兵をやったのも、こちらには一切、報告がなかった。すべて、アメジースアの独断だ。
カウィ家が作っていた塔の詳細についても、まるで連絡がないどころか、こちらからやった使者ですら門前払いの上、アロルーガがやった使い魔も破壊されたらしい。
カウィ家の鳥については、アメジースアに先を越されてしまった。
カウィ家の方は、守りが固く、間者を送り込むことは無理と判断し、城下町の作業所に誰かをやるつもりだったが、ストーンがこちらに戻ったことで、対応が遅れてしまった。ヴァルケッドがそこにいたことで、油断してしまったせいもある。ヴァルケッドには、何か動きがあれば報告するようにと言いつけていたが、作業所では、他に間者の気配はなかった。
何よりアメジースアが、カウィの領地に兵をやるなど、そんな思い切った行動に出るとは思っていなかった。
アロルーガは、バルコニーの窓を閉めて、ストーンに向き直った。
「どうやら敵は、イルジファルアだけじゃなかったみたいだね。どうするんですか? スティさま」
にっこり笑うアロルーガに、ストーンはどこか不満そうに言う。
「……リリファラッジの真似はやめろと言っているだろう」
「使い魔によると、あいつはチュスラスに近づいて、チュスラスが作ってた例の兵器の作業所を任されることになったらしい」
「……魔力で動く化け物め……」
「あの役立たず王、勝手に動き出してる。黙って座っててくれれば、悪いようにはしないのに……あの兵器は、チュスラスが秘密裏に作ってて、任されたカウィ家以外は、あれに近づけようとしなかった。カウィの連中も、よくやる……あんなもの、いずれ自分達の命を奪うのに」
すると、エクセトリグが、会議の合間に運ばれてきたケーキを食べながら言った。
「どう言う意味だ?」
「……魔力なんて、そう簡単に扱えるはずがない。何はともあれ、あんなものの情報を、アメジースアだけに持っていかれるわけにはいかない。あいつはすでにカウィ家をおさえてる。このままだと、全部アメジースアのものになる」
すると、見限られた本人であるストーンが、テーブルを殴りつけて、立ち上がった。
「そんなことはさせない。アロルーガ、誰か一人、アメジースアに気づかれない者を、作業場へやれ」
「ヴァルケッドは? あれが先に潜り込んでたんじゃなかった?」
「あれは今、イルジファルアの方に集中させている。お前は使い魔を使って逃げたヴィフを回収しろ。あの塔の秘密を知ってる男だ」
「そんなにいくつも僕に言いつけないでほしい。ストーンはいつも、無茶ばかり言う。そんなんだから、アメジースアに不意打ちされた。スティ様!! 末端の管理、失敗してます!」
「うるさい。アメジースアに任せるんじゃなかった……とにかく急げ。逃げたヴィフを探して、いくつかの家が追っ手を出している」
「だったら、僕らだけ使い魔じゃ心もとない。魔力で遠くから動かすだけの使い魔だと、不測の事態には対処できるかわからない」
「……分かっている」
ストーンは、歯噛みしていた。悔しい気持ちは、アロルーガも同じだ。
アメジースアに不満があるのは分かっていたが、突然だった。何より、なぜアメジースアだけでこんなことができたのか、不思議でならない。チュスラスの塔がいくつも保管されていたカウィ家が、こうも簡単に落ちるなんて。
「……こんなことが、アメジースアだけにできるはずがない。何か別のものの力を借りたとしか思えない」
アロルーガがつぶやくと、エクセトリグも、真剣な顔で言った。
「誰かと組んだのかもしれないな……イルジファルアじゃないのか? あのイルジファルアが、カウィ家の動きを黙って見ているはずがない」
「……どうかな……イルジファルアとは限らないと思う……」
「とにかく、早くイルジファルアのことを聞き出せ! あのティフィラージという男の尋問はどうなっている!?」
「すぐには聞き出せない。イルジファルアが作ったものだから。簡単に、口を開くわけがない」
「だったら、もうここに置いておいても無駄だ。殺せ」
「焦らないで。ちゃんと、話せるようにしてやるから」
呑気なアロルーガに、ストーンは言った。
「勝算はあるのか?」
「ある。もちろん」
そう言って、アロルーガは部屋を出た。
*
全く、ストーンには困ったものだ。そう思いながら、アロルーガは、廊下を歩いていた。
ストーンの最近の苛立ちは、日を追うごとに膨らんでいっているようだ。うまくいかないようなことばかりの上に、身内からも裏切られたのでは、苛立ちを感じるのも仕方がないのかもしれないが。
城の階段を降りて、アロルーガは、ティフィラージを拘束した部屋まできた。
扉を開けると、ティフィラージが両腕を拘束されて柱に繋がれているはずだった。
それなのに、そこには彼を繋いでいた鎖しかない。長い間、彼は飲まず食わずで弱りきっているはずなのに。アロルーガが用意した鎖を千切るなど、そんなことができるはずがない。
アロルーガは、歯噛みして部屋を見渡すが、そこにはすでに誰もいない。ティフィラージを繋いでいた柱のそばに、千切れた鎖が落ちているだけだ。そう簡単に、これが千切れるはずがないのに。
落ちた鎖を拾い上げる。これには、大地から湧き出る力、神力をこめていたはず。それが全て抜けている。一体、どうなっているのか。
考えたところで分かるはずもなく、アロルーガは怒りを押し殺し部屋を出た。
「この城で……僕から逃げられると思うな……」
アロルーガは、ポケットの中の瓶を取り出した。その蓋を開けると、中から神力を帯びた水が飛び出してくる。それは、アロルーガの周りをからみつくように飛んで、光を増していく。アロルーガは目を光らせ、ティフィラージを探しに行った。
0
あなたにおすすめの小説
義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。
竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。
あれこれめんどくさいです。
学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。
冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。
主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。
全てを知って後悔するのは…。
☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです!
☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。
囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
藤吉めぐみ
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる