嫌われた王と愛された側室が逃げ出してから

迷路を跳ぶ狐

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chap11.深く暗く賑やかな森

196.塔の上の内緒話

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 不満はあったが、これ以上は無駄だというバルジッカの言うことを聞いて、シグダードは、村の男に連れられるままに、城の奥にあった、古い塔まで来た。不満ではあったが、これ以上は何を言っても無駄だろう。

 古ぼけた塔を登り、その一番上にある部屋に通されたシグダードは、床に腰を下ろす。
 その部屋は、窓があるだけの、とても客人を通すとは思えない部屋で、まだ疑われていることの証にも思えた。

 シグダードは、苛立ちながら床を拳で叩きつけた。

「くそっ……! なんなんだあの使者は!! 守るだのなんだのと!! 何が守るだ!! あいつはリューヌを殺す気だぞっ……! なぜあんな男に従うんだ!!」
「落ち着けって。シグ」

 バルジッカが、シグダードの背中を撫でて宥めてくる。

「向こうにしてみれば、ヴィザルーマってのは絶対なんだろ」
「ふん。下衆の言いなりか!! ここの連中は!! おい! ジョルジュ!! ここはどうなっているんだ!?」
「やめろっ!! そいつに当たっても意味ないだろ!!」

 ジョルジュを気遣ったのか、バルジッカは、いつもより少し強い口調でシグダードを止める。

 しかし、とうのジョルジュは、そんなことを気にする余裕もないようで、窓の外をのぞいたままだ。

「……ここはおかしい。タトキたちが襲われているのに、なぜあの村が襲われていないんだ……?」

 すると、部屋の端で震えていたタトキが、こちらを睨みつけて言った。

「……お前たちが何かしたんだろう……」
「なんだと?」

 振り向いたジョルジュに、タトキは敵意のこもった目を向けている。彼のそばでは、目を覚さないウロートとアズマが横たわったままだ。

「アズマたちも起きないっ……! お前たちが森を奪いにきたんだ!! 人族め!! 野蛮な侵略者め!」
「貴様っ……! 俺たちの仲間を食っておきながら!!」

 言い合いになってしまうジョルジュとタトキの間に、バルジッカが入った。

「やめろっ……! こんな時に、内輪揉めしてどうするんだよ!!」

 誰もが苛立っている。リューヌも連れて行かれたままだ。

 焦りばかりが生まれてくるが、バルジッカの言うとおりだ。ここで争っても仕方がない。

 シグダードは、腕を組んで言った。

「とりあえず、ここで起こっていることを知りたいな……」

 するとバルジッカが、シグダードに幾分冷たい口調で忠告してくる。

「お前がそんなんじゃ、情報なんか集める前に、俺たちはすぐに死刑だ。とりあえず、ヴィザルーマって言われたら、敬うふりのひとつもしておけ」
「蛆虫に傅くより嫌だ」
「それよりはマシだろ! おい!!」
「そんなことより情報を集めるぞ。そうだ」

 シグダードは、塔の窓から顔を出した。塔の下には、罪人の監獄でも見張るかのごとく、二人の男が立っている。

「おーい!! そこの二人!! 聞こえるか!? 腹が減った!! 飯を持って上がってこーーーい!!!!」

 シグダードが叫ぶと、下の二人は面倒臭そうにしていたが、一人が城の方へ戻っていく。誰かを呼びに行ったのだろう。

 成功したと思ったシグダードは、ニヤリと笑って、バルジッカたちに振り向いた。

「これでいい……あいつが上がってきたら……」

 すると、長い付き合いのバルジッカはすぐに頷いて、ジョルジュに言った。

「ここは俺たちに任せろ。お前はそこにいてくれ」
「……うまくいくのか?」

 ジョルジュはまだ不安げだったが、バルジッカは、シグダードと顔を見合わせ、深くうなずいた。

「ああ。多分な。俺たちに任せておけ」







 シグダードたちがしばらく待つと、待ち人はやってきた。さきほど塔の下にいた男に連れられて、パンの入ったカゴを持った背の高い男が入ってくる。灰色の短い髪からのぞく目が、シグダードを睨んでいるかのようだった。
 その男は、塔の下にいた男に、後は俺だけで大丈夫だと言って、彼を塔の下に返すと、自分は部屋の中に入ってきた。

 チャンスだ。

 シグダードとバルジッカは、待ち伏せていた天井から飛び降りて、その男に飛びかかった。

「うわっ……!」
「さあ、話してもらおうか!?」

 シグダードに背後から馬乗りになられて、男はバタバタ暴れていた。

「やめろっ……! 俺は飯を持ってきただけだ!!」
「分かっている。だが、こっちも必死なんだ。情報が欲しい。さあ、話してもらうぞ」
「ふざけるな……! どけって……! 話ならしてやるから!!」
「なんだと? 話す気なのか?」

 シグダードは、驚いた。大人しく話すとは思わなかったからだ。ここの住人たちは、すでにあの使者の男の言いなりだと思っていたのに。

「……どういうことだ?」

 シグダードが首を傾げて男を解放すると、男は苛立ちながら、立ち上がる。

「乱暴な奴らだ……いいか? 俺はヘッジェフーグ。お前たちが、本当にヴィザルーマ様に選ばれたものかどうか、調べるように言われている」
「調べるだと?」
「早い話、ヴィザルーマのいうこと聞く奴らかどうか調べてこいってことだ!」
「誰が聞くか! あんな外道!! 蛆虫以下のクソだぞ!」

 先ほどの話はすっかり忘れてシグダードが怒鳴り散らすと、バルジッカは頭を抱えてしまう。

 ジョルジュもフィズも苦い顔をしていたが、男は、シグダードの言葉に怒りを覚えるどころか、むしろ、ニヤリと笑って言った。

「やっぱり……そうか」
「……どういうことだ?」

 ヘッジェフーグは、周りを気にしているようで、キョロキョロしてから、ドアの方に駆け寄り、それに耳を当てて、ドアの向こうに人の気配がないことを確認してから、シグダードたちに振り向いた。

「……俺も、あの使者に従うつもりはない。あいつにも、ヴィザルーマにもだ」
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