嫌われた王と愛された側室が逃げ出してから

迷路を跳ぶ狐

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chap13.最後に訪れた朝

267.受け入れない条件

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 ファントフィを連れて飛んだアロルーガは、城の塔の屋根に立って、ファントフィに振り向いた。

 ここからだと、ストーンの城や、その向こうに広がる美しい港町、海を見下ろすことができる。そうしていると、アロルーガはいつも落ち着くことができた。

 アロルーガは、この領地が好きだった。蝶水飛族である自分を、他と分け隔てなく迎えてくれたストーンには感謝しているし、ここは、アロルーガにとって、大切な場所だ。

 たとえ相手がララナドゥールからの使いであろうと、それを壊すことは許さない。

 アロルーガは、背後に立ったファントフィに振り向いた。

「君が来るなんてね……ララナドゥールはどういうつもり?」

 すると、ファントフィは肩をすくめる。

「どうしたもこうしたもない。ララナドゥールは相当腹を立てている。君がいながら、なんでこんなことになってるの? 力を打ち消す解毒薬を作るなんて」
「だから、それは報告でも言っただろ? あれは、偶然そういう効果を持っちゃっただけだ。僕らもこの国も僕の一族も、ララナドゥールに牙を剥くつもりはない」
「……つもりはない、では済まされない。毒がこの国で作られたのは事実だ」
「言いがかりはやめてくれる? あれはイルジファルアが依頼して作らせたものだ。お前たちも、名前くらいは知っているだろう? 死神の一族の毒狂いの仕業だよ」
「力を打ち消すためのものが、ここにあることも事実。ララナドゥールは、それを作り出したここを許さない」
「許さないって……それで、君らはどうするつもり?」
「敵意がないと分かるまで、ここは僕らが監視する」
「……ごめんだね。そんなことを言ってここに居座って、グラスの貴族たちに何をする気? 敵意なんてないって言ってるだろ? 早く帰りなよ」
「そんなわけにはいかないよ。せめて作られた毒と、その解毒薬のデータと……あとは、実物がほしい」
「……上手いこと言って、横取りにでもきた?」
「そんなつもりはない。ただ、力を打ち消すものなんて、神力を使い、術を使う種族にとっては、放っておけないものだ。君は知らないかも知れないけど、他の国も、ここに目をつけ始めている。僕は、僕とアロルーガの仲だから、こうして紳士的に話すけど、他の使者がきたり、妖精族の国あたりから使者がきたら、こうはいかないと思うなあ……」
「脅し? どこが紳士的なんだか!」

 ふざけた物言いに腹が立ち、多少馬鹿にするように言ってやると、俄にファントフィの目が冷たくなる。

「……君たちは、ララナドゥールへの報告が遅れた。敵意があると思われても、仕方がないだろ」
「……遅れてるかな? というより、知ってることを逐一報告してやる義理なんてないよ。友好的ではありたいけど、従属する気はない。僕は前からそう話しているだろ?」

 すると突然、ファントフィは飛びついてきた。アロルーガの肩を掴んで、屋根に押し倒してくる。

 彼が突然感情的になるのはいつものこと。そして、それがどの程度のものなのかも知り尽くしているアロルーガは、体に軽く結界だけ張って、その場に倒された。

 アロルーガを組み敷いたファントフィは、じっとアロルーガを睨んでいる。

「アロルーガ……僕は、何度も君をララナドゥールに誘っている。なんで来てくれないの?」
「僕は、ここが好きなんだ。ストーンたちのことも、気に入ってるからね。それに、関係ない話をするな……僕も当主のことが心配なんだ。君との話なんて、手短に済ませたいんだよ」
「……可愛くないな……じゃあ率直に話してあげる。こんなことをした責任を取ってもらう。ここで、おかしな毒と解毒薬が作られて、余計な混乱を招いた。この一族にも、疑いがかかっている。シグダードを城に招き入れただろう?」
「だから何? 彼らは、友達の踊り子を助けて欲しくて、僕らを頼ってきただけだ」
「そんな言い訳じゃ、ララナドゥールは納得しない。シグダードには、山間の村で例の解毒薬を作ることに協力した疑いがかかっている」
「協力? 変な言いがかりはやめてほしいな。シグダードは、たまたまそこに迷い込んだだけ。恋人のフィズを助けたかっただけだよ? そして、フィズに刑を言い渡したのはチュスラスだ。君が話していることは、ただの言いがかりだ。ララナドゥールが納得しないって言うなら、僕が行って説得してあげるよ」
「……やめて。また議会の場が荒れる。ただでさえ面倒な一族が多いのに……」
「じゃあ早く帰って説得してきなよ」
「だから、そんなわけにはいかないの。シグダードを招き入れ、何を考えている? ミラバラーテ家は」
「言いがかり」
「僕が話していることが言いがかりと言われるようなことであっても、ララナドゥールからは、それを調査してこいって言われてるんだ。だから、あんまり頑なな態度取らないでよ……僕は君にララナドゥールに来てほしいし、ここがどうなろうが知ったことじゃないけど、アロルーガがそこまで気に入ってるものがなくなるところを、アロルーガに見せたくないんだよ」
「結局脅しに来たのか」
「だから、違うって……!」

 言いかけたファントフィの右頬を掠めて、アロルーガが作った神力の弾が、ファントフィの背後の屋根に突き刺さる。

 しかし、先に城に向かって神力の弾を放とうとしていたのは、ファントフィのほうだ。アロルーガが止めなければ、ファントフィの弾は、屋根を貫いていただろう。

 そういう真似は許さないと言ったのに。

「…………再三話していることだけど、もう一度言う。ここのものに手を出したら……許さないから……」
「アロルーガ……久しぶりに君の力を見たよ!」

 ファントフィが飛ばした弾と、アロルーガの弾が激しくぶつかって、凄まじい音を立てて爆発して消える。

 アロルーガは、ファントフィを睨みつけた。

「ファントフィ、僕は君と争いたくてここにいるんじゃない。さっさと羽を閉まって帰れ。ここは、僕らの城だ」

 睨み合っていると、城の屋根の方から、フィズの声がした。

「あ、アロルーガさんっっ!! だ、大丈夫ですか!?」

 屋根の上から叫ぶフィズを見下ろして、ファントフィが半眼で言う。

「何あのうるさい魔族……魔族ってまだいたの?」
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